出航!

□第八章 GL逆走編完結
9ページ/9ページ

9

俺達は、北の街”セント・アンドルーズ”へむかった。
休憩も入れ、2時間ほどで街のはずれに到着し、電々虫でこの街に潜入している、クロコダイルの仲間と連絡を取った。


プルル……ガチャ


「はい!」


子供の声?
この番号で合っているのか?



ブチッ


もう一度番号を確認し、再度かけなおすと、

プルルルル……ガチャ


「……はい」

さっきと同じ声が、今度は警戒しながら返事をした。
確かに、女とは聞いていたが、これで合っているのか。
とにかく必要最低限の事を伝え、様子を見ることにした。
場所は、事前に伝えてある。
本当に、あいつの部下なら、わかるだろう。


「……その……女を、約束の場所まで連れてきた」

「わかった! いま、迎えにいくねー」



ガチャ


「…………」



拍子抜けするような軽い返事に、困惑した。

もしここに誰も来なければ、また、こいつを祖母ちゃんの家に預け、俺だけクイーンへ戻りクロコダイルに事情を話し、再度、ここへ戻ってくればいい……。



4時過ぎか……


待ち合わせの場所近くは平地で少し開けていた。小さな湖があちこちにあり、短い夏にしか咲かないブルーベルフラワーやピンクのスカビオサが風に揺れている。
馬の手綱を引き、湖のほうへ歩いて行くスノウの後ろ姿をぼんやり見つめていた。


ようやくこの旅も終わる。


厄介な事に首を突っ込んじまったと後悔もしたが、収穫もあった。

”賢者の石”

これ一つで、国一つ買える程の価値があるといわれている。
その原料となるスノウを手放すのは惜しいが、クロコダイル曰く、”いづれ必要になる” その時まで、こいつをここに匿わねぇと。





 










……、まだなの? 腰痛いんだけど」

「もうちょとだよ」

「ちょっとっちょっとって、全然ちょっとってきょりじゃないじゃない、






遠くの方から女たちのしゃべり声が聞こえてきた。

まずいな、一般人か?


黒髪の女の子供に、メガネをかけた太った女。母親か?


物陰に隠れ、通り過ぎるのを待つことにしたが、この子供の声に聞き覚えがあった。



「おかしいな〜」 

「なになになに」

「誰もいないな、ここで合ってるはずなんだけど」

「さては冷やかしなの! チッ、失礼しちゃう。腰痛いのがまんして来たのに!」



本当に、こいつらなのか!?




子供の方がキョロキョロし、湖の方にいたスノウをみつけた。


「あ、あの子じゃないの」

「え、どこどこどこどこ」




「ルーム……」



『え?』(ミス・ゴールデンウィーク&ミス・メリークリスマス)


二人をサークルで捉え、真っ二つにしてやろうと、刀を振った。
不意を突いたつもりだったが。子供は、俊敏に地面に伏せ、母親(?)の方は、地面に潜った。



「まずはお前だ! 気を楽にしろ」


子供の方に、もう一度、刀を振ろうとすると、



「グワッツ……」


地面から出てきた、母親(?)に足を引っ張られ地面にめり込み体勢を崩した。その隙に、子供が俺の背中に回り込んだ。


「くそっ……シャンブルズ!」



一瞬で小石と入れ替わり、戦闘モードに入ろうとしたが、なぜか正座し、湯呑を子供から渡される……。

一体、どうなっている。


「カラーズ・トラップ。”なごみの緑”」

「!?お、お茶がうめぇ 」

「ハイハイハイハイ! あんた誰、急に攻撃なんて卑怯じゃないの、ちょっと!何とか言いなさいよ!」

「お、お茶がうめぇ〜、」



”お茶がうめぇ”しか言えなくなっている。


なんて能力だ!
色か!
色なのか!?
背中に何かされたのか!?
くそっ!



「あ、これ使うと、”お茶がうめぇ”しか
言わないんだった。じゃあ次はこれ!」

「!?」

「カラーズ・トラップ。”友情の黄緑”」

「よ、よせ!」




「あなた名前は?」

「俺は、トラファルガー・ワーテル・D・アレックス・ローだ」

(※本編と違います。)


やめろ! 本名をフルネームで言わされるなんて!


「ボスから聞いてる人ね。なんで急に攻撃してきたの?」

「それは、お前らの実力を試しただけだよ」

「ふ〜ん」






「あ、船長!その人たち」


俺達に気付いたスノウがこっちへやってきた。


「あ、あの子がボスの」


子供が目線を把持した隙に、サークルを広げ、身体だけスノウの傍に落ちていた木の枝と入れ替わり刀を振った。
油断をしていたのか、そいつらはいとも簡単に真っ二つになった。




「船長! この人たちボスの部下ですよ!」


「そうみたいだな」


「なんでこんなことしたんですか!」


「能力を見ただけだ」












「ぎゃあああ〜〜〜〜〜〜?……あれ?」

二人は、最初は叫んでいたが、元に戻してやると、不思議そうな顔で、切られた箇所を見つめた。




「お前らの実力は分かった。こいつを頼む」


スノウの背を押した。



「はじめまして、スノウです。よろしくお願いします」


スノウは、はじめて俺の船に来た時と同じように、二人に何の疑念も抱くことなく、律義に挨拶をした。
それにしても、スノウはこの二人を一瞥しただけで”ボスの部下”と言っていた。


知っていたのか……?



「じゃあ……」

「ええっ! 船長もう行っちゃうんですか!?」

「ああ、こんな物騒なもん持った奴が、街を歩いたら目立つだろう」

刀を親指で差しながら答えると、

「でも……もう暗くなるし」

「大丈夫だ。それより、おまえはここで、この街で、ひっそりと幸せに暮らすんだ。いいな! 目立つんじゃねぇぞ!」




スノウの寂しそうな視線から逃れるように、馬に飛び乗った。



「船長もどうか無事に、あまり無理しないでくださいね。出来たら、また、ここに戻ってきてくださいね」


「ああ」


「船長、元気でね〜」




スノウの声が遠ざかる。



”また、ここに戻ってきてくださいね”


また、今度か…………。


これから俺は七武海の一人、ドン・キホーテ・ド・フラミンゴを失脚させる計画に着手する。

あいつとの未来も考えた。
だが、いづれにしろド・フラミンゴを、倒さない限り、心からあいつが安堵できる未来は来ない。


頬に当たる風は、まだ刺すような冷たさではないが、空虚になった気持ちに容赦なく吹き込んだ。
次第に暗闇が迫る一本道。
この先、起こりうるであろう不安と恐怖を振り払いながら、ただ、ひたすらに馬を走らせた。


次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ