夢と現の境界線

□01.私と邂逅
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不安
「あの、お父さま、本当に大丈夫なのでしょうか?」
 先日、私の家は此の地の闇を取り仕切るポートマフィアに楯突いた。父は自慢気に言った。
「なんだ、嶺。そんなに不安がる必要がどこにある?我が家はこれだけ大きくなった。もう奴等に下手に出て媚び諂う必要など有りはしないぞ」
父は本当に自信があるのだろう。けれど私にはそんなに自信満々に言える理由が理解できなかった。この家は確かに大きくなっただろう。けれど、この家が大きくなるのを、なったのを、ポートマフィアが知らぬ筈が無い。
この家が何れ必ずポートマフィアに楯突くことは、この裏社会では皆分かっていたのではないかと、私は思っていた。
そして今日、ポートマフィアに盾突き独立を宣言したこの家は、祝賀を謳って小さな祝宴を催している。この家は、今日、今から潰れる。私にはその確たる理解があった。父には、無い。
 私の言葉を理解できない父は、最終的に私を部屋からそっと追い出した。私を生まれた時から世話してくれている女中の茉莉が……、親友の茉莉が、私の肩を優しく抱いて、部屋へと連れて行ってくれた。
「大丈夫ですよ、お嬢様。不安は何一つないはずです。きっと明日の祝宴は上手くいきますよ」
何の根拠もなくそう言う茉莉に、私は力なく笑った。父を止めることはできそうにもなかった。

 翌日、昼過ぎから夕方にかけて、招待客が徐々に集まりだした。父に招待客の子供たち(同じ年の頃の子たちがほとんどだった)の応対を任された私は、この家にある来客室の内の二つ目の部屋へと向かっていた。一つ目の来客室は大人が集まっているのだ。
今上流階級で最も勢いづいたこの家の娘である私と婚約が決まれば家の格が上がる、と。子供たちは私の周りに集まって大人から教わったのであろう、様々な挨拶をした。
 それを作り笑いでこなしていく私の視界に一人の少年が映った。
夕暮れの赤をそのまま髪に溶かした様なふわふわの髪(私の焦げたパンの様な色とは違う)、空を映した海が宝石になったみたいな瞳(私の凡庸な眼球とは違う)。ぽかんとして見つめる私に気付いたのだろう、周りに集まった子供たちが云う。
「嶺様、あれは中原だとかいう、名もよく聞かない木っ端の家の子です。お目に入れられるほどのものでは無いかと!」
中原。確か、私が生まれる一年前くらいに没落した医者の一族にそんな名前の家があった気がするけれど、没落しているのだから無関係だろう。とすると、本当に木っ端の家の子なのかと思った。どうしてこの家の祝宴へ?
ぱちりと音が鳴った気がして、海色の瞳が此方を見た。私とその子は、ほんの数秒だろうけれど、見つめあった。私が気に入ったのではと危惧した周囲の少年たちが一斉に話し出すのも耳に入らなかった。
どこかで。どこかで彼を見たことがある様な気がした。
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