スチームパンクファンタジー(仮)

□第二章
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そしてそれは今日も変わらずに続く予定で、いつものように朝起きて、シオンを起こし、家事をして、店を手伝って、寝て、ということをするだけの平凡な日を送る筈だったのだ。

「ええっと……。此処、何処だろう……?」

しかしながら、あろうことか、ニナが今いる場所は、自室でも店でもなかった。
心地の良い涼しい風、青々とした緑色の葉、ごつごつとした立派な大樹たち、暖かい木漏れ日………。

───── そう、ニナは今、何故だか森の中にいた。

何故だか、というものの、経緯はと言えば至極単純な話だ。「今手が離せないからこの部品買ってきてくれない?」とシオンに頼まれ、シオンの描いた地図を片手に外に出たまでは良かった物の、いざ地図を開いてみれば思いの外雑な地図で、この街の地形を未だ把握しきれてないニナには難しく、何となくこっちな気がするという野生の勘だけで動いた結果だった。途中から何か違う気がする、ともニナは思ったが、如何せん故郷を出てからあまり自然と触れ合って来なかったもので、進む度に少しずつ増えていく木々や花々に不覚にもテンションをあげてしまったことも問題と言える。私は子供か? とニナは苦笑を零さずにはいられなかった。
しかし、これからどうしたものか。第六感の赴くままにニナは行動してきた為、元へ戻る為の道筋などは覚えていなかった。ぐるり、周りを見渡しても看板など、目印になりそうなものは見当たらない。何処を見ても三百六十度、腹立たしいほど美しい自然に囲まれていた。

「……う〜ん、困ったなあ。どうやって帰ろう」

ニナは小さく溜息を零した。まさかちょっとしたお使いがこんなことになろうとは。大人しく聞きに帰れば良かった、作業中にあんまり邪魔したくないからとか思うんじゃなかった、大体師匠に聞かなくたって道行く人に聞けば良かったのでは?、そんな後悔が押し寄せてももう遅かった。迷ってしまったものは迷ってしまったのだ。ニナは今度は深い溜息を吐いて、此処に留まって一生このままよりはマシだろうと、取り敢えず前へと歩き始めた。早くこの森を抜け出して部品を買って帰らねばという焦燥感と同時に、反対に久々に触れ合う青々とした若葉やひなたの匂いに何だかんだと心を踊らせながら。
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