出航!
□第十一章
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第11章
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鏡越しにカタクリお兄ちゃんの嗚咽が聞こえる。
朝ごはんは何がいいか、聞きにきたつもりが、泣きじゃくる兄の姿につられ、自分も涙が溢れていた。
スノウさんは、カタクリお兄ちゃんと結婚するのが当然、と思っていただけに、突然のスノウさんの家族の来訪は予想だにしないものだった。
スノウさんもそうだったように、この子供も、私を見ても怖がらず。カタクリお兄ちゃんの治療中、一緒にスノウさんの部屋で待つことを伝えると、私の手を掴み、お菓子の載ったテーブルを指さし、「食べていいですか?」と聞いてきた。
一瞬、ドキリとするくらいのキラキラした金色の瞳。黒髪で笑顔はスノウさんに似ていた。
一緒にマカロンを食べながら、私の顔の大きな傷を「痛かった?」と聞くので、「すっごく痛かった」と言うと、「ぼくがいたら、すぐ治したのに」と私の傷をさすって言った。あまりにも優しく柔らかであたたかな感触に、本当に傷が消えるんじゃないかと思ったほどだった。
こんなに幼い子供と、突然離れ離れになってしまったスノウさんの辛さも、今なら、凄くわかる。
スノウさんの息子さんは、5歳にしてはしっかりしていて、私の質問にもいろいろ答えてくれた。
「どうやってここまで来たの?」
「空を飛んできた」
「空?」
「パパがママに、会いに行くっていうから、船から飛んできた。ぼくは、パパを見はってるのが仕事だから。だから、いっしょに来た」
「見張る? お父さんを?」
「うん、パパいつもフラフラ出て行っちゃうから、ママがいないときは、ぼくがついてるんだ」
「ふ〜ん。で、なんでカタクリお兄ちゃんと、手合わせすることになったの?」
「てあわせ?」
「……“戦い“のこと」
「うーん、すっごくその”カタクリお兄ちゃん“って人が強くて、パパ、負けそうだった。でも、僕がママのところに行ったあと、パパが”なにもしてないのに落ちた“って言ってた」
二人の間に何があったの!?
カタクリお兄ちゃんが足を滑らせるなんて! 絶対にない!
スノウさんの夫は、恐らく、かなり強い能力者。
悔しいけど、兄は、想定外のなんらかの能力で、彼に負けたのだと私は心に言い聞かせた。
うとうとしかけたスノウさんの息子に、毛布を掛けると、横になり私の膝にコロンと頭をのせた。
そのまま眠ってしまい、私もどうしていいものか分からず、その顔をみながら、兄弟たちの小さい時を思い出し、そのまま一緒に眠ってしまっていた。
Zzz……
エドガー卿の来訪と、スノウさんの夫と双子の女の子たちの騒ぎ声で、私たちは目が覚め、朝食の準備の手配をするべく、カタクリお兄ちゃんの部屋へ…………入れる状況じゃないみたいなので、私は厨房にいるシェフにこう伝えた。
「この城にある、ドーナツとケーキを、ありったけ、お兄ちゃんの部屋にお願い!」