すべてを、君と。

□愛しき朝
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「四がいいです」
「四?」
「はい」

うーん、と思案する様子が窺えて、私は嬉しくなる。背後から抱き締められているから表情が見えないのが残念だけれど。
いつも冷静で大人な小十郎様を相手に先手を打つことは、砂糖に混じった塩を探すより難しい。だからこそ、成功した時はとてもとても気分が良い。

と上機嫌でいられたのも束の間、気が付けば視界は天井と小十郎様の整ったお顔で埋められ、

「四は…」

両手を褥に縫い付けられていた。

「夕べの続きをする、ですよ、茉莉花さん」

悪戯な笑みから一転、今度は妖しげな艶っぽさを目許や口許に湛えていて、混乱しながらも一瞬惹きつけられてしまう。
その間に小十郎様は正したばかりの寝間着を器用に崩していて、慌てて声を上げた。

「や、待ってください、やっぱり」
「受け付けません」
「んー…っ」

私の口を黙らせるための口づけは、私がさっき頑張ってした口づけよりも遥かに甘くて深かった。





ーーすっかり身体を解かれ、いつも通りされるがままになった頃。

小十郎様は少し掠れた声で、それでも楽しそうな色を含められるくらいの余裕を持ったまま、私の耳元で囁いた。

「そんなにしたかったなら言ってくれればいいのに」

違います…そう蕩けきった頭の最後の理性が反抗したものの、実際外に出たのは声にもならない音だけで。





結局解放されたのはお昼もだいぶ過ぎた頃で、動けない私の代わりに小十郎様が作ってくださったやたらぽろぽろするおむすびを二人で分けて食べることになった。

もう二度と、絶対に、こちらから仕掛けたりするまい。
朝より機嫌のいい小十郎様を見て、強く心に決めたのだった。
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