出航!
□第四章 魚人島編
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「クロコダイルとトラファルガー・ローと、このお嬢ちゃんは?」
「スノウです。はじめまして。ぅわ!」
ボスが私をさっと抱き抱えカメから飛び降りた。そして、私を降ろし、元七武海ジンベェと握手をする。
「ここに居ると聞いてな」
「マリンフォード以来じゃな」
「あぁ。少し、聞きてぇ事がある」
二人は、珊瑚の岩に腰掛け、なにやら話を続けている。
長い話かな……。
そういえば、確かこの森の奥には“ポーネグリフ”があるはず。
優しい風が頬をくすぐった。
「ボス。少し森に入ってもいいですか?」
うなづいたのが見えたので、早速出発!
「おい!どこに行くんだ」
ロー船長が服を引っ張った。
「さ、散歩です」
「はぁ?おめぇ、なに言ってんだ。一人でこの森に行く気か!?」
「少しだけですから多分一人で平気です。そんなに心配なら付いてきてもいいですよ」
「ったく。知らねぇぞ」
ロー船長が背中を向け手を振った。
「いってきます!」
私は一人で歩き出した。
ん〜んンん〜んんん〜〜〜
気分は、となりの○○ロの“さんぽ“かな
♪あるこ○ あるこ〜 わたしは元○〜〜 ♪
歌詞が分からないところは時々鼻歌で、歌いながら森の奥に進んでいった。
それにしても綺麗な景色!
私を誘いこむように心地よい風がふわっと頬を撫でる。しばらく狭い潜水艇に居たせいか、余計に気持ちいい。
すると、前方にひときわ大きな珊瑚の森があった。
直感的に思った。たぶんあそこだ!
「おい!」
不意に呼ばれて振り向くと、ロー船長が大きな珊瑚の巨木に寄りかかり、腕組みをして立っていた。
尾行いてきてたの!
う、歌 聞かれた!?
でも、ポーネグリフがありそうな場所が目の前にあるのに、諦めるわけにいかない!
「どこまで行く気だ!」
「ロー船長。あそこです。たぶん!」
我ながらおかしな返答をしてしまった。
「“たぶん“って何だ」
スノウが跳ねるように駆けて行った。
入り組んだ珊瑚の谷間にそれはあった。
部分的に苔むした謎の文字が記された立方体、天上から光が差し込みキラキラ輝いている。
「やっぱり」
目をキラキラさせて興奮するスノウ。
「…………」
ため息が出るほど謎めいていて、歴史の重さを感ぜずにいられない。
「おまえ、これってまさか」
「うん、本物を見るのは初めて!」
「おれもだ」
奇跡か?
ポーネグリフ。
スノウを見る。
くそっ、美しい。
ただ単純にそう思った。
衝動的に、今にも駆けだそうとしたスノウの手を掴んだ。
うっ
ドクンと心臓が跳ねたのが解った。
少し胸が痛んだ。
なんだ!?
手を掴んだまま動けなくなった。
「ロー船長!」
不思議そうに見つめるスノウ、掴んだ手を手首を回転させ、ぱっと振りほどき、
「止めても無駄ですよ〜」
いたずらに笑って、ポーネグリフまで駆けて行き、文字の書かれた面にタッチする。
「やった〜! 1番!」
「おめぇなぁ〜〜〜そうゆうことかよ」
ゆっくりポーネグリフに近づき、その大きさと文字の不思議さに驚嘆した。
「すげぇな」
「うん」
スノウは急に静かになり、文字を指でなぞり、石に額をくっつけて何か考えている。
「何が書いてあるんだろうな」
話しかけたが、返事がこない?
片手をポーネグリフに付け、スノウの顔をそっと覗いた。
すると俺と目が合うとスノウが急に、クスッ、と笑った。
「どうした?」
「ごめんなさい……」
「なんだ」
「ふふっ。あの、ロー船長。気を悪くしないでね。あの、ふふふっ」
スノウがなぜか、めちゃくちゃ笑っている。
「だからなんだ?」
「ロー船長、さっき何食べたんですか?」
「は?」
予想打にしない質問に固まった。
「あの、すごく息が臭いんで。その、何食べたのかと思って」
そんなに臭かったのか!?
「豚キムチ丼!」
「ランチ、豚キムチ!? だったんですか? いいな〜」
「疲れてたからな」
「食べた後、歯とか磨かないんですか?」
そういや、ここんとこ磨いた記憶がない。歯ブラシもあるかどうか……。
正直、今までそんな事を気にしたことは無かったし、面と向かって言う奴なんていなかった。
自分自身、まったく気付かなかった!
なんだか急に恥ずかしくなり、それをサラッと言って微笑むスノウに、どこか負けた気がした。
こいつめ!
「海賊がそんな事するか!(スノウの両肩を掴み)ハァ〜(スノウに息を吹きかけた)」
「うわっ! やめてください! 臭っ!」
嫌がるが、それよりも可笑しいのか爆笑している。
なんか、いいな。
「参ったか!」
「あ〜幻滅です! ウフフフ…」
「なんだよ。あの船に居る奴なんて皆こんなもんだぜ。ハァ〜〜〜」
「うわっ!!! でも、船長、せっかく、かっこいいのに勿体ない、フフフッ」
スノウの笑顔と“かっこいい“って言葉に頬が緩んだ。
今度はキス出来るくらい顔を近づけ
「ハァ〜〜〜っ!」
「うわっ!やめてください〜うぇ〜〜死ぬ〜!」
「ハハハ…死ぬはねぇだろ。ったく」
「楽しそうだな」
振り向くとクロコダイルが凄み顔で立っていた。
急いでスノウから手を放し離れた。
やべえ。いつからいた!? いつからいた!?
焦った俺と目が合うと「フッ」と笑い、スノウの肩をスッと抱いた。
「ボス?」
スノウはクロコダイルを見上げる。鉤づめでポーネグリフを差した。
「何を知っている」
フーっとスノウに煙を吹きかける。
「ん。煙っ、ボス、やめてください」
「質問に答えろ」
「解らないけど、なんだかとても悲しくなったんです」
「そうか」
フーっと煙を吹きかける。
「もう、ケホッ。 ボス、止めてください。煙たいです!」
クロコダイルの息は、臭くねェのか!?
少し離れた珊瑚に腰掛け、俺は、まじまじとポーネグリフを見上げた。
ボスが静かに話し始めた。
「“ポーネグリフ“には、いくつか種類があってな、古代兵器のありかや、真実の歴史を記した”リオ・ポーネグリフ“があるそうだ」
「そうなんですか?」
「前に、こいつを読める奴から聞いた。聞いた事ねぇか? 二コ・ロビン」
(すごい知ってる)
「女の人、ですよね」
「あぁ」
遠くを見つめる。
ボス、何を考えているんだろう。ロビンさんの事? やっぱり、ボスとロビンさんは過去に何かあったのかな。
「あの、その、ロビンさんとボスは恋人だったんですか?」
「はぁ〜、(ため息) そんなんじゃねぇ。あいつは、お前とは正反対の隙の無ぇ奴で、終いにそいつに殺されかけたぜ」
ポーネグリフを見つめ、ボスがつぶやいた。
「プルトン、ウラヌス、ポセイドン」
「何ですか?」
「古代兵器の名だ」
「古代兵器?」
「その中の一つ、プルトンを俺は求め、ある王国を支配しようとした。だが、突然現れた海賊の一味の船長に敗れた。そして、しばらくインペルダウンだ」
(知ってる。すごく知ってる。この事が顔に出てないといいんだけど)
昔を懐かしむように、低い声で話し続ける。
「それから、そいつはまた俺の前に現れ、面白れぇことに、頂上戦で共闘させられた。バカみてぇに掴みどころのねぇ奴で、助ける気はなかったが、結果的に助けちまった」
「不思議な人ですね」
「ったく。ただのバカだ。なぁ、トラファルガー!」
「そうだな」
ロー船長は、静かにつぶやいた。
「冷っ!」
ボスに肩を抑えられ、ポーネグリフに押し付けられていた。
大きな鉤づめの付いた肘を上げ、丁度ボスのわきの下に、私の頭がすっぽり入り込む態勢になった。身体を寄せ、顔が近づいた、ボスの体重を感じた。
「アサヒ」
「…………」
何? 何? 何かした私!?
金色の瞳が射るように私を見つめる。目を逸らせない。
それから顔がゆっくり近づいて。
「この島に、来た事があるのか?」
低い声で、耳元で囁いた。
質問に答えようと顔を向けると、もうキス出来そうなほどボスの顔が近くにあって、息が止まる。
品のいい香水と葉巻の香りが押し寄せ、ドキッとした。
「いいえ、話を聞いただけです」
尚も刺すような視線が、私を捕え視線を外せない。
「じゃあ、なぜ、ここに、これがあるのが解った?」
「なんとなくです」
「なんとなく?お前は、ここにまっすぐに辿りついた。なんとなくで出来るものなのか?」
私の目を見つめ考え込んだ。
ボスの言い分も解る。確かに、初めて訪れた魚人島。不意に興味本位で入った森で、こうも簡単にポーネグリフが見つかる訳がない。ましてや漫画で見たから、なんて言えないし。
「なんとなく、風が気持ち良くて、その向こうに何かありそうな気がしたんです」
その瞬間、不意に風が吹いて、私の髪をフワッと揺らした。
「…そうか」
ボスは何かを理解したのか、少し口角が上がり笑ったのが解った。それから葉巻をくわえ、また私を見つめた。顔が近すぎて、タバコの煙が、ボスが呼吸をするたびにかかった。
「煙たっ…」
臭くはないけど。
「フッ」
「なんですか?」
「それと、何を、話していた?」
「何って?」
「さっき、あいつとだ」
ロー船長を見た。
……言っていいのかな。
「言えねぇ事か」
煙草の匂い。
「いえ、大したことじゃないんです。多分聞いたら、がっかりするかと」
「聞いてやる」
「えっと……」
ロー船長の方を見た。
「……かまわねぇ」
不機嫌そうな顔で私に言った。
「あのですね…」
なにやらスノウとトラファルガーが楽しげにしていたので、少し気になった。
男と一緒に、あんなふうに笑うスノウを見るのは、はじめてだった。らしくねぇと思ったが、聞いてみた。
案の定、くだらない話だった。
「海賊の息が癖ぇのは当たり前だ。笑うのは失礼だぞ」
トラファルガーにフォローを入れたつもりが”でも、ボスたちのは臭くないけど”と、返されさらに、トラファルガーにとどめを刺す形になった。
俺を気遣っての嘘じゃねぇことは、こいつの目を見れば解る。
「フッ……ハァ〜〜〜」
スノウに息をかける。
「んっ。もう! ボス! フフフッ……」
普段はあまり見せない、満面の笑みに、固まった。さっきトラファルガーに向けられていた笑顔を、俺にも同じように見せた事に満足していた。
このまま……、と思ったが、果たして許してもらえるのだろうか。
こいつは俺を受け入れてくれるのだろうか。
目を閉じ、衝動を抑える。
それと、もうひとつ気になっていた事を聞いた。
「スノウ、ダズから聞いたが、お前は俺の邪魔になっていると思っているのか」
笑顔が消え静かにうなづいた。そして俺をまっすぐに見上げる。
「ボスは、海賊王にだってなれる器の持ち主です。こんな、私なんかの為に、グランドラインを逆走するなんて」
“海賊王にだってなれる器の持ち主”か。
「クアハハ…お前の為? 笑わせるな!」
「え、違うんですか?」
「少し、用があってな。お前は、ついでだ! 情けねぇ顔するんじゃねぇ」
葉巻の煙を吹きかけた。
「うわ、煙っ!」
手で頬を包み顔を近づけた。
柔らかい頬は、ほのかに甘い香りがして、薄ピンク色の口元は驚きで、少し開かれていた。
「ここに残りてぇなら、置いて行ってやってもいいぜ」
また、心にも無ぇ事を言ってしまった。
「なっ! …もう!」
驚いた顔が一気に怒った顔になり、俺を睨んだ。
フッ……その目だ!
これを見たくてつい心にも無ぇ事を言っちまう。
「あの娘か、クロコダイルのお気に入りは」
元七武海ジンべエが巨木の陰から姿を現した。
「あぁ、イチャつきやがって」
「あの時は、助かった。礼を言う」
「いいよ。気にするな。それにしても、あの後、マリンフォードでまた騒ぎを起こしたのには驚いたぜ」
「はっ、はっ、はっ、提案したのはレイリーさんだ!」
「だろうな」
「わしも驚いたぞ。おまえさんが七武海になるとはな」
「いろいろ計画があってな」
「それにしても、クロコダイル。おかしな娘を拾ったな」
「あぁ、聞いたのか?」
「あぁ、そうじゃ。
実際、話を聞いて驚いた。悪魔の実の能力者ではなく、生まれ持っての力とはな」
「あぁ、本人もまだ解ってねぇ力もありそうだしな」
手を見つめた。あの時の妙な違和感が離れない。
「そうかい。不思議な娘じゃな。
クロコダイルの奴、お前たちが森に入るとすぐに、焦ってお前らの後を追ったんじゃ。
よほど大事にしているんじゃな」
マジか!? ずっと見られてたのか!? あれ以上やりすぎてたら、殺されてたかもな。
「お前さんたちは、これからグランドライン前半か?」
「あぁ、カームベルトを抜けれはノースブルーは、すぐだったが、クロコダイルの奴、少し用があるんだとよ!」
「そうか、この島を出るときは、案内人を付けてやる。まだまだ物騒だからな」
「ありがてぇ」
「…………」
ジンベェはクロコダイルとスノウを見る。
「ところで、さっき、あの娘と何を楽しそうに話してたんじゃ」
おめぇも見てたのかよ……。
「な、なんでもねぇよ」