出航!

□第六章 アラバスタ王国編
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……泣くほど、嫌だったのだろうか。

“何でもないです“
とは言ってはいたが、上司に抱きつかれたら実際、やはり嫌なのだろう。
とにかくスノウは、よっぽど寒かったのか、抵抗も無く腕の中で大人しく寝ている。

まったく、俺は、何をしているんだ。

徐々に温かくなるスノウの身体を抱きしめるだけで、ホッとする自分がいた。

心地いい。


スノウとあの王女はかなり馬が合うようで、“出会ってすぐに打ち解けた“とトラファルガーから聞いた。まあ“使える“と思い連れてきたのは正解のようだ。俺だけの時との対応とは違って、あの嬢ちゃんも頻繁に手を出してこねぇ。
それどころか、あいつがいる事で何かしら、穏やかに事が運ぶ気配すらする。こうして、無防備に寝ていても、嫌な殺気は感じられねぇ。寝込みを襲われても、おかしくねぇくらいなのに……。あいつの、ゆるい雰囲気がそうさせるのか、それとも。

昨晩から、ロクに眠っていなかったせいか、考えを巡らすうちに睡魔が襲った。













スノウさんがクロコダイルを“ボス、ボス”と親しげに呼んでいた。
正直ショックだった。
スノウさんは初めて会った筈なのに、初めての気がしない不思議な感じの女の子だった。素敵なピアノを弾いて、お友達にもなれそうだったのに……。

でも、旅が始まり、スノウさんが砂漠に来るのに持って来たものが聞こえて、思わず噴き出しそうになった。
天然!?
しかも、あのクロコダイルの側にいるのに、危機感が全く無い。
なんなの!?
寒そうにしているスノウさんに本当は、毛布を貸してあげたかったけど……チャカに止められた。

“海賊とは慣れ合うな”

心配していたら、クロコダイルが自分のマントで包み、スノウさんを温めている。口ではきつい事を言っていても、実際は、スノウさんをとても大事にしている。スノウさんって一体何者?
何故、クロコダイルと一緒にいるの?




「(小声)おい、ビビ。何してる?」

ずっと、警戒してクロコダイル達を見ているビビの隣にコーザが座り、緊張で固まっている、肩を優しく抱いた。

「(小声)だって、あそこにいるのはクロコダイルよ」


スノウを抱きしめ、横になっているクロコダイルが遠目に見えた。


「(小声)分かってる。そんなにムキになるな。焚火の番は、俺とチャカでやるから心配するな。ちゃんと休まないと、身体壊すぞ」
「(小声)コーザ」
「(小声)どうした?」
「(小声)なぜ、スノウさんはクロコダイルといるのかしら?」
「(小声)なにか訳があるんだろ」
「(小声)すごくいい子なのに」
「(小声)そうだな」


見上げると満点の星空。
隣にはコーザがいて、優しく肩を抱いてくれている。王女の仕事が忙しく、しばらくコーザとこんな風に過ごす機会も無かった。


クロコダイル……

いったい何をコーザに見せたいの?









ボスの重みで目が覚めた。
ボスも眠ってしまったのか、ガックリと首を落とす形で、ボスの頬が私の右の額にくっついている。
ボスの意外に静かな寝息が聞こえた。右手は肩に回され、右足は私の身体に乗っている。

お、重い……。

起こさないように、そっと抜けようとしてもビクともしない。

スー……スー……

気持ち良さそう。
そう言えば……昨日、夜中に出かけて行って、ちゃんと寝てなかったみたいだったし。もう少しだけ、このままでいようかな。
抵抗をやめ、空を見上げた。満天の星空が目に飛び込んできた。

綺麗。

あ!

流れ星が流れた。

願い事、願い事!

“ボスが悪い事しませんように”

その後も、流れ星がいくつも流れた。
ボスの寝息からもれる温かい息。普通は、不安になるくらい広い砂漠のど真ん中でも、ボスと一緒なら全然怖くない。


ん!?

「ンっ……」

低い声。ボスの寝息が少し乱れた。ボスの右手が肩から頬に移り、私の頭を撫でた。それと同時ぐらいにボスの唇が頬にあたり……。

チュッ

と聞こえた。

キス、されてる!?

そしてまた、軽くリップオン。



キャー


「んん」

ボスが眠りから覚めそうな気配に、何故か私は慌てて目を閉じ眠ったふりをした。






それから少したって、また眠ってしまったのか、ボスの寝息が聞こえた。
さっきのは、一体!?










眩しさと暑さで、次に目を覚ますと、マントにグルグルにくるまれていた。

「あれっ」

抜け出そうと腕を外に出した。

「やっと、起きたか?」

黒いシャツ姿で、ボスはカメに餌を与えていた。

「ボス! おはようございます。
あ……カメの餌やりは私がやりますので……あれ、抜けない」

マントからなかなか出られず焦って、よくよく身体を見ると、マントの上からロープでぐるぐる巻きに縛られていた。

「なっ、なんで!?」

「おめぇの寝相が悪いからだ!!!」

「えっ! そうでしたか?すいません……あの、ボス!早く解いて下さい。」

「クハハハ……しばらくそうしていろ!」

「え〜〜〜〜」

半泣きの私に近づき、ニヤリと笑い、ロープを解いた。

「(マントを)何度も掛けても剥いじまうからそうしたまでだ。」


昨晩のキスを思い出した。
あの時は腕の中にいたのに……。
そして、いつのまにか、縛られてることに気付かなかった自分にあきれた。マントに着いた砂をほろって、ボスに返した。


「ありがとうございます」

「フッ」


鼻で笑いマントをサッと羽織る。
少し離れたところで、ビビ王女が私を呼んだ。


「スノウさん、こっちにきて!」

「はい!」

嬉しくなり飛んでいくと、チャカさんからスープを渡された。

「ありがとうございます」

チャカさんはあいかわらず無言だった。


「スノウさん。よかったらこれ使って」

ビビ王女が、砂漠用の薄手のマントを差し出した。


「ビビ王女!」

チャカさんが怖い顔で睨んだ。

「黙っててチャカ! クロコダイルは嫌いだけど、スノウさんは別よ!」

「ありがとう……ございます」


嬉しくなって、泣けてきた……。

「何か、訳があるんでしょ」

うなづいた。その顔を見て、ビビ王女は頬笑んだ。




朝食を終え、私たちは北の砂漠を目指した。


私達は、2時間ほどでその場所に着いた。
ボスは方位磁石を持って辺りを見渡す。目印になるような物は何もない、砂一面の景色である。


「少し離れていろ」

私と、ビビ王女たちに言った。
数歩さがって止まると。

「もっとだ! 怪我してぇのか!」

手には、小さい砂嵐が出来上がっていて、ビリビリとした殺気を感じた。

「は、はいっ!」

ダッシュで300mほどボスから離れた。





!!!!!

「“砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)”」

超巨大な砂の刃が、砂漠を切り裂いた。真っ二つに割れた砂漠から、石造りの、地下に続く通路の入り口のような物が見えた。


え!?
遺跡? 
駆け寄ろうとした私たちに…。


「まだだ! そこにいろ!」


ボスは、遺跡の入り口を塞ぐ砂を、サーブルスで吹き飛ばしながら中へ入って行った。砂が入り口から大量に外に吐きだされ、入り口の前に。大きな砂丘が出来上がった。



「来い!」

半分砂になったボスが私たちを呼んだ。

中に入る。
壁一面、色鮮やかな壁画で覆われた遺跡の内部はひんやりとしていた。ボスが颯爽と遺跡の中を歩く。ランプをもったコーザさんがボスのすぐ後を歩いた。

私と、ビビ王女とチャカさんは後方から、驚きながら着いて行った。

少し広い部屋に着いた。
そこには黄金の棺が置かれ、その周りには、財宝がびっしり積み重なるように置かれていた。その正面の壁をボスは、慎重に調べていて、中央の石を一つ、能力で砂に変えた。


サラっ……


「やはりな」

その先には、左右天井が鮮やかな壁画で覆われた、長い通路が続いていた。
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