出航!
□第二章
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ものすごく痛くて、死んでもおかしくないのに、ボスに抱き上げられた腕の中で、徐々に痛みは無くなり、傷が塞がっていくのが分かった。
「ん」
うっすら目を開けると、髪が乱れ焦ったような心配そうな、今まで見たこともない何とも言えない表情のボスの顔が目に飛び込んだ。
「(小声で)大丈夫か」
もう、それだけで嬉しくて、コクンと頷くと。ホッとし少し笑って
「(小声)しばらく黙ってろ」
顔を近づけ静かに耳打ちをした。
それから、顔を私の肩のほぼ塞がった傷口に口付けをし、優しくギュウと抱きしめた。
堪えていた感情がこみ上げてきて、涙が溢れた。
「ボス…。(小声)」
思わず微笑んでしまった。じっと黙ってるなんて出来ないよ。
「(小声)黙れ」
“はい“と叫びたい衝動を抑え、必死に目を瞑った。
青キジもこの状況に愕然としていた。
避難場所にアサヒと夢之介の姿が見えなかったので屋敷内を探し、途中で拾った夢之介とともに大広間に着いたところだった。
「見るな!」
夢之介を抱いて立ち尽くしていた。
「なんてこった………誰が!」
クロコダイルがニヤリと笑った。
茫然と立ち尽くすド・フラミンゴ。
血まみれのアサヒを無表情に抱いだクロコダイル。
それからおもむろに、彼女に顔を近づけ愛しげにギュウと抱きしめた。化粧のせいだろうか、アサヒの頬はまだうっすらピンク色が残っていた。
こいつが仲間を、アサヒを、殺ったのか?
「クロコダイル、この娘はお前を慕っていたのに」
冷酷非道……なにも変わっちゃいない。海賊クロコダイル。
クロコダイルはフッ、と笑うと。
「じゃあなド・フラミンゴ!」
下半身砂になった状態で、クロコダイルは城から飛び去って行った。
ド・フラミンゴが茫然としたのは“アサヒの死“だけではなかった。
あいつに抱き抱えられた時、アサヒは、“ほほ笑んだ”。
信じられなかった。
命がけでクロコダイルを想っていたというのか!
安らかな顔をして、あいつの腕の中にいるアサヒ。
なぜだ!
俺の所為なのか!?
アサヒがおまえを裏切ったと思ったのか?
“何てことをしてしまったんだ“
俺が望めば、なにもかも手に入れることができると思っていたのに。
「アサヒ」
俺と一緒にいるのに、クロコダイルの事ばかり考えているアサヒ。
少し強引に事を運べば、俺のものに出来ると思っていた。
昨日の晩、もっと優しくすれば良かった。
そして、ずっとあいつの側にいてやれば良かった。
城から少し北の小島に、クロコダイルはアサヒを連れて飛んだ。
サンゴで出来たこの島は無人島で、島の内部は入り組んだ洞窟が張り巡らされ、入口は無数にあった。ダズが、クロコダイルに指示された洞窟の入り口で待っていた。
戻ってきたクロコダイルとアサヒを見て、ダズが上着を脱いでアサヒにかぶせた。
「ダズ、ありがとう」
「アサヒ、お前は念のため、まだ黙ってろ。ダズ、船は来たか」
「もうすぐです」
私は目を閉じ、死んだふりを続けた。
ティアラやイヤリング、靴までも、ドフラミンゴのところで身につけた宝飾品は、そこから足取りが判明される可能性があるので全て捨てた。もったいないなぁ。
なんて考えながら、こうしてボスに横抱きにされてる状況に至極満足していた。悪者から助け出された“お姫様“の気分!
しかも、暖かいし、ボスが何か話す度に、ボスの太い声がズンズン響いて心地いい。
計画通り、アサヒを確保し、小島の洞窟に着いた。
10分ほど奥に進むと、ぽっかりと空いた大きな空洞にたどりついた。
目の前には、透明度の高い澄んだ水が湛えられた湖。風も無く、生き物もいる気配がしないため、水面は鏡のように静かだった。
歩いているうちに、アサヒの寝息が聞こえてきた。この状況で能天気に、俺の腕の中で昼寝か!?
ったく。
葉巻を吐き捨て、船を待った。
ボコッ、ボコッ…
水の底から、ぶくぶくと泡が立ち、ザバ〜っと、黄色い潜水艇が現れた。
扉が開き、七武海トラファルガー・ローが現れた。
船長自らが出迎えとは。
「早く乗れ」
黒い長そでのTシャツに、アニマル柄のパンツ姿のトラファルガーは、俺とアサヒを一瞥して、眉間に皺を寄せ、険しい表情をした。
俺達が乗り込み、ハッチを閉めると、潜水艦は再び潜水した。
この辺の海域は深く、海軍のレーダーにもつかまりにくい。この海域から出るためには潜水艇が好都合だった。
死の外科医トラファルガー・ローの協力を得られたことは、俺達にとって幸運だった。