短編
□たったひとり
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私がその日見た場面は、これから先も忘れることは無いだろう。
学校終わりの放課後、夕陽色に染まる教室を背に向けて歩き出す
飛鳥「あ、携帯忘れた」
少し慌てて教室の方に向き直し、歩いていると大きな複数の影が私の前を遮る
西野「零…もう…幼馴染は嫌や…」
『…え?』
西野「なな、零のこと…ずーっと好きやってん!付き合ってくれへん…?」
白石「ちょっと待った!私だって!七瀬に負けないくらい零のこと好き…だよ?」
『えーっと…』
堀「先輩!私の手紙…読みました…?」
『あ、う、うん。読んだよ』
堀「先輩、好きです!大好きです!」
『皆…』
きっと付き合ってしまう。この中の誰かと如月くんは好き同士なんだろう。そんな負の感情を具現化したような言葉が次々に胸を刺しては、私の目を曇らせていった
飛鳥「えっ…私…なんで泣いてるの…?」
『ごめん!』
飛鳥「っ…?」
『皆のこと本当に大切に思ってるよ。でも…俺にはずっと好きな人がいるんだ…どうしても諦めきれなくて…だから皆の気持ちには応えられない…』
西野「…飛鳥ちゃんやろ?」
白石「告白…失敗したんだよね…?」
『うん。ダメだったよ…でも俺はまだ齋藤さんが好き。大好きなんだ…』
え…そうだったの…?
堀「何でですか…?零先輩みたいな優しい人が…あんな冷たい人を…」
冷たい人って…
『皆、誤解してるよ。齋藤さんのこと。齋藤さんいつもはあんな感じだけどさ…本当に優しい人なんだ。ずっとずっと…小学校の時から』
何とも言えない感情が頭だけでなく身体全体を支配していく。どういうこと…?私の事、小学校の時から…?
西野「…零ってほんま頑固やな…一途なまま…」
『ごめん…』
白石「そういうところ…好きだったよ…」
堀「私たち…まだ友達…ですよね?」
『もちろんだよ。俺はこれからもずっと皆と仲良くしていきたいと思ってる』
しんみりとした空気はいつの間にか華やかな笑顔に満ち溢れていて、私の中にあった気持ちが何なのか、ようやくわかった。
これがきっと…