すべてを、君と。

□今宵、祭りの後で。
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「灯籠祭り?」

この夏で、奥州に来て早いことに1年が経とうとしている今日。会議中の御三方の為、お茶と冷菓を出しに政宗様の部屋に行った際、成実様が口にしたその名前に私が食いついたことで話題の中心は祭りへと移行していた。

「ああ…もうそんな時期か」

京でも祭りはあったが、盆踊りと出店が主で締めは花火といったごく一般的なものだった。故に聞き慣れない単語に惹かれた訳だが、政宗様や小十郎様のご様子だと、ここでは広く知られている行事なのだろう。

「有名なんですか?」
「そっか、茉莉花は初めてか」
「はい。初耳です」
「今月の終わりにやるんだよ。規模はそれ程でもないけど、花火が上がるし出店もあるぞ」

月末と聞いて頭の中で暦を浮かべると、あと十数日後だと分かった。

「初めて聞きました。夏祭りとはまた違うんですか?」
「うん。ほら、あの山に神社があるだろ?そこまでの石階段に灯籠が何個も置かれてな、夜行くとすっごく綺麗なんだ」

祭りの様子を語る成実様は実に楽しそうで、話を聞いているとこちらまでわくわくした気持ちになる。本音を言えば気になるし、行ってみたいと思う。できれば…小十郎様と。
しかし、ちらりと小十郎様の方を窺った私に掛けられたのは、期待に大きく反した返答だった。

「茉莉花、暇を出すから行ってきていいよ」
「あ…えっと…」

用事か、仕事か。どちらかはまだ読めないが、行けないことは確定している様子だ。口ごもる私を見兼ねたのか、成実様が代わりに小十郎様に問いかけてくださった。

「ん?今年は茉莉花と行くんだろ?」
「いや、その日は例年通り仕事だ」
「何言ってんだ、年に一度の祭りだぞ!俺が代わるって」
「馬鹿言うな。家臣に示しがつかないだろう」
「仕事人間も程々にしないと茉莉花に愛想尽かされるからな!政宗もなんか言ってやれよ」
「…今年は成実に一任していいんじゃないか」
「政宗様まで…」

成実様の強い押しと政宗様の加勢に、小十郎様はとうとう溜息混じりの一言を呟いて黙ってしまった。一気に気まずくなった雰囲気に、私は慌てて声を上げる。

「政宗様、成実様っ、ありがとうございます。でも大丈夫です、私も直前まで小十郎様のお手伝いがありますし、私だけ遊ぶなんてできません」

本心を悟られないよう微笑みを向けると、成実様はじっと私を見つめた後、何かを考えるように俯いてしまった。

「…分かった」

表情なしの、いつもより声の低い淡々とした呟きのみで感情を読み取るのは難しい。勿論、成実様が気を遣ってくださったことは重々承知していた。だけど仕事なら諦める他ないし、それでもと言うのは単なる我儘だから。
内心落ち込みそうになるのを必死で食い止めていると、突然成実様がお顔を上げてはっきりとした口調で言いきった。

「茉莉花は俺が連れてく!」
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