出航!
□第八章 GL逆走編完結
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俺達は、北の街”セント・アンドルーズ”へむかった。
休憩も入れ、2時間ほどで街のはずれに到着し、電々虫でこの街に潜入している、クロコダイルの仲間と連絡を取った。
プルル……ガチャ
「はい!」
子供の声?
この番号で合っているのか?
ブチッ
もう一度番号を確認し、再度かけなおすと、
プルルルル……ガチャ
「……はい」
さっきと同じ声が、今度は警戒しながら返事をした。
確かに、女とは聞いていたが、これで合っているのか。
とにかく必要最低限の事を伝え、様子を見ることにした。
場所は、事前に伝えてある。
本当に、あいつの部下なら、わかるだろう。
「……その……女を、約束の場所まで連れてきた」
「わかった! いま、迎えにいくねー」
ガチャ
「…………」
拍子抜けするような軽い返事に、困惑した。
もしここに誰も来なければ、また、こいつを祖母ちゃんの家に預け、俺だけクイーンへ戻りクロコダイルに事情を話し、再度、ここへ戻ってくればいい……。
4時過ぎか……
待ち合わせの場所近くは平地で少し開けていた。小さな湖があちこちにあり、短い夏にしか咲かないブルーベルフラワーやピンクのスカビオサが風に揺れている。
馬の手綱を引き、湖のほうへ歩いて行くスノウの後ろ姿をぼんやり見つめていた。
ようやくこの旅も終わる。
厄介な事に首を突っ込んじまったと後悔もしたが、収穫もあった。
”賢者の石”
これ一つで、国一つ買える程の価値があるといわれている。
その原料となるスノウを手放すのは惜しいが、クロコダイル曰く、”いづれ必要になる” その時まで、こいつをここに匿わねぇと。
……、まだなの? 腰痛いんだけど」
「もうちょとだよ」
「ちょっとっちょっとって、全然ちょっとってきょりじゃないじゃない、
遠くの方から女たちのしゃべり声が聞こえてきた。
まずいな、一般人か?
黒髪の女の子供に、メガネをかけた太った女。母親か?
物陰に隠れ、通り過ぎるのを待つことにしたが、この子供の声に聞き覚えがあった。
「おかしいな〜」
「なになになに」
「誰もいないな、ここで合ってるはずなんだけど」
「さては冷やかしなの! チッ、失礼しちゃう。腰痛いのがまんして来たのに!」
本当に、こいつらなのか!?
子供の方がキョロキョロし、湖の方にいたスノウをみつけた。
「あ、あの子じゃないの」
「え、どこどこどこどこ」
「ルーム……」
『え?』(ミス・ゴールデンウィーク&ミス・メリークリスマス)
二人をサークルで捉え、真っ二つにしてやろうと、刀を振った。
不意を突いたつもりだったが。子供は、俊敏に地面に伏せ、母親(?)の方は、地面に潜った。
「まずはお前だ! 気を楽にしろ」
子供の方に、もう一度、刀を振ろうとすると、
「グワッツ……」
地面から出てきた、母親(?)に足を引っ張られ地面にめり込み体勢を崩した。その隙に、子供が俺の背中に回り込んだ。
「くそっ……シャンブルズ!」
一瞬で小石と入れ替わり、戦闘モードに入ろうとしたが、なぜか正座し、湯呑を子供から渡される……。
一体、どうなっている。
「カラーズ・トラップ。”なごみの緑”」
「!?お、お茶がうめぇ 」
「ハイハイハイハイ! あんた誰、急に攻撃なんて卑怯じゃないの、ちょっと!何とか言いなさいよ!」
「お、お茶がうめぇ〜、」
”お茶がうめぇ”しか言えなくなっている。
なんて能力だ!
色か!
色なのか!?
背中に何かされたのか!?
くそっ!
「あ、これ使うと、”お茶がうめぇ”しか
言わないんだった。じゃあ次はこれ!」
「!?」
「カラーズ・トラップ。”友情の黄緑”」
「よ、よせ!」
「あなた名前は?」
「俺は、トラファルガー・ワーテル・D・アレックス・ローだ」
(※本編と違います。)
やめろ! 本名をフルネームで言わされるなんて!
「ボスから聞いてる人ね。なんで急に攻撃してきたの?」
「それは、お前らの実力を試しただけだよ」
「ふ〜ん」
!
「あ、船長!その人たち」
俺達に気付いたスノウがこっちへやってきた。
「あ、あの子がボスの」
子供が目線を把持した隙に、サークルを広げ、身体だけスノウの傍に落ちていた木の枝と入れ替わり刀を振った。
油断をしていたのか、そいつらはいとも簡単に真っ二つになった。
「船長! この人たちボスの部下ですよ!」
「そうみたいだな」
「なんでこんなことしたんですか!」
「能力を見ただけだ」
「ぎゃあああ〜〜〜〜〜〜?……あれ?」
二人は、最初は叫んでいたが、元に戻してやると、不思議そうな顔で、切られた箇所を見つめた。
「お前らの実力は分かった。こいつを頼む」
スノウの背を押した。
「はじめまして、スノウです。よろしくお願いします」
スノウは、はじめて俺の船に来た時と同じように、二人に何の疑念も抱くことなく、律義に挨拶をした。
それにしても、スノウはこの二人を一瞥しただけで”ボスの部下”と言っていた。
知っていたのか……?
「じゃあ……」
「ええっ! 船長もう行っちゃうんですか!?」
「ああ、こんな物騒なもん持った奴が、街を歩いたら目立つだろう」
刀を親指で差しながら答えると、
「でも……もう暗くなるし」
「大丈夫だ。それより、おまえはここで、この街で、ひっそりと幸せに暮らすんだ。いいな! 目立つんじゃねぇぞ!」
スノウの寂しそうな視線から逃れるように、馬に飛び乗った。
「船長もどうか無事に、あまり無理しないでくださいね。出来たら、また、ここに戻ってきてくださいね」
「ああ」
「船長、元気でね〜」
スノウの声が遠ざかる。
”また、ここに戻ってきてくださいね”
また、今度か…………。
これから俺は七武海の一人、ドン・キホーテ・ド・フラミンゴを失脚させる計画に着手する。
あいつとの未来も考えた。
だが、いづれにしろド・フラミンゴを、倒さない限り、心からあいつが安堵できる未来は来ない。
頬に当たる風は、まだ刺すような冷たさではないが、空虚になった気持ちに容赦なく吹き込んだ。
次第に暗闇が迫る一本道。
この先、起こりうるであろう不安と恐怖を振り払いながら、ただ、ひたすらに馬を走らせた。