出航!
□第六章 アラバスタ王国編
3ページ/11ページ
3
……泣くほど、嫌だったのだろうか。
“何でもないです“
とは言ってはいたが、上司に抱きつかれたら実際、やはり嫌なのだろう。
とにかくスノウは、よっぽど寒かったのか、抵抗も無く腕の中で大人しく寝ている。
まったく、俺は、何をしているんだ。
徐々に温かくなるスノウの身体を抱きしめるだけで、ホッとする自分がいた。
心地いい。
スノウとあの王女はかなり馬が合うようで、“出会ってすぐに打ち解けた“とトラファルガーから聞いた。まあ“使える“と思い連れてきたのは正解のようだ。俺だけの時との対応とは違って、あの嬢ちゃんも頻繁に手を出してこねぇ。
それどころか、あいつがいる事で何かしら、穏やかに事が運ぶ気配すらする。こうして、無防備に寝ていても、嫌な殺気は感じられねぇ。寝込みを襲われても、おかしくねぇくらいなのに……。あいつの、ゆるい雰囲気がそうさせるのか、それとも。
昨晩から、ロクに眠っていなかったせいか、考えを巡らすうちに睡魔が襲った。
スノウさんがクロコダイルを“ボス、ボス”と親しげに呼んでいた。
正直ショックだった。
スノウさんは初めて会った筈なのに、初めての気がしない不思議な感じの女の子だった。素敵なピアノを弾いて、お友達にもなれそうだったのに……。
でも、旅が始まり、スノウさんが砂漠に来るのに持って来たものが聞こえて、思わず噴き出しそうになった。
天然!?
しかも、あのクロコダイルの側にいるのに、危機感が全く無い。
なんなの!?
寒そうにしているスノウさんに本当は、毛布を貸してあげたかったけど……チャカに止められた。
“海賊とは慣れ合うな”
心配していたら、クロコダイルが自分のマントで包み、スノウさんを温めている。口ではきつい事を言っていても、実際は、スノウさんをとても大事にしている。スノウさんって一体何者?
何故、クロコダイルと一緒にいるの?
「(小声)おい、ビビ。何してる?」
ずっと、警戒してクロコダイル達を見ているビビの隣にコーザが座り、緊張で固まっている、肩を優しく抱いた。
「(小声)だって、あそこにいるのはクロコダイルよ」
スノウを抱きしめ、横になっているクロコダイルが遠目に見えた。
「(小声)分かってる。そんなにムキになるな。焚火の番は、俺とチャカでやるから心配するな。ちゃんと休まないと、身体壊すぞ」
「(小声)コーザ」
「(小声)どうした?」
「(小声)なぜ、スノウさんはクロコダイルといるのかしら?」
「(小声)なにか訳があるんだろ」
「(小声)すごくいい子なのに」
「(小声)そうだな」
見上げると満点の星空。
隣にはコーザがいて、優しく肩を抱いてくれている。王女の仕事が忙しく、しばらくコーザとこんな風に過ごす機会も無かった。
クロコダイル……
いったい何をコーザに見せたいの?
ボスの重みで目が覚めた。
ボスも眠ってしまったのか、ガックリと首を落とす形で、ボスの頬が私の右の額にくっついている。
ボスの意外に静かな寝息が聞こえた。右手は肩に回され、右足は私の身体に乗っている。
お、重い……。
起こさないように、そっと抜けようとしてもビクともしない。
スー……スー……
気持ち良さそう。
そう言えば……昨日、夜中に出かけて行って、ちゃんと寝てなかったみたいだったし。もう少しだけ、このままでいようかな。
抵抗をやめ、空を見上げた。満天の星空が目に飛び込んできた。
綺麗。
あ!
流れ星が流れた。
願い事、願い事!
“ボスが悪い事しませんように”
その後も、流れ星がいくつも流れた。
ボスの寝息からもれる温かい息。普通は、不安になるくらい広い砂漠のど真ん中でも、ボスと一緒なら全然怖くない。
ん!?
「ンっ……」
低い声。ボスの寝息が少し乱れた。ボスの右手が肩から頬に移り、私の頭を撫でた。それと同時ぐらいにボスの唇が頬にあたり……。
チュッ
と聞こえた。
キス、されてる!?
そしてまた、軽くリップオン。
キャー
「んん」
ボスが眠りから覚めそうな気配に、何故か私は慌てて目を閉じ眠ったふりをした。
それから少したって、また眠ってしまったのか、ボスの寝息が聞こえた。
さっきのは、一体!?
眩しさと暑さで、次に目を覚ますと、マントにグルグルにくるまれていた。
「あれっ」
抜け出そうと腕を外に出した。
「やっと、起きたか?」
黒いシャツ姿で、ボスはカメに餌を与えていた。
「ボス! おはようございます。
あ……カメの餌やりは私がやりますので……あれ、抜けない」
マントからなかなか出られず焦って、よくよく身体を見ると、マントの上からロープでぐるぐる巻きに縛られていた。
「なっ、なんで!?」
「おめぇの寝相が悪いからだ!!!」
「えっ! そうでしたか?すいません……あの、ボス!早く解いて下さい。」
「クハハハ……しばらくそうしていろ!」
「え〜〜〜〜」
半泣きの私に近づき、ニヤリと笑い、ロープを解いた。
「(マントを)何度も掛けても剥いじまうからそうしたまでだ。」
昨晩のキスを思い出した。
あの時は腕の中にいたのに……。
そして、いつのまにか、縛られてることに気付かなかった自分にあきれた。マントに着いた砂をほろって、ボスに返した。
「ありがとうございます」
「フッ」
鼻で笑いマントをサッと羽織る。
少し離れたところで、ビビ王女が私を呼んだ。
「スノウさん、こっちにきて!」
「はい!」
嬉しくなり飛んでいくと、チャカさんからスープを渡された。
「ありがとうございます」
チャカさんはあいかわらず無言だった。
「スノウさん。よかったらこれ使って」
ビビ王女が、砂漠用の薄手のマントを差し出した。
「ビビ王女!」
チャカさんが怖い顔で睨んだ。
「黙っててチャカ! クロコダイルは嫌いだけど、スノウさんは別よ!」
「ありがとう……ございます」
嬉しくなって、泣けてきた……。
「何か、訳があるんでしょ」
うなづいた。その顔を見て、ビビ王女は頬笑んだ。
朝食を終え、私たちは北の砂漠を目指した。
私達は、2時間ほどでその場所に着いた。
ボスは方位磁石を持って辺りを見渡す。目印になるような物は何もない、砂一面の景色である。
「少し離れていろ」
私と、ビビ王女たちに言った。
数歩さがって止まると。
「もっとだ! 怪我してぇのか!」
手には、小さい砂嵐が出来上がっていて、ビリビリとした殺気を感じた。
「は、はいっ!」
ダッシュで300mほどボスから離れた。
!!!!!
「“砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)”」
超巨大な砂の刃が、砂漠を切り裂いた。真っ二つに割れた砂漠から、石造りの、地下に続く通路の入り口のような物が見えた。
え!?
遺跡?
駆け寄ろうとした私たちに…。
「まだだ! そこにいろ!」
ボスは、遺跡の入り口を塞ぐ砂を、サーブルスで吹き飛ばしながら中へ入って行った。砂が入り口から大量に外に吐きだされ、入り口の前に。大きな砂丘が出来上がった。
「来い!」
半分砂になったボスが私たちを呼んだ。
中に入る。
壁一面、色鮮やかな壁画で覆われた遺跡の内部はひんやりとしていた。ボスが颯爽と遺跡の中を歩く。ランプをもったコーザさんがボスのすぐ後を歩いた。
私と、ビビ王女とチャカさんは後方から、驚きながら着いて行った。
少し広い部屋に着いた。
そこには黄金の棺が置かれ、その周りには、財宝がびっしり積み重なるように置かれていた。その正面の壁をボスは、慎重に調べていて、中央の石を一つ、能力で砂に変えた。
サラっ……
「やはりな」
その先には、左右天井が鮮やかな壁画で覆われた、長い通路が続いていた。