出航!

□第七章 サクラ王国編
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冬島、ドラム島に到着した。
3日後出航し、危険なカームベルトを渡りイーストブルーへ入る。カームベルトに入ったら抜けるまでおそらく休むどころか、一睡も出来ねぇだろう。ウォーターセブンで、船大工たちに船底に海楼石を張り付けてもらったが、正直、何が起こるかわからねぇ。増設した燃料タンクに、トラファルガーの能力。航海が長引いた場合の食糧は海王類でも仕留めればなんとかイケそうだが……。

操縦室で熊とトラファルガーとペンギンが、のんきに留守番のローテーションを決めていた。
島には娼館もあるそうで、そこに泊まるクルーたちも何人かいるそうだ。こうゆう事を聞いたらスノウが嫌な顔をするので、あまりクルーたちは大っぴらにはしねぇらしい。俺たちもこの島で宿に宿泊する予定だ。

朝食を終えたトラファルガーから、スノウの体調の事を告げられた。
こんな時に……。

部屋に戻ると、なるほど……。
顔色の悪いスノウがベッドで心配そうに俺を見る。

っち……そんな目で見やがって。

口では“大丈夫”というものの、血の気のねぇ顔は、やはり今日は出かけなくて正解だった。
その弱り切ったスノウを抱きしめ、押し倒したい衝動をグッと堪える。


ベッドに横になり眠りに就くスノウ。

早っ!

3分もしネぇうちに寝息が聞こえてきた。
こいつは、まったく(笑)。
ベッドを覗きこみ、毛布から出ている手を握る。
冷てぇ!
大丈夫か!? 死んでるみてぇだ!
まさか。
毛布の中に手を入れると、人並みの体温を感じホッとする。
両腕を毛布の中に入れ、もう一枚、自分の毛布を被せた。

「フー(ため息)」

頬を撫でるもピクリともしない。
こいつは、本当に死んだように眠る。
能力の代償か。
そんな時でも、襲われると、こいつは訳の解らねぇ力で攻撃してくる。
普通の人間なら一溜りもねぇだろう。
スノウがこの船で、不条理に男に犯される心配は無くなったが、逆にこの船のクルーを殺したとなっちゃこの船に居ずらくなる。それに、人を殺めたことでスノウが罪の意識で自害したりし兼ねない。
心配は尽きねぇ。


やわらかな寝息を吐く唇を、そっと指で触れる。










ダズはドラム島の街、ビッグホーンに到着した。


ボスから頼まれていた用事
・ネックレスの発注
・宿の手配
 と、自身の防寒着の調達である。


ネックレスの発注と自分の防寒着は難なく済んだのだが。
この街には宿自体少なく、しかも、ボス好みとなると無いに等しいと思われ始めたころ、街の食堂の女将が ”ドラムロックの上にあるお城。確か観光用のホテルになってるらしいけど。噂では政府関係者とか大金持ちしか泊まれないらしいくてね。あたしゃ、詳しい事はよく分からないから向かいの観光案内所に行くといいよ”と教えられた。


案内所か。

そうゆう場所があるなら先にそこで聞けば良かったと、案内所に入ってみると意外と混み合っているのに驚いた。商人や漁師、中でも一番目立っていたのが、長い刀を背負った、トラファルガー・ローだった。


「明日から2日間。ドラム城のホテルの予約を取りたいんだが」

案内所の若い男に聞くと。驚きの表情と共に、かしこまった態度を取った。
身なりからして、俺を政府機関の人間だと思ったのかもしれない。

「はい! よくご存じで。只今、予約の確認をいたしますので、そちらの席にお掛けになってお待ちください」

電話をかけ始めた。

「はい、はい、お部屋のグレードは?」

この受付の男の声は大きく、声は案内所に響くので、

「電話を…直接、話したい」

凄みのあるダズに言われ、受付の男は電々虫をダズに渡す。

「グレードの種類は?」

突然、声が変わった事で、ホテルの受付の男の声に驚きを感じ取る。

「あ、(ガタっ……ガシャ……)ご予約されるご本人様ですか?」

「いや、代理の者だ」

「グレードは、ダブル、ツイン、4名様用のツインのコネクティング、スウィート、ゴージャススウィートになります。ご利用料金は「ゴージャススウィートで」

「あっ、はい、かしこまりました。ご利用人数は?」

「2名だ」

「送迎の方はどうされますか?」

「頼む」

「はい、場所のご希望はございますか?」

「ビッグホーンの案内所は?」

「はい、ではビックホーンの観光案内所に2時30分にお迎えに上がります。よろしいでしょうか?」

「ああ、」

「では、お、お名前を」

「J.エドワード」

「エドワード様ですね。では明日お迎えに上がります!」


大丈夫だろうか? 久しぶりの客らしい反応だった。

案内所から地図を貰い、標高5000mのドラムロックの頂上にあるという城兼ホテルに、偵察がてら行ってみる事にした。
観光マップにも“ドラム城“の表記がある。

途中、雪崩、ウサギ、危険な個所もあったが1時間半程度で城に着いた。
ボスの能力なら一時間もかからないだろう。だが、体調の悪いスノウを連れてはやはり送迎を頼んで良かったと考えていると






「へぇ、ここがドラム城か」


振り向くと、いつものアニマル柄の帽子に、黒いコート姿のトラファルガー・ローが白い息を吐きながら立っていた。


「尾行たのか?」

「あぁ」

「どうゆうつもりだ」

「冗談だ、ダズ。さっき案内所で聞いちまってな、(聞こえたってのが正しい)俺も、このドラム城に用があってな」

「……本当にそうなのか?」

「ああ、おまえら明日、泊まるのか?」

「ああ」


正確には、ボスとスノウが泊まるのだが、あれこれ詮索されるのも面白くない。


「贅沢だな〜。まあ、ずっと潜水艦の中じゃ息も詰るしな。仕方ねぇな」


そう言いながら城の正面の大きな木の扉へ向かう。
降り続く雪にも関わらず、正面扉から伸びる道にはうっすら雪が積もっている程度。
木々も綺麗に剪定され、城の外観も問題ない。
城の管理は行き届いている。







ゴンゴン…


「誰か!いるか?」

木製のアーチ状の大きなドアを叩き、ローが大声で叫ぶと、返事が返ってきた。

「あ、どちらさまでしょうか?」


「さっき予約した」

ダズをチラッと見やると。

「J.エドワードだ」

「え、あ、はい。…えぇえぇ!!!!」



ガコン



扉が開き、短い黒髪にスラリと背の高い若い男が、驚いた顔で俺たちを出迎えた。
頬にはそばかす、切れ長のキリリとした目、まだ十代といった感じだ。

「どうやってここまでいらしたんですか?! ロープウェイの時間までまだまだですよ!」

「ロープウェイがあるのか」


ダズが涼しく答えると。


「もしかしてですが、あ、歩いて来られたんですか? でも、ご予約は明日の筈では」

「ああ、中を確認しにきただけだ。見せてもらってもいいか」

「あ、はい! どうぞ!」




中に入るとそこは別世界!
城の中は、ロマネスク様式の重厚な雰囲気。正面には城の塔に伸びるらせん階段。大理石の床に豪華なシャンデリア。城の壁を一周する、もう一つのらせん階段の手摺りはピカピカに磨かれ、赤い絨毯が敷かれている。壁には等間隔に蝋燭が灯り、昼間でも少し薄暗い城の内部を明るく照らしている。


「あ、すいません。自己紹介が遅れました。私、当ホテルコンシェルジュのセバスチャンと申します。なんなりとお申し付けください」

「すげぇな、一泊いくらだ?」


ホテルの内装に驚いたローが、すかさず値段を聞いた。


「お部屋にもよりますが、お一人様五万ベリーからになります。エドワード様のご予約されたお部屋は、最上階のゴージャススウィートですので、お一人様30万ベリーからになります」


「うわ、マジか!?」

「あ、失礼ですが、お泊りになるのは、エドワード様と…」


ローの方をセバスチャンは首をかしげて見たので、その雰囲気を察した、ローとダズは顔を見合わせ、気まずそうにした。

「泊まるのはお前んとこのボスとスノウだろ」

「失礼いたしました」


気まずい雰囲気にセバスチャンは話題を変える。

「ビッグホーンの隣町“ギャバン“からこのドラムロックの頂上までロープウェイがあるのはご存じでしたか?」

「知らん! 知っていたらそれで出来たのに、こいつがいきなり走り出すから」


俺を指さす。


「勝手に尾行てきたのはお前だ」

「つまり、ここまで走っていらしたんですね。すばらしい身体能力ですね」


セバスチャンと話をするうちに、最上階のゴージャススウィートルームに着いた。


「こちらになります」


目に飛び込んだのは、大きな窓から見える一面の銀世界。重厚な家具にソファー、グランドピアノ、敷き詰められた毛皮の絨毯。客がいないので火が灯されていないがゴージャスな暖炉。奥のベッドルームには天蓋付きのキングサイズのベッド。ダズは、自分の見立てが正解だったと安堵した。


「部屋はもういいが、料理の方をみたい」

「はい。よろしかったら、御昼食を召し上がられてはいかがですか? 当ホテルシェフは、昨年のグランドラインミシュラン三つ星を獲得しまして、島でも人気のシェフの一人です」

「ダズ、食ってこうぜ!」

「他に客はいないようだが、急に大丈夫なのか?」

「はい。この城の持ち主、医師クレハ様が長期に滞在しておられ、料理やサービスに厳しく指導してくださっておいでですので、お客様の急なご注文でも常に万全の態勢で挑んでおります」


ダズは、このセバスチャンというコンシェルジュのプロ意識に気持ち良さを感じた。


「そうだ、そいつに用があるんだった。クレハって言う医者、今日はいるのか?」

「あいにく、クレハ様は出掛けられています。夕方には戻ると思いますが」

「明日は?」

「明日の予定はまだ、クレハ様に伝えておきますが。あとで、お名前と連絡先をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「ああ」

「では、いまから御昼食の手配をいたしますが、ご注文はありますか?」

「肉」(ダズ)

「パンは嫌いだ」(ロー)。

「かしこまりました」


ホテルの一階にあるレストランに案内された。それぞれ違う雰囲気の個室があり、そのひとつに案内された。


「ルームサービスはあるのか?」

「はい、ご要望があれば喜んで」

「解った」

「ルームサービスって、ったく」










スノウがこの城を見たら、絶対喜ぶだろう。
さっきのスウィートルームも……、まさか、クロコダイルの奴、あの身体のスノウに手ぇ出すつもりじゃねぇよな。



クソっ。

そんな事を考えながら、カップルで来たらとてもいい雰囲気の個室で昼食をとった。口数の少ないダズは黙々とランチを食べ終えると、すぐに帰り支度を始めた。
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