出航!
□第六章 アラバスタ王国編
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休憩中にボスの笑い声が響いた。
「クハハハっ……ピクニックか!」
数分前。
出発してから2時間、休憩場所のオアシスに到着した際、ボスにどこに向かっているのか聞いた。
「そうだな、ここからサンドラ川を渡り、北へ約40キロだ……明日の昼には着く」
「!?」
声が出ない。
明日って?
日帰りじゃないの!?
「どうした」
「と、泊まりだなんて聞いてません!」
ボスもハッとして、言わなかったか?……悪かった、と目をそらした。
「悪かったじゃなくて……ああ、もう、そうゆう事はきちんと仰って下さい。 本当にボスは、口数少なすぎます!」
「うるせぇな。だからさっき謝ったじゃねぇか。で……何持って来たんだ?」
リュックを顎で指した。
「ストールと水、と、日焼け止め……」
「クハハハっ……ピクニックか!」
すごく楽しそうに笑うボスを睨みつけた……もう、泣きたい。
呆れた顔でコーザさんとビビちゃんとチャカさんがこっちを見ていたが、目が合うとすぐにプイッとそらされた。
「…………」
「砂漠で野宿だが、食料も水もある。……その荷物でその成りでも、大丈夫だろう」
慰めているのか、静かに優しく言った。
それから、カメで川を渡り、また果てしなく広がる砂漠を疾走した。
「少し揺れるぞ」
鉤づめで身体を抱き寄せられる。フワッと、ボスの葉巻の香りがする胸に肩を寄せた。
ガクん……
「わっ!」
部分的突き出た岩にぶつかり、カメが大きく揺れた。
ボスを顔を見上げると、汗ひとつかいていない涼し気な表情で、遠くを見つめる金色の瞳はどこまでもまっすぐで………なんか、悔しいけど、様になる。
ボスはこの国で悪い事をする気なのだろうか?
さっきの笑顔や、優しさやから想像がつかない。
日が落ち、私たちは砂漠の真ん中で野宿の準備をはじめた。
ボスと私と、少し離れたところにビビ王女達。
焚き火を挟み、ボスの向かい側に敷物を広げ座ると、水とカンパンとビーフジャーキー的な肉をボスから渡された。
あとから、チャカさんがスープを2人前持ってきてくれた。
「ありがとうございます。」
黙って、スープを渡し、チャカさんは戻って行った。
ボスの前にスープを置いた。
ボスはまだ、スープには手を付けずにビーフジャーキー的な肉をかじっていた。私はスープを一口、口に入れた。
「ボス、おいしですよ!」
「毒は入ってねぇみてぇだな」
「……毒味!?」
「あぁ、だから連れてきた……」
「え!?」
唖然とする私に、冗談だと、ニヤリと笑い、スープを飲んだ。
夕食が済み、少し寒くなってきたので焚火の側に敷物を近づけ、横になった。ストールを肩に巻いてみたものの小さすぎて寒い。寝袋とかロー船長に言えば、きっと貸してもらえたかも知れないのに、ボスに事前確認を怠った事を後悔した。
程なくして、ボスも、たき火を挟んで私の向かい側で横になった。昼間は、あの黒く分厚いコートを暑苦しく思ったが、今は、そのコートを羨望の目で見つめた。
「スノウ……こっちだ」
右腕でコートを広げた。
これって、う、腕の中にって……。
恨めしそうに見ていたのバレていたのであろうか。
「え、でも……」
「いい加減にしろ、凍えるぞ」
「でも」
「でもじゃねぇ、さっさと来い!」
「は、はい」
次第に怒気を孕んでくる口調に、思わず返事をしたものの、なんだか恥ずかしい。
そっと、ボスの身体に背を向けてボスの左腕に頭を乗せて、寝転がった。それをボスが、コートで包みこむ。
「ぅわ、あったかい」
想像以上の温かさに声が出てしまった。
「冷え切ってるじゃねぇか」
後ろから回されたボスの手が、私の凍えていた両手を包み込み、ギュッと握りしめた。
あ!
ボスの温かい手の感触に、声が漏れそうになったのを、すかさず我慢した。
鼓動が高鳴る。体温が一気に上がる。温かさと、ボスの優しさに心底ホッとして、涙がこぼれた。
「……グスッ」
「どうした?」
「何でもないです。……グスッ……」
「泣いてんのか」
「いえ、違うんです……すいません。グスッ……」
身体も温まり、涙も落ち着いてくると、今度は、自分の鼓動の音が気になってきた。ボスの静かな息遣いと、焚火の燃えるパチッ、パチッとする以外、音は殆ど無い。
ドクドクドク…………
ボスに、非常に動揺している事を知られてしまう。考えるだけで、余計に恥ずかしくなる。
あれ?
“ドクン、ドクン、ドクン…………”
背中から、ボスの鼓動が伝わってきた。
哺乳類は、身体の大きさで心拍数が違うって聞いたことある。ボスは大柄だからなのか、気のせいか心拍数は私より遅い感じがする。
“ドクン、ドクン、ドクン…………”
ボスは、この国で何をするんだろう。
冷えた私を温める為だとは分かっているけど、こんなに優しく私を抱きしめてくれるボスが、この国で何をしようとしているのか。この砂漠の先に何があるのか、この時の私は、何も想像できなかった。