出航!

□第九章 ノースブルー編
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教会の隅にいた男に、胸騒ぎを覚えた。


演奏を終え、本当は見ないふりをして立ち去ろうとしていたが、もう既に、気になり、振り払えない気持ちで手を伸ばした。



汚れてはいるけど、きれいな金髪……。

彼は、明らかに私を一瞥して驚いた。
何か言いたそうで、この人はきっと“私のことを知っている“

そう思った。

額の髪をかき上げた。


この目……。


そして、傷ついた身体。


ひとまわり以上、身体は縮んではいるものの、あの人に似ていた。
というか、恐らく、あの人だ!

絶対!

絶対に関わっちゃいけないのに、なぜか、放ってはおけなかった。







*
*
*







その女の家に着くと、着ているものを脱がされ、バスタブに入れられ、その家に居るババアが、終始しゃべりながら俺の身体を洗った。
スノウという女は、シャツの袖をまくり、俺の髪をゴシゴシ洗った。



「ごめんね、もうすぐだから」


涙声……。

泣いてるのか?
だが、気持ちいい。
温かくなったせいか、寒さで何も感じなくなっていた傷の痛みが戻ってきた。



ババアに髭を剃られ、いい男じゃん、と言われた。
嬉しいじゃねぇか……。



泡を流し、身体を拭かれ、下着とパジャマを着せられベッドに運ばれた。ベッドから足がはみ出て、もうひとつベッドをくっつけた。



医者が来て、俺の身体を調べ、治療し帰って行った。
痛みで意識が飛びそうになるのを必死でこらえた、あの女に確かめたい事がある。



あの女が顔を覗きこんだ。


「何か、食べられそうですか?」


頷いた。


身体を起し、背にクッションを何個か置いて姿勢をキープした。
全身痛い。
腕を持ち上げようにも、痛みでできない。
その女は、スプーンで何かを掬い、フぅ―フぅー している。


「はい、あーんして」

「……ぅ」



子供じゃねぇ。と、つっこみそうになった。が、声が出ねぇ。
おとなしく口を開け、スープを飲んだ。


うまい!

「もっと、いいですか?」

頷いた。



フぅ―フぅ―


「はい」

涙が頬を伝う。







*
*
*



服を脱がせると、さらに絶望的な数の傷が目に入った。
ほとんどは血が固まり、皮膚も繋がっているように見えたが、湯船に入るとお湯が血で滲んだ。
生きているのが不思議な程。
泣けてきた。
顔を洗い、髭を剃る。
あぁ、やっぱり、この人は。



「ふぅ〜ん、いい男じゃん」


ノエルが笑って言った。

私は、出来るだけ、泣かないようにした。
医者から聞いたことは衝撃的だった。

“半身不随“

一生、下半身は動かない可能性かあると言うことを告げられた。
しかも、傷も酷く、余命は幾許もないと……。

罰が当ったのね。
あんなに人を苦しめるから。



「看取る覚悟はおありですか?」


帰り際に医者が言った。


「はい。始めから……そのつもりです」
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