出航!

□第五章 ウォーターセブン編
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航海は、順調で、私たちは特に何もすることもなく、部屋で私は譜読みをして、ダズは、トレーニングの腕立て(1000回)→腹筋(1000回)。片手腕立てや、逆立ちして腕立てなどバリエーションを織り交ぜてトレーニングに励んでいた。

昼前にボスが部屋に戻ってきて、ソファーにドカッと座り、長い足を組んだ。


「スノウ、紅茶を」

「はい!ボス」


部屋のポットで紅茶を淹れる。
魚人島で買ったカップをさっそく使った。


「ボス! 航海は順調ですか?」


「あぁ。スノウ、そこに」


鉤づめでベッドを指した。座れってことだよね。


「はい」


ベッドに座ると、鉤爪の方の袖のボタンを外し、肘までめくり上げ、私の前にのばした。


「マッサージですか?」

「いや、握るだけでいい」

「はい」


両手でそっと触れる。
体温がダイレクトに伝わる。

それにしても、黒い服を着ているせいか細く見えていた腕も、実際こうしてみると筋肉質でガッチリした男の腕。腕と鉤づめとの接着部分(接着なのか密着なのか)には特に擦れたような跡も無い。それに、この重量感のある鉤爪はいったい何キロぐらいあるのだろうか。





沈黙……。





ボスは右手で紅茶を飲み、目を閉じている。横顔もかっこいい。


「お前は、気付いてねぇのか?」

「はい?な、何がですか?」


不意にボスが腕の力を抜いたので、鉤爪と腕の重みがかかった。


「わわっ!」

「フッ、もういいぞ」


袖を戻し、ボタンを羽目ながら嬉しそうに笑う。


「なんですか?気付いてないって?」

「解らねぇか?」

「え、はい、すいません」

「……まあいい」

????

「なんか気になります」

ダズを見ると、ダズも首を傾げた。




なんだろう。時々、ボスは訳の解からないことを言う。

ダズが言うには、おおよその一般人には理解できないだろうが、ボスの思考は計り知れない。例えば、とっさに取ったと思われる行動一つにも意味があり、それが後々になってから解かるのだという。
だから、ボスは気まぐれでお前を連れてきたわけじゃない。
なにか、意味があるはずだ。

まあ、つまり“鴻鵠の志“みたいなものなのかしら。
国一つ、手に入れようと画策したぐらいだもんね。

納得、納得!










それから航海は無事に続いた。
他の海賊船には遭遇したはしたが、七武海ハートの海賊団のマークを見るなり船は引き返し、水平線の彼方に消えて行った。
操縦は、ボス&ピエールさん、ベポ&ロー船長の交代制。
操舵室に食事を持って行くと、ボスが舵を取っている姿が見られた。
漫画ではあまり描かれないから、新鮮で、なんか、何度も言うが、かっこいい。
ピエールさんが言うには、グランドラインの海はやっぱり危険がいっぱいだが、ボスにはその危険が予め判かるらしく、うまく回避しながら進んでいるらしい。ロー船長の航海は、ロー船長の能力に頼る所が多く、体力をかなり消耗するらしい。
だから、精力を付けるために、航海の時は、ニンニク料理とか、レバニラとか、豚キムチとか、濃い食事を毎食摂る。ボスに比べたらロー船長は、線が細いし、目の下の隈も、なんだか体調が悪そうに見えたりするし、医者と言いながら自分の健康管理が疎かだったりするのかな。

休憩時間にロー船長からマッサージを何度か頼まれた。
(もちろん、ダズかボスが一緒に居る時。)
ソファーでグッタリとして眠りながらも、変な物音がすると焦って飛び起きる。この人は、航海中は気の休まるところが無いんだな。そして数秒で熟睡状態になる。で、相変わらず臭い息を吐きかけてくる。
魚人島での一件以来、事ある毎に息を吐きかけるので、本人に言ったのは逆効果だったと後悔した。
マッサージした後の帰り際とかによく腕を掴まれ、吐きかけられた。


「スノウありがとな!ハァ〜〜〜〜っ」

「うわっ!」

「何食ったか当ててみろ」

「えぇぇ〜つ、解りません!そんな臭い食べ物あるんですか?」

「餃子だ」

「え !いいな! 私も食べたかった!」

「そうか!じゃあ、ハァァァ〜〜〜〜」

「ヴあ〜〜〜やめてください。餃子ですか!それホントに」


死ぬ!












予定通り、潜水艦はウォーターセブンに到着した。

大きな噴水を頂点とした、ピラミッド型の都市。“ベネツィア“っぽい街で、水路が張り巡らされている。
ワクワクしてダズとサングラスをかけた軽い変装スタイルで甲板へ出た

近くの港に止めようとすると

「おーい! 海賊はあっちだぞー!」

釣りをしているおじさんが叫ぶ。

「わかったー!」

ベポが手を振り、ひと気のない岬の方へ向かった。

ここって、もしかしてメリー号を止めた所じゃない?
ルフィとウソップが決闘した場所じゃない?

キャー

ウキウキしながらダズの服を引っ張り。


「ねぇ、ダズ。ウォーターセブン楽しみだね」

「ああ、今、隣の島がカーニバル期間だろうから、仮面を付けて出かけてみるのもいいかもな」

「カーニバル!? 仮面!?」

「フフフッ……、あぁ」


なんだかダズも楽しそうに微笑んだ。




ポッポー……

海列車の汽笛がどこからか聞こえる。


岬に船を付け、ロー船長、ペンギン、ベポは、ガレーラカンパニーへと向かい、私たちは、“水の都“ウォーターセブンへ! の筈だったが。



先発隊のキャサリンさん達に仮面を頼み、午前中はワクワクしながらボスたちと留守番をしていた。
(素顔でこの二人が、街をウロついたらまずいでしょ…ってことで、仮面がくるまで待機)
ピエールさんは、キャサリンさんと買い出し。スティングさんは物資の調達。私は、食堂でピアノの練習をしていた。もちろんダズも、今日は珍しくボスも食堂に来てくれた。

ベートーベンの“ピアノとチェロのためのソナタ“
音源がないのでイメージしずらく、メロディーを歌わせるように弾くにはまだまだで、そして、チェロなしでピアノだけの演奏は、さびしさが増してくるので、たまにチェロパートを口ずさみながら弾く。

「ふっ」

ボスが少し笑った。

「笑わないでください。チェロがないと、なんだか曲が悲しくなるんです」

「そうか、俺はいいと思うが」

「そうですか!?」

思わぬ褒め言葉に嬉しくなり、思わずボスの方を見ると、目が合った。でも、すぐにプイっと逸らされ、コーヒーに手を伸ばす。







最近気付いた。
演奏中他の曲を思い浮かべると、その曲を弾いてしまうことに。どうやら私は“想うだけで指が動く”能力らしい。
だからメロディーさえ掴めれば、自然に演奏できた。
初めの頃はそれが気持ち悪く感じていたが、慣れてくると、夢みたいに色々な曲が次々と演奏できていた。

この世界に来た代償なのかな?



「じゃあ、この曲どうですか?」


すこし嬉しくなって、思い出した曲があった。


♪ショパン、ポロネーズ6番“英雄”


小さい頃は、難しくて泣いたな。

あぁ、スタッカートをきつ過ぎず、ゆるすぎず。

う〜ん
まだまだだな


でも、弾けた時は、両親に褒められたっけ。




〜〜〜♪







「そうか、俺はいいと思うが」 
 
“らしくねェ”一言だったと、言ってからハッとした。
が、あまりに嬉しそうにほほ笑むので目を逸らした。
そんな俺に慣れてきたせいか、スノウはいちいち目を逸らした訳を詮索するつもりもないらしく、じゃあ、この曲どうですか?と、演奏を始めた。


今更ながら、スノウの才能には驚かされる。
いつの間に練習したのか!?


力強く鍵盤を叩く。打楽器の演奏のような雰囲気に、繊細な調べが織り込まれている。


「何という曲だ」

「“英雄“っていう曲です。昔、練習していて、泣くほど苦労したんです」


遠くを見つめて笑う。
明らかに俺達とは違う、平和で穏やかな日々を過ごしてきた、そうゆう表情だ。
その生活をこいつから奪っちまったのは悪かったと思っている。

スノウの俺に対する忠誠心には、偽りは無い。
だが、それは俺が脅し、俺に対する恐怖から作り上げたもの。
はじめはそれでいいと思っていたが、こいつを知れば知るほど手に入れたくなった。
力づくで奪うチャンスは幾らでもあった。

それが何故か出来ねぇ……コイツをこれ以上怖がらせたくねぇし、あの笑顔を失わせたくはなかった。
無理やりやっちまったら、嫌がるだろう。

ただの上司と部下か。

それ以上の関係を求める事は許されねぇのかもしれねぇな。
お前はどうしたい?



「フッ」

「そんなに可笑しいですか?」



笑った意味は、おまえには考えもつかないだろう。


ダズが食堂のベンチで眠っている。
厨房の若造がコーヒーを淹れてくれたので、それを飲みながら、スノウのピアノを楽しんだ。練習の合間に、実に変わった曲をサラッと奏でる。楽しそうに……。何もなければずっと1日中、弾き続けそうな勢いだ。
あの街にいた頃、もっと早くこの才能に気付いてやっていれば良かったと、少し後悔した。
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