出航!

□第九章 ノースブルー編
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セント・アンドルーズ教会


毎年、神父手作りの蝋燭でライトアップされる教会は、あの日の事を鮮明に思い出させた。





ギィ…


誰もいない。

ゴシック様式の重厚な造りの教会は薄暗く、静かだった。
丁度、あの人が倒れていた辺りは、今は祭壇が置かれ、蝋燭や花がびっしり供えられていた。
アンドレ”聖人”扱い!?



………どこに行ったの?



すると、奥から神父さんの声がした。


「……ありがとう。助かったよ。どうか、お代を」

「いいよ、気にすんなって。おめぇには、命を救われたんだ。いらねぇよ」


元気にヘラヘラ笑いながらアンドレが出てきた。


「アンドレ!」

「あ、スノウ。どうした?」

「どうしたじゃないわよ! 心配したんだから!」


あんまり普通に登場するので、逆に腹が立った。


「すみません。通りがかったアンドレさんに、屋根の修理を頼みまして」


神父さんが申し訳なさそうに言った。

「いいんです、気にしないで下さい」

「いいから、スノウ、帰るぞ!」


アンドレが笑って言うと。
神父さんが”メリークリスマス。御二人さん”
と、手を振った。



 
教会を出た途端、アンドレが私を抱きしめキスをした。
冷たいアンドレの唇。
また、薄手のコートに白いTシャツ姿で外を出歩いて……と呆れて怒った顔をした。


「俺の側で、そんな顔すんじゃねぇ」

「あなたがいなくなったと思ったの!」

「ゴメン。だから怒るな」

「フフッ。うん、帰ろ!」



手を繋ぐ。
ビックリするほど、手まで冷たかった。








*
*
*






ブルーのドレスに黒いコートを羽織ったスノウが、街の外れの教会へ入って行った。
蝋燭でライトアップされた教会は趣があり、美しい。
砂になり、そっと教会に忍び込むと、教会の一角の祭壇の前にスノウが立っていた。


奴が、いなくなったのか!?
小さな肩を抱いてやりたいと思った。
そうしてるうちに、奥の方から人の声がした。
鐘楼に上がる階段口から話声が聞こえた。

「ありがとう。助かったよ。どうか、お代を」


ここの神父か。
あとから薄いジャケットにTシャツ姿の金髪の男が出てきた。


「いいよ、気にすんなって。おめぇには、命を救われたんだ。いらねぇよ」



ド・フラミンゴ!!!


「アンドレ!」


スノウが、駆け寄った。
いまいましい奴の二ヤけ顔に、怒りが込み上げた。

ここで事を起こしたら、これまでの計画が全て水の泡だ……怒りを抑え、教会の外に出、奴らを待った。



教会のドアが開き、二人が出てきた。ドアが閉まった途端に、奴はスノウを抱きしめ唇を重ねた。









「サーブルス!」









*
*
*







砂の嵐の中に、黒い影が立っていた。



「なんでてめェが居るんだよ!」


太い声。
砂嵐が蝋燭の炎をかき消し、砂の刃がアンドレを襲った。



ザシュ……


白い雪に、真っ赤な血が飛び散った。
アンドレは胸元を抑え、跪いた。
ボスが近づき、胸ぐらをつかんだ。


「なぜ、避けねぇ」

「…ハァ…ハァ…俺はお前とは闘わねぇ。殺すなら殺せ」


ボスがアンドレを放り投げた。


「アンドレ!」

「そいつはド・フラミンゴだ!分かってんだろ!」

「分かってる」

「じゃあ、何故だ」

「放っておけなかったの。放っておいたら、この人、死んでしまうから」



必死で、傷口を手で押さえ回復していると。


「いいじゃねぇか、こんな奴!」


手を掴まれるが、振りほどいた。


「死なせたくないから」

「何故だ、スノウ」

「この人は私の事を、一度だって傷つけた事は無かった。今でも、そう、いつもそばに居て、助けてくれる。大事な人なの!」

絞り出すように、言葉にした。
胸に手を当て、止血する。血が止まり、徐々に傷が塞がっていく。



*
*
*





「死なせたくねぇとか言ってんじゃねぇ、なんの為に俺達が」


砂の刃で、雪を切り刻み、砂でスノウを包み込み、奴から引き離した。


「ボス…ごめんなさい」


切なげに言うスノウを、抱きしめた。


「俺は、こいつにだけはお前を、渡したくねぇ」


俺から逃れようと、スノウは抵抗した。


「放して下さい! ボス! じゃないと、私がボスを」

「分かってる」

「だったら、放して!」


腕にびりびりとスノウの殺気を感じた。


「お前に殺られるんならそれでもいい。殺れ」

「イヤです。ボスのことも大事です。できません」

「だったら何故。奴を」

「フェルナンを守ってくれたんです」

「あいつを?」

「あの人がいなかったら、フェルナンドは今頃」


スノウを開放すると、すぐに奴の所に向かった。
血は止まり、傷は塞がったが奴はぐったりとして、冷たく意識が無かった。



「アンドレ。死なないで」


スノウは奴を抱き起こし、自分のコートを脱ぎ奴に羽織らせた。そして、奴を運ぼうと奴の腕を肩に掛け立ち上がろうとしている。その体格差じゃ、土台無理なのはわかってる。



「ハァ―――――――(ため息)いい加減にしろ。貸せ」


コートをスノウの肩に被せた。


「大丈夫です!」

マントを振り払らわれた。


「何がだ!」


今度は、スノウをコートでグルグル巻きにして奴からまた引き離した。

「ダメ! アンドレに何するの!」

「なにもしねぇよ。ったく」


奴を背負い、スノウをマントから解放した。

「そのマントを、背中からそいつに被せろ!」

「…」

黙ってスノウは被せた。

「自分のコートを着ろ! 行くぞ。案内しろ」



スノウはしぶしぶコートを来て、俺を家まで案内した。


雪が降りしきる中、青いドレスのスノウの背中を、俺は、手負いの奴を背負って追いかける。
背負っているせいか、奴の身体がだんだん温まってきた。


なんなんだ!?


何をしているんだ俺は…。
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