出航!
□第八章 GL逆走編完結
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ドラム島を出航した後、カームベルトを抜け、ローグタウン、ココヤシ村、シロップ村、シェルズタウン、フ―シャ村を経由し、イーストブルの北の果てにあるレッドラインへ私たちはたどり着いた。
イーストブルーは、”最弱の海”と言われるだけあって、特に脅威になるような海賊もおらず、海王類でさえ、ボスやロー船長を一瞥しただけで逃げてく始末……。
しかも、ロー船長の、王下七武海という称号は、まさかの海軍の協力を得られ、一時は、海軍と並走して航海することになり、”葉巻が吸えない”とボスがイライラしてロー船長に当たっていたが、旅の航路を短縮するのに、とても役立った。
イーストブルーの旅は、予想以上に順調に進んだ。
イーストブルー北、レッドライン。
「……本当に、ここで合っているのか?」
「ああ、昔、ある大物から聞いた、確かだ。燃料は大丈夫なんだろうな」
「燃料はギリギリだ。はじめは俺の能力で進み、途中、休憩で燃料を使い、また、能力で進む。強いて言えば、スノウの回復能力に掛かっている」
海底、300メートル程潜ったところに、それは存在した。
巨大な、先の見えない地獄へと続くような、トンネルが黒い口をあけていた。
「行くぞ! ルーム!」
暗いトンネルを何時間進んだのだろうか?
不意に”スノウ!”と声を挙げ、灯りを落とした操舵室で、ロー船長が私の手を掴んだ。
能力の使い過ぎで、疲労し、汗ばんだ手は、小刻みに震えていた。
「船長、エンジン動かします。休憩してくだあい」
べポが、叫ぶと、その場で船長は、私の手を掴んだまま倒れ込んだ。
「船長……」
「……不気味だな、巨大海王類が見当たらねぇ。まさに地獄のトンネルか」
ボスが、ポツリと漏らした。
「…………」
一同絶句する。
しばらくして…
「おっ、トラファルガー起きろ、右からデカいのが来るぞ……こいつが犯人か」
「ルーム」
起き上がり、能力を発動し、一気に海王類(らしき生物)から逃げ切った。
「なあスノウ」
おもむろにロー船長は、上着を脱ぎ、胡坐をかいて座った。
「背中に両手を当てろ」
「え!?」
「こっちの方が、効率がいい。べポ、ジャックに飯持って来いと伝えてくれ」
「でも……」
ボスを見る。
”やってやれ”とばかりに頷いたので、そっと、汗ばんだロー船長の背中に両手を当てた。
「うわっ! この感じ。 生き返るぜ!」
ジャックさんが持ってきたおにぎりを豪快に頬張る背中からは、低い鼓動が手に伝わってくる。
おにぎりを食べ終わり、不意に振り返り、顔を近づけ、小さい声で何か言った。
「ん?」
エンジンの音で、よく聞き取れず、耳を近づけると、
「一番いいのは、お前が裸で抱きついてくれりゃあ、もっと元気になるんだけどな」
ニヤリと笑い、肩に手を回してきた……。
パチン!
思わず船長の頬を叩いてしまったが、船長はまたニヤリと笑った。
「あー、目が覚めた! スノウありがとな」
私の頭をクシャっと撫で、立ち上がった。
「よし、べポ、エンジン出力を最小限に、クロコダイル、このまま一気に突っ切るぞ!」
食べていたおにぎりの残りを、口に放り込み、ボスが”ああ”と返事をした。
「フッ……スノウ、おまえも今のうちに食事と手洗いを済ませておけ、先は長いぞ」
そう言って、ボスは暗闇を見つめた。
長かった。
操舵室で回復要員として待機していたが、眠気には勝てず、サブの操縦席にシートベルトをし、更に、ボスのコートで括りつけられ眠っていた。
手を握られた感触で目を覚ますと、隣の席にはボスが座り、暗闇を黙って見つめていた。
「シャンブルズ……シャンブルズ……」
ロー船長の声が響く。
前なのか後ろなのか……どこに向かっているのか、ぼんやりしながら、真っ黒い海を見つめた。
「…………した。各自、持ち場に着き、…………しろ……」
船長の館内放送に、廊下を話しをしながらバタバタ走り回る足音、低いエンジン音に混ざり、波の音も聞こえてくる。
気が付くと、船室の自分のベットに寝ていた。
「あれ?」
起き上がり、カーテンを開けると、ダズが筋トレをしていて、私と目が合うと、ニッコリ微笑んだ。
「大丈夫か?」
「ボスは?」
「食堂だ。昨日の夕方に船は無事、レッドラインを抜けた。今、スワロー島という島に向かっている」
時計を見ると、7時を指していて、
「7時って、夜?朝?」
「朝だ。よく眠っていたからな」
「そういえば、お腹空いてきた!」
急いで支度をし、食堂へ向かった。
ここはもう”ノースブル―”。
こうしてダズと一緒に、食堂へ向かうのも、この船で過ごすのも、あとわずか……。