出航!

□第四章 魚人島編
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操舵室のクルーたちは無事に到着出来たことにホッと安堵し、ピエールさんは床で爆睡。
ロー船長とベポは、甲板に出て、魚人島の入国手続きをしている。
ようやくボスは、甲板に出て、葉巻の煙をフゥーーーーと気持ちよさそうに吐き出し、魚人島の空を見上げた。



「スノウ。まだ、安心できないから。中に居ろ」


ダズが呼んだ。


「うん、でも、早く上陸したいね」

「そうだな」

「ダズ、今度こそ一緒に、買い物だよ!」

「ああ」


ダズが笑った。
そうこうしていると、ボスが魚人島の軍の誰かと話をしているのが見えた。










魚人島には3日滞在し、その間にコーティング、船の修理、燃料の補給、生活物資の補給に充てられる。
世界政府の海軍基地はなく、“ネプチューン軍“と言う魚人島独自の軍隊があるが、正式に入国しているため、特に事件を起こさない限り追われる心配もない。


部屋に戻ると早々に、ボスはカーテンを閉めベッドで眠ってしまった。
隣のロー船長の部屋からも、低いいびきが聞こえた。


ボスが無防備な間はダズか、私が見張りをしないと、という暗黙のルールがあるのだが、私も単独行動は控えなければならないので、ダズが先発隊で買い出しに出かけることになった。
ダズは、サングラスにキャップをかぶり、この前買ってきたTシャツと黒のジーンズにブーツを履いて出て行った。サングラスをかけると一段と凄みを増すダズ。スタイルもいいし着こなすセンスも持ち合わせているので、どんな格好でも様になる。


「キャーっ!!! ダズ様」


キャサリンさんの悲鳴が聞こえた。


「様はやめろ」

「じゃあ、ダーリンでいい?」


二人の会話が徐々に遠ざかる。
ふふふっ。キャサリンさんって面白い。一緒に行きたかったな〜。



ボスの寝顔をカーテンの隙間から覗き見る。

わ! ちょっと待って!!!

心の準備をしてからもう一度覗きこむ。

シャツのボタン全開!!!

筋肉質の胸がゆっくり上下していて、悩ましげに乱れた髪、額に右手を載せ少し横にうつむき、眉間にしわを寄せている。


……い、色っぽい。
ボスの寝顔をずっと見ていたい気持ちを抑え、私のベッドから毛布を取り、そっとお腹に掛けた。

そして、いつもはボスが座る大きな1人掛けのソファーに座り、譜読みを始めた。
ベートーベンの“ピアノとチェロのためのソナタ“
ボスが好きだと言ってくれた曲なので早くマスターしたい。
自然と音符を口づさんでいた。


「…フ」


不意にボスの声がした。


「あ、すいません。起しちゃいました?」

「……」


……寝言かな?


まあ、気にせず譜読み。またボスの寝息が聞こえてきた。
目を閉じると、魚人島に着いた時の光景が広がった。
次第に瞼が重くなり、ふっと目を閉じると睡魔が私を襲った。







どのくらい過ぎたのだろう……。


船員達が話しながら歩く声が聞こえた。
時計を見ると、お昼を過ぎていた。


「あ」


自分の膝に毛布が掛ってあったのに気付き、ボスのベッドを見るが、まだ眠っているのが、かすかな寝息が聞こえている。毛布掛けてくれたのボスかな?

隣の部屋から話声が聞こえたので部屋から顔をだすと、シャチさんが丁度、ロー船長のところに来ていた。
コーティングの話をしていて、私に気付いたシャチさんが片手を上げた。


「“昼飯、これから持ってってやるよ“って、ジャックが言ってたぜ」

「ありがとうございます」

「お前のボスは起きたか?」


眠そうな顔のロー船長が聞いた。


「まだです」

「そうか。ふぁ〜〜〜」


あくびをした。


「じゃあ船長、行ってきます」


シャチさんが出かけて行った。



「……なぁ、スノウ。すこし、手を貸せ」


ロー船長が眠そうに頭を掻きながらやってきて、刺青だらけの右手を差し出した。


「はい。なんですか?」


右手を船長の手に載せると、掌を見たり、ギュッと握ったり骨か何かを確かめるようにしていた。


「そっちの手も」


左手も同じように診察していた。


「何か、あるんですか?」

「お前の手な」


難しい顔をして、私の両手を、両手で掴み、顔を上に向け目を閉じた。


「ん、なんとなくだけど、触ると」


考え込んでる。


「なんですか?」


手を離し考え込む。



「…………」


言うか言うまいか迷ってる感じ。


「……あの、気になります。言ってください」


「どうゆう表現したらいいか迷ってな。なんとなくだ、お前の手を触ると、その、なんとなく“興奮”した。とでもいうか」


言った後、ニヤリと笑った。


「え?」


興奮?


「へんな意味じゃねぇぞ。じゃあな」


部屋に戻って行った。


「え、変なって???」


「スノウちゃ〜ん、おまたせ!」


ジャックさんが昼食をトレーに乗せて持ってきてくれた。お腹が空いていたので、神様に見えた。


「わ〜、今日のメニューは何ですか?」

「今日は、親子丼。はい、クロコダイルさんの分も」

「わぁ! 親子丼!!! ありがとうございます」


振り向くとボスはもう起き上がっていて、鏡を見ながらシャツのボタンを止めていた。


帰り際にジャックさんが

「せっかくの魚人島なのに留守番もつらいよな〜」

「そうでもないです。ボスと一緒だし、おいしい親子丼もあるから!」

「スノウちゃん、ボスに振られたら俺のところに来なよ! 優しくするぜ!」


ウィンクした。ノリ軽っ!


「ジャックさんからかわないでください!」


ゴホッ。
ボスが咳ばらいをした。


「うわっ! じゃあスノウちゃんまたね〜」


ジャックさんが逃げるように去って行った。


「もう、軽いんだから」

「いいんだぜ、スノウ」


ボスがニタリと笑った。


「何がですか!?」


思わず睨んだ。鏡越しに金色の瞳と目が合った。少し乱れた髪をワイルドに描き上げ後ろにもってゆく。
そしてゆっくりソファーに腰を降ろした。


「ボサっとしてんじゃねぇ。ランチだ」

「はい、ボス」


小さいテーブルに、親子丼のお皿を置き、紅茶を淹れる。親子丼に紅茶か。
ボスもお腹が空いてたのか、もう食べ始めていた。


「いただきます」


おいしい! 
出汁が効いていて、卵のとろとろ感がまた絶妙!


「おいしいですね」


いつもはダズがうなづくか「うん」とか「そうか」とか答えてくれる。
いつもの癖なのでつい言ってしまった。


「そうだな」


低い声がつぶやいた。驚いてボスを見た。そんな私を、もう食べ終わったボスは怪訝そうに見た。


「なんだ?」

「あ、いえ。ボスがおいしいって言うくらいだから。ここの料理人さん達、すごい人たちなんですね」

「あぁ、あのさっきのチャラい男も、なかなかの腕だぞ」

「わかるんですか?」

「クハハハ、おめぇさえその気になりゃ、ここの男どもと取っかえひっかえ楽しめるぞ」

「何言ってるんですか!?」

「赤くなりやがって、何を想像した?」

「なっ、何も」


慌てて、ご飯を頬張った。ボスもそれ以上突っかかってこなかったので、ホッとしていると。



「スノウ、さっきトラファルガーに何を言われた」


一瞬で、空気が張り詰めた。

そう、さっきロー船長に変な事を言われていたのを、親子丼やジャックさんの登場ですっかり忘れていた。
頬張っていたご飯を呑み込んでから、


「あ、手を見せろと言われて見せました」

「それで」

「あ、なんか、変なこと言うんです。ロー船長」

「何だ」

「その、変な意味じゃなくて、その」


言っていいものなのか迷った。ボスは、目を細め金色の瞳で威嚇するように見つめてくる。


「何だ。言ってみろ」


声はいつもの感じだけど、ピリピリ感が半端ない。


「あの、変な意味じゃなく“興奮”したと」

「“興奮“か」


ニタリと笑った。


「はい」

「フッ。スノウこれから出かける。着替えて付いてこい」

「は、はいっ!」



ボスは先に部屋を出、ロー船長のところへ行った。


「少し出てくる。スノウも一緒だ。来るか?」

「どこに行く?」

「海の森だ」

「そこに何がある」

「知り合いがいてな、おめぇも知ってる奴だ!」

「誰だ?」

「…………」(聞き取れない)
「……いいぜ」







船の甲板に出ると、コーティング屋さんが3人がかりでコーティング作業をしていた。プヨヨン……とした物質が船を覆っている。

太陽みたいに温かい光が魚人島を包み込むように照らし、空を泳ぐ魚の群れに、霞んだ街が遠くに見えた。




「行くぞ。ルーム、シャンブルス」


ロー船長の能力で私達3人は一瞬で陸地に移動した。

船着き場らしき所で乗り物を借りた。
それは大きなカメで、背中の甲羅の上に、4人掛けの座席と前に運転席がある。
ボスは迷わず運転席に乗り込み、手綱を握った。ロー船長もいつの間にか座席に移動していた。


「それっ」


ボスが言って、カメが進みだした。
ハッとして叫ぶ。


「え、あっ、ボス。私、乗ってません!」


振り向きニヤリと一瞥。


「自力で来い」

「え〜〜〜っ」

「ルーム…(サークルが広がった)シャンブルズ」


座席に立っていた。


「あ…」

「座れ。振り落とされるぞ!」

「ありがとうございます」


カメは意外と速く、スーイスーイ……と進んでいく。
下には街が広がっていて、賑やかそうだ。マーメイドカフェはどのあたりだろう……。
ボスは魚人島の地理も詳しいのか、キョロキョロ慌てることもなく、カメの手綱を握っている。


時間的な事を考えて……。
ここにロー船長が居るって事は、まだ、ルフィさん達が来ていない魚人島。
そしておそらく、あのシラホシ姫もまだ塔の中。
人間嫌いなホーディーや、バンダ―デッケンたちに会わないといいんだけど。
葉巻の煙をくゆらせるボスの後ろ姿を見つめた。

街を抜け広々としたところに出た。
きれいな水の網目模様が色とりどりの珊瑚の上で揺らめいている。



「あそこだ」



”珊瑚の森”


とてつもなく大きな珊瑚がおおきな森を形造っていた。


「わぁ、すごい。きれいな場所ですね!」

「あぁ、だがな、俺たちも一歩間違うとああなってたぜ」


視線の先には、森を囲むように船の残骸が朽ち果てていた。


「ここ、天国じゃないですよね」

「フッ」(ロー船長が鼻で笑った)


森の中を進んでいくと、見覚えのある場所があった。

“オトヒメ王妃”の墓。


「あのお墓……」

つい、つぶやいてしまった。
ロー船長がこっちをちらっと見た。

「なぜ解る」

ボスが鋭く聞いた。


「お花がたくさん、供えられてるから」

「あぁ」

振り向きもしない。なんか機嫌が悪いのかな。

「墓か、解らなかったぜ」

ローが言った。

「そう?」














スノウが真っ先に“お墓”と言ったのに驚いた。
上の方に小さい十字架が付いているものの、巨大な建物の様になっているので、“墓“と言うには規模が大きすぎる。
教会とか、寺院とかと間違えるのが普通だ。
前に来たことがあるのか?



しばらく進んでいくと、




「珍しい組み合わせだな」

森の奥から見覚えのある影が現れた。
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