短編

□3秒間
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寒い空気が勢いよく頬を掠める。コートのポケットに手を突っ込み、俺はあのカフェへと足を運んだ


店に入るなり視線を左右に動かし、目的の席を見つける。



『…久しぶり』


白石「…っ、零くん…久しぶりだね」



前会った時よりも綺麗になった彼女は、少し大人びて見えた。



『急に連絡してごめん』


白石「ううん…」



麻衣さんの口数が少ないことに背徳感を覚えながら、俺はある決心をしていた。



白石「あ、そうだ」



少し小さめなバックを開き、躊躇いながら出したのは、俺が1年前に貸した小説だった。



白石「これ…返すの遅れちゃってごめんね?」


『…懐かしい。もう何年も前のように感じるよ』


白石「…ほんとはね。返したくなかった。その本」


『え…』


白石「その本を返しちゃったら…もう私たちの関係も終わっちゃうんじゃないかって…不安だったんだ」



俺は手に持っている本に目を落とす。よし。言う。言うんだ。



『「あの!」』



俺たちの声は重なり、目を合わせてはにかむ。



『…俺から先に言わせて欲しい』


白石「…うん」



緊張している彼女に目を向け、膝の上に置いている拳をぎゅっと握りしめる。



『俺…今からでも…麻衣さんと付き合いたい…って思ってる』


白石「…っ、うんっ」


『あの時はごたごたしちゃったけど、もう俺は逃げない。』


白石「…絶対?」


『絶対』


白石「3秒で終わらせたりしない…っ?」



麻衣さんの瞳には涙が溜まっていた。



『…しないよ』



麻衣さんは言葉を発さず、ただ俺の目を見て、泣きながら笑っていた。それが答えなんだって、俺にはわかった。






______________________




俺は仕事から帰るや否やベットに倒れ込む。疲れたぁ…急に重くなる瞼を必死で開く。


寝てる場合じゃない。準備しなきゃ。



シャワーを浴びて私服に着替え、コートを羽織り外に出る。



『聡、お待たせ』


聡「ったく、おせーよ!」


『いつも遅れるのは聡なんだから、こんぐらい許せよ。笑』


聡「それを言うな!!笑」



俺が聡と向かっていたのは、女性に人気のジュエリーショップだった。あんまり男ひとりで入るのは抵抗があるってことで、聡についてきてもらってるわけだ。



聡「ちゃんと予約はしてあんだろうな?」


『もち。そこに抜かりはねーよ』


聡「んで、いくらしたの」



俺は掌を目いっぱいに広げ、聡の目の前に突き出す。



聡「は?5万?んな安いもんか?」


『ばか。50だよ』


聡「ご、ごごごごごじゅう!?!?おい零!!その金俺によこせ!!」


『なんでだよ。笑』


聡「にしてもよくそんな金あったな。一括だろ?」


『聡にはできねー貯金をしたんだよ』


聡「んだとこらぁ!?できるし!!貯金なんてよゆーでできるし!!」


『はいはい。笑』



店につき、目で確かめてから受け取る。



『よし、あとは普通にケーキだな』


聡「お前さ、」


『ん?』


聡「…いや別に笑」


『んだよ』


聡「…ロマンチストだよな。笑」


『…うっせ!』


聡「でも…本当におめでとう。」


『聡…』


聡「…って、まだはえーか!笑」


『そうだな。明日また言ってくれ。笑』



ケーキも無事に受け取り、聡と別れてから家に帰る。


その足取りがいつもより速くなっていることは、自分でもわかった。
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