出航!

□第六章 アラバスタ王国編
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翌朝、ボスに起こされ近くのオアシスまでカメで移動した。

ボスはいつも通りで、苦しそうだったり辛そうな表情は無かった。
昨夜の吐血は何だったんだろう。
半分寝ぼけながらぼんやりオアシスに向かう。

砂漠では、太陽が出ると、気温が一気に上がる。
湖で顔を洗い、お湯を沸かし、缶詰とリンゴの簡単な朝食を済ませた。
私の淹れた紅茶を飲みながら、ボスは電々虫で誰かに電話をかけていた。

「俺だ。今日の夕刻には港に着く」

「そうか。…スノウは?」

ロー船長の声だ!

「あぁ「ロー船長おはようございます!」

ボスの横で挨拶した。

「ふっ、元気そうだな」


「ダズは?」(スノウ)

「大丈夫だ」(ロー)

「トラファルガー、着いたら連絡をいれる」(ボス)

ガチャ

早っ!


「でんでん虫、持ってたんですね」

「砂漠の真ん中じゃ使えねぇが、やっと念波が届くとこまできたからな」

「あと、どのくらいですか?」

「昼にはナノハナに着くだろう。そのあと、アラバスタの国王と面会する」

「えぇっ!!!いつ!そんな話を?」

「昨夜、遅くに、若造から連絡が入った。国王が俺に話があるんだとよ」

「良かったですね。」

「フン、“話“と言っておいて軍総出で俺を始末しようと待ち構えてるかもな」

「ええっ! そ、そんな人じゃないですよ」

「ほう、やけに詳しいな。そんなにこの国が好きか?」

「好きです。悪いですか?」

「フッ」


荷物を片付け、カメに乗り込む。
自然に腰にまわした腕、閃くマント、遠くを見つめる金色の瞳。
横目で見ながら、昨日の言葉を思い出す。



>「おまえがほしい」

ボスの容体が悪くならなかったら、私、どうなっていたんだろう。
お金で買収されるのは嫌だけど、ボスが求めてきたことについては、少し嬉しかったりもする。
嬉しいけど。ただ、愛もなく、欲求を満たしたいだけでの関係はいやだな。





ボスと砂漠の旅も、もう終わるんだと思うと、こうしている時間がすごく勿体ない。



サンドラ川をカメで渡る。
マントが“濡れないように押さえておけ”とマントを握らされた。

しばらくして、砂に煙るナノハナの町のシルエットが見えてきた。
町の入口までくると、馬車(馬じゃないラクダが引いている!)が止まっていて、チャカさんが降りてきた。

「ここからは、この馬車で移動お願いします。王宮の別荘までご案内いたします」


馬車(ラクダだけど)でナノハナの街に入った。ボスはまたロー船長に連絡を入れている。
町の少し高台にある王宮の別荘に着いた。
ここもレインベースと同じく、アラビア風の造りの建物に、広い中庭があってそれを取り囲むように部屋がある。レインベースよりは規模が小さいが、いい雰囲気である。


「スノウちゃん!待ってたわ!」

奥の廊下から、ビビ王女が駈けてきた。

「ビビ王女!あれ、早いですね!」

「えぇ、船でサンドラ川を移動してきたから。」

「船!」

「その手もあったな」(ボス)

でも、ボスは水が弱点なんだもんね。カメで川下りは無いか。


「今、部屋に案内するわ」

「えぇ?」

「レインベースからずっと砂漠を旅して来たんだもの、シャワーぐらい浴びたいでしょ?」

「は、はいっ」

部屋に案内される。何も言わないせいか、やはりボスと一緒の部屋。
ソファーセットとダイニングテーブルに、小さめの白いグランドピアノ。ベッドルームは、奥にあるみたい。

「スノウちゃん、この服よかったら着てみて!アラバスタの礼服なの」

白い生地に赤とオレンジの金の花の刺繍が施してある。

「ステキ!いいんですか!Tシャツも返さなくちゃいけないし」

「いいのよ、その衣装も、そのTシャツも、返さなくていいから」

「そんな!」

「だから、また今日、ピアノを聴かせてほしいの。お願い!」

「そうゆうことでしたら、喜んで」

ビビ王女と話している間に、ボスはソファーに腰を降ろし、葉巻を吸っている。

「スノウ」

その声にビビ王女は、私に。

「あ、忘れてた。スノウちゃんの、ボスの服は、あっちのクローゼットにある服から適当に選んで着て下さい」

まだ、ボスとはちゃんと話したくないみたい。

「ボス、だそうです!」

「…」

スッと立ち、首元のスカーフを弛めながら浴室にむかって行った。


「ごめんね、私まだ」

「いいんです、あ、あの、さっきボスから聞いたんですが。国王様に面会するってきいたんですけど」

「ええ、今回発見した墓の、発掘の件について、父と話をしたんです」

「それで」

「まず、クロコダイルに会ってみると言いだしてね」

「……」

少し、不安になった。


「おなかも空いたでしょ?ランチ頼んでおくね。じゃあ、ゆっくりしてって…ね!」


ビビ王女が部屋から出て行った後、しばらくしてボスが浴室からバスローブを着て出てきた。




「いいぞ、スノウ」

手で濡れた髪を掻きあげた。うわ、かっこいい。思わず固まった。
目が合って。


「どうした?」

「あっ、なんでもないです」

目をそらし、着替えを持って浴室へ急いだ。
 



クリーム色の模様のタイルが敷き詰められた、広めの浴室に金色の猫足の付いたバスと、シャワーがある。
バスにお湯をためながら、シャワーを浴びる。
気持ちいい、シャンプーして体を洗い、バスに沈む。


「ふう」

レインベースでは酔っ払って、ゆっくりできなかったし、潜水艦じゃあお風呂は無いから、ここでゆっくり入ろう!



髪を乾かし。アラバスタの礼服に着替え、洗面所に用意してある化粧品で軽くお化粧をした。
部屋に戻ると、ランチのサンドウィッチが置かれていた。ボスはもう食べ終わっていて、コーヒーを飲んでいる。ボスは、チャカさんが着るような、ほぼ全身黒の服装。それにしてもボスって、何を着ても似合う。




「……」

ボスが私を見て、固まった、ように見えた。

「あ、変ですかね。あ、今、少し暑いので着てませんが、後でこの上に薄いシースルーの長袖を着ますから」

胸のラインが強調され、ウェストがきゅっと引き締まり、裾は長く床に着きそう。

「まあまあだ」

さらりとそう言って、新聞に目を落とす。

「そうですか。これ食べていいですか?」

「あぁ、飲み物は冷蔵庫だ」

「はい」

冷蔵庫を開け、コーラを出す。

気持ちいい風が部屋に吹き込んでいる。熱い砂漠の国の昼下がり。
こうしてボスと二人きりになれる時間は、あとわずかだった。また、明日から潜水艦生活が待っている。

ボスの正面に座り、サンドウィッチを食べる。

「おいしい」

独り言を言った。

「そうだな」

思いがけなくボスが返事をくれて驚いた。

「ボス、よかったですね」


「…何がだ」

「この国の事、本当は好きなんですよね」

新聞から目を離し、私を見てニヤリと笑う。

「まあな、宝が埋まってるからな」

「まだ、ありそうですよね」

「あぁ、あの程度のファラオの墓は、まだまだある」


「まだまだって!?」

口がポカーんと開いた。


「ふっ、間抜け面してねぇで、さっさと食え!」










アラバスタの礼服に身を包んだスノウに、息をのんだ。
思ったよりもボリュームのある胸、腰のラインも太くもなく細すぎでもなく、丁度いい。
下半身を覆うように長い裾が想像力をかき立てる。

そのわりに、普段通り俺の前で、コーラを飲みながら、サンドウィッチを食べ、間抜け面でほほ笑む。

ゆるい雰囲気に、手が、出せなくなる。
昨夜の事も、もう本人の中ではうやむやになってるみてぇだ。





「あの、ボス。ピアノ弾いてもいいですか?」

「あぁ、いいぞ。」


ピアノの蓋をあけ、弾き始める。



♪〜〜
初めて聞く曲だ。
緩やかだが、ほどよく崩されるメロディ。



こいつにはよく驚かされる。
よくもまあ、こうやっていろんな曲を練習もなしに弾きこなすな。



〜〜〜♪

曲が終り聞いてみた


「曲のタイトルは?」

「ショパンのワルツ10番」

「そっけないな。」

「まあ、そんな感じです。次、いいですか?」

「あぁ」



♪〜〜〜


こいつは……
ピアノについてだけ言えば、俺はこいつを天才だと思っている。

どうしようもなくせつないメロディー
臆することなく弾き、聞く者の感情を込み上げさせる。

じつにいい

海賊船に乗せておいたままじゃ、勿体ねぇ。

弾き終えた後、鍵盤に目を移し目を閉じ、苦しそうに呼吸を整えている。
服でも、きついのか?


「どうした」



「ボス、あの、私、離れたくないです」


不意に俺を見上げ、真っ直ぐに見つめる瞳と、思いがけない言葉に、思わず固まる。

「ノースブルーに着いたら、ボス達と別れるんですよね」

「そうだな」

「嫌です」

「お前の為だと言ってもか」

「嫌です」

「そうか」

スノウの肩に手をのばそうとした時、気配を感じ、身体を離した。


コンコン






ドア越しに声が聞こえた。


「俺だ、コーザだ」


ボスが、鏡の前で髪をサッと掻き上げ、身なりをチェックし、ドアを開ける。
ボス自ら出てきた事に少し驚くコーザさん。


「あ、国王との面会時間なんだが、5時丁度に俺が迎えに来る。少し遅くなって申し訳ない。
 それと、面会には、スノウさんも一緒で」

私に頬笑んだ。

「じゃあ、5時に」

コーザさんが去って行った。




「紅茶を頼む」

「はっ!はい」
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