すべてを、君と。
□大人の男
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雀が外を飛び交い始めた早朝、腕の中で身動ぐ何かにつられて目を覚ました。寝起きのぼんやりとした視界に目を瞬く。その最中、なんとなく視線を感じて少し下に顔を向けると、同じく丁度今起きたらしい茉莉花と目が合った。
「…おはようございます、政宗様」
「おはよう…茉莉花」
珍しく同時に目覚めたことを嬉しく感じる。
頬に垂れた髪を耳にかけてやり、その流れで頭を撫でると、茉莉花がふにゃりとした笑みを見せた。
「今日も、政宗様…好きです」
半分寝惚けていると思われる口調だが、俺の心を鷲掴みにするには十分過ぎるほどだった。
恐らく赤くなってしまっているであろう顔を隠すために、茉莉花を胸元に引き寄せて抱き締める。
茉莉花と恋仲になって暫く経つにも関わらず、未だに茉莉花の言動一つ一つにときめき、喜んでしまう。女を避けてきた頃には考えられないほど、骨抜きにされている自分がいた。
…だから。
「…っ、政宗様…!?」
あまりの可愛さに当てられて、朝から茉莉花を愛してしまうのも致し方ないのだろう。
「政宗様、おはようございます。茉莉花もおはよう」
「ああ…おはよう」
「小十郎様、おはようございます」
いつもより少し遅れて執務室に向かうと、部屋の前で俺を待っていたのだろう小十郎がいた。遅れたことを詫び、入ろうと襖に手をかけた時、小十郎が下がろうとした茉莉花を呼び止めた。
「茉莉花」
「は、はいっ」
「衿を少し。…失礼」
小十郎は持っていた巻物や書物を右手にまとめ、空いた手で茉莉花の衿を軽くずらす。
先程部屋で見た際には何ら問題はなかった。執務室に来るだけではそれほど崩れない筈だが、と考えた直後に、もしやと気付きはっとそこを見た。それは茉莉花も同じようで、顔を真っ赤にして首元を押さえている。
「…成実に見つかると面倒ですから」
困ったような、それでいてどことなく涼しげな笑みを浮かべる小十郎を見て、茉莉花の熱が移った気がする。
…きっと小十郎は全てお見通しだろう。頗るきまりが悪いが、成実にからかわれるよりましと言い聞かせて、なんとか平然を装った。