夢と現の境界線

□01.私と邂逅
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表情を変えない太宰さんに代わり、意味が分からないといった顔をして、声を上げる中原さん。そうですよね。それが普通の反応です。マフィアに勧誘されて学業続けるとか正気の沙汰じゃない。ですが私にも夢があるのですから。私は二人の背後、扉のノブが回るのを見て、中原さんの変な物を見るような目線を無視した。
「それは何故だい?」
「首領!」
 今度は驚かなかった。見えてましたからね。入って来られるの。私は僅かに緊張し始めた。何故なら、それは命の危険が無かった先程までとは変わったから。この人の、お眼鏡に叶わなければ、今すぐに私はこの寝台の上で赤黒い染みになっても可笑しくないのだから。
「夢のためです」
喉が張り付くような感覚を、唾液と一緒に無理矢理に飲み込んだ。続けて、私は聞いた。
「……私は、使い物になりますか」
中原さんが首領と呼んだ男、森鴎外。森さんは、私の問い掛けにクスクス笑って直ぐに返事を返しました。
「そう怖がらないでおくれ。使えないからって意味なく殺したりはしないさ」
それはつまり、意味のある死なせ方はしてくるということではないでしょうか。怖いですよ。
「使えますか?使えませんか?」
二択で問えば、笑みを消す森さん。怖い。
「異能は使える。が、君自身は使えない……。だけど、使えるようにするのが組織の長の仕事だからねぇ」
最初の使える、でホッとした次の瞬間の、使えない。その言葉で凍りついた背筋が、再び次の言葉で緩やかに解かされた。止めてください。私の表情見て愉しむのは。
「では?」
 何故か一番安堵したように声を漏らしたのは中原さんだった。何故?
「最近太宰くんが部下を一人育てているそうだし。中原くん、君に教育係を命じよう。初めての後輩だ。キチンと面倒を見てあげなさい」
何の前触れもなく、私と中原さんの二人の頭をひと撫でして、森さんは僅か二歩で部屋を出て行った。今度は、音をたてて扉が閉じられた。
私は、取り敢えず、と口を開いた。
「という訳ですので、これから宜しくお願いします。先輩。如何せ私の家を調べた時に知ってるでしょうけど、改めて自己紹介させていただきます」
そこで一度閉口して、そして再び口を開く。
「七條嶺です。御指導御鞭撻の程、宜しくお願い致します」
そしてニコリと微笑んだ。父と親友を殺された人間が、殺した人間に対して浮かべるものではありませんでしたが、ここではそういうものなのでしょう。中原さんは先程よりもずっと柔和に笑って云います。
「応、俺は中原中也だ。其方の木乃伊は太宰、一応幹部だ。太宰の事ァ、災厄だと思って逃げるか顔を合わせねェ様に為るかしてくれ」
「わかりました。中原さんと呼んでも?」
「構わねェ」
「一寸、誰が災厄だって?此れでも幹部だよ、失礼じゃない?」
「幹部なら幹部らしくしてろよ厄災野郎」
「厄災も災厄も同じじゃないか…。それとわかっちゃ駄目だよ嶺ちゃん?」
「駄目ですか」
「あゝ駄目だね。私ほど素敵な色男はそういない。こんな色男を捕まえておいて、災厄とは頂けないな。是非太宰さんと呼んでくれ給え」
「わかりました、太宰さん。……ところで」
チラッと中原さんを見上げる。
「?」
「もう、察しが悪いなぁ!中也は!何時まで彼女を床に転がしておく積もりだい?」
そして中原さんは慌てて手助けしてくれた。

 その後。紆余曲折あった後、私はヨコハマ市内のとある高校に転入することとなった。死体やら血潮やらで汚れた屋敷はまるっと解体され、空いた更地は売却された後にポートマフィアの所有地となるそうで、私は本部近くにあるフェイクの屋敷を所有することとなり、そこに暮らしている体で本部の一室に暮らすことになった。
因みに私の部屋が有る辺りの階層はポートマフィアの中でも低層階で、偶に銃撃騒ぎや爆弾騒ぎが起きる。爆弾が檸檬の形をしているのには目を瞑っている。可能ならば、早くあのマッドサイエンティストの未来の爆弾魔に、実験室なり何なり与えてあげてほしい。
私は中原さん直属の部下となり、これから中原さんに師事して学んで行くことになる。
 それに並行する形で、自身の異能力についても鍛錬や挑戦にも協力は惜しまない。と言ってくれた中原さんの胸を借りることとなった。
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