出航!

□第七章 サクラ王国編
12ページ/12ページ

12


「……ん……っ」


身体はなんだか気怠く、頭の中は、ぼんやりとしていて、薄目を開けると、部屋の中は薄暗く、壁の燭台に、小さな灯りが一つ灯っていた。

……まだ夜か。


!!!


振り返ると隣にボスが寝ていた。


慌てるな私!

アラバスタの時とは違い、ボスの服はフル装備! 
首元のボタンがひとつ外され、タイは緩められていて、鉤爪はベッドの外に投げ出され、右手は額の上に掌を上に向けて、切なそうな色っぽいような顔で眠っている。

自分の身体を見ると服装は昨夜のまま、乱れも脱がせた跡も無い。


……寝込みを襲うなんて、ボスはしないか。


なぜかホッとし、まじまじとボスを見つめる。

少し無精ひげが生えてる。



喉が渇いたので、起こさないようにそっと起きて、冷蔵庫へ向かう。
オレンジジュースを飲みながら、だんだん目が覚めてハッキリしてきた記憶を辿る。


そういえば……。
昨日、セバスチャンさんが来て、そして、どうなったの?


まだ、外が薄暗いので時計を見ると、早朝4時をまわったばかりで、起きるには少し早い。
ベッドに戻り少しボスと離れて横になり、ボスを見つめた。
ボスの手がピクリと動いて、私の手をグッと掴んだ。



「ああ、ごめんなさい、ボス、起しちゃいました?」



温かい体温を感じ、嫌が応にも顔が高揚する。ボスは目を閉じたままで、全然動かない。




「フッ」


突然、軽く笑い、だるそうにこっちを見た。


「ボス…」


起き上がって、ボスの顔を覗き込むと。



「本当にお前ぇは…はぁ〜っ(ため息)」

「すいません、起こしちゃって…わわっつ


ボスが私の手を引き、抱き寄せた。



「どうしたんですか!?」

「いいこと教えてやろうか?」

「何ですか」

「フッ、お前がまだ知らねぇことだ」

「あ、その、し、知ってますよ。だ、だ、男女が、す、することぐらい「そっちじゃねぇよ」


「へ!?」


身体を離し起き上がり、怠そうに私の顔をジッと見つめた。
私もボスがなんだか真面目な話をするのに、寝転がってるわけにはいかないので、起き上がりボスの前に正座した。


「超回復能力は解っているな」

「はい」

「だが、お前の能力はそれだけじゃねぇ事が、また解った」

「え」


その急に距離を置くような、物を見るような言い方。なんだか、ボスらしいって言えばそうだけど。


「触れた者を回復出来る事はこの前、アラバスタで聞いたはずだ」

「はい」

「“賢者の石“を知ってるか?」

「伝説とかで聞いたことはあります」

「ほう、じゃあ話は早ぇ。その元になるのがお前ぇの血液らしい」

「えぇっ!?」

「ここの医者が偶然、作り方を見つけたらしくてな」

「本当に?」

「ああ、あとでトラファルガーに聞くと言い。それと、お前は本当に処女なのか?」



ボスの顔はいたって真面目な顔で、からかってる訳でもなさそう。
でも、ストレートに聞かれるのって恥ずかしい。




「はい」

「超回復能力があるだろ。だから処女膜も再生してるんじゃねぇかと思ったんだが。フッ、そうじゃねぇんだな」

「笑うところですか!?」


ボスの緩んだ顔にホッとして、思わず言ってしまった。



「悪かった。処女じゃなくなっちまったら、この能力が使えなくなるとかそうゆう事も考えてたんだが……。
 仮に能力が使えなくなったらどうする?」



そんな事を心配してくれていたボスに、嬉しくて飛びつきたい衝動を抑えて、ボスの目をまっすぐに見つめる。








「その時はその時です!」




私に迷いは無かった。


















その言葉
昔、麦わらも同じような事を言っていた。
こいつは本当に、ヤツに似て、まっすぐで潔い。



「フッ、クハハハ……」


だからこそ放っておけねぇ……。



















「あ、そんなに笑わなくても」



突然笑い出したボスに、少し戸惑っていると。


「それにしてもだ」

大きな手が私の頬に触れたかと思うと、そのままゆっくりと押し倒された。


「あっ、ボス!」

なんかまずいと思い、手で制止しようとすると


「男女のする事ぐらいは解ってるんだろ。いちいち騒ぐんじゃねぇ」


耳元で囁く。


「でも、そんな、いきなり」

「ほぉ。いきなりも何もねぇだろ。俺とこうしてベッドの上に居るんだ。それぐらい了承済みとみなすぜ」

「でもっ、あの、せ、生理中です!」

「俺は構わねぇよ」




涼しい顔でさらっと言い、ニヤリと笑う。



「え! ボス! 待ってください!」



ボスは思わず絶句する私を見て、嬉しそうに



「クハハハ冗談だ。そうゆう趣味はねぇ」



軽く頭を撫でると、バスルームにサラッと消えて行った。





か、からかわれた!?


























「今朝は、下で食べる」

と、私たちは1階にあるレストランへ向かった。









「おはようございます。クロコダイル様、スノウ様」


セバスチャンが軽やかな笑みで、私達を出迎える。

「おはようございます」


ボスが眉間に皺を寄せ、セバスチャンを睨んだ。


「まだ、こんなところに居たのか若造」

「えぇ。仕事はまだ残っていますから」


ボスに臆せずサラリと言い返した。



「俺はてっきり、昨晩のうちにこの島から飛び出してるもんだと思ったが。案外、慎重なんだな」

「何の考えも無しに飛び出すのは、それこそ命取りです」

ボスが嬉しそうに

「ハッ、流石だな。俺が見込んだだけはある。朝食を頼む」



!?

何、何かあったの?
会話の内容からして、昨晩、何かあったらしい。

“島から飛び出すとか“




そんな事を考えながら、セバスチャンにレストランの奥の個室に案内された。
窓の外には、雪景色が広がり、木々に積もった雪が朝日に反射してキラキラ輝いていた。
ボス好みの、がっしりとしたアンティークなテーブルと、皮張りの椅子。椅子は少し大きくて、見た目とは違って、フカぁーとした座り心地で、癒された。



「そうだな。
 スープとサラダ、トースト。フルーツを多めに。スノウは?」

「私は、ボスと一緒で。あと、昨日の朝食の時に出た、雪だるまのチョコレートを……」


セバスチャンを見上げる。


「よろしいですよ」

ニッコリ。彼の頬笑みに安堵する。

「あとはよろしいですか?」

「食後にコーヒーを」

「あ、わたしも!」

「はい、かしこまりました」


一通り注文を繰り返し、セバスチャンは部屋を後にした。
雪景色を見ながらボスは葉巻に火を付け、ふぅ〜っと煙を吐き出す。
私は、レストランの中を見て歩きたくてうずうずしていた。
漫画ではここは“武器庫”。アーチ状の入り口に、石造りの壁、前はここにあの大砲が保管してあった。

“奇跡のサクラ”


「なんだ? なにか言いたそうじゃねぇか」

怪訝そうな顔で聞いてきた。


「あ、あの、少しだけレストランの中を見てきてもいいですか?」


「かまわねぇ」



目線はまた外へ、何を考えてるんだろう。




席を立ち、レストランの中を散策。
中はそれほど広くはなく、窓際には私達の居る個室タイプの部屋が3つに、中央にはテーブル席が5つ。
各テーブルに飾ってある花はクリスマスローズ。花には詳しくなかったので、セバスチャンさんに聞いたら教えてくれた。壁には奇跡のサクラの写真。ドラム島の景色をかいた風景画。

そうこうしているうちにセバスチャンさんが朝食をカートに乗せて運んできた。


「お待たせいたしました」


テーブルに手際よく並べ、「では、ごゆっくり」と頭をさげる。

「ありがとう」

と言うと、うれしそうにほほ笑んだ。



ここの料理はまた格別に美味しくて、ただのトーストなのに、食べるとサクッとして、香ばしい。バターも自家製なのかコクがあるのにサッパリとしていくらでも食べられそう!
サラダは、コーンとツナとレタスにハーブが少し効いていて、スープは、さっぱりとしたオニオンスープ。
食後のフルーツを食べているとセバスチャンさんがコーヒーを運んできた。



「こちらはサービスで」


雪だるまのチョコと粉砂糖のかかったリンゴのタルトがお皿にのっていた。


「わぁ!かわいい!」



「昨晩のお詫びです。申し訳ありませんでした」


セバスチャンさんがいきなり跪き謝罪の言葉を口にした。


「え、っと」


私が困惑していると。


「はぁ〜
  お前ぇが知らねぇないのも無理もねぇ」

「昨晩は、ありがとうございました。クロコダイル様」

「え!?」



ボスを見ると、相変わらずのポーカーフェースで葉巻をくゆらせている。


「昨晩、こいつはお前から血液を採取した。それで、トラファルガーがこの若造を殺しかけたのを止めただけだ」

「血を? それにロー船長が!?」


「まあ、話すよりも実際にやってみれば解るこった。 若造、こいつの血を採血して、もう一度作って見せろ」


「よろしいのですか?」

「あぁ」

「はい。かしこまりました」

 
足早にレストランから立ち去るセバスチャン
「あの、ボス」

「甘ぇんだよお前は」

「・・・・」

「お前が今、一緒に居る奴らは海賊だ。仲間の為に、略奪もすれば殺戮も厭わねぇ。特にアイツはなぁ……」


言い淀んだ。


「でも、ロー船長は、いろいろ気遣ってくれます」


お皿の上の、雪だるまが笑いかける。

  
「上辺だけで決めつけるからお前は甘ぇんだよ。油断しすぎだ!」

「上辺だけじゃないです。ロー船長は悪い人じゃないし、本当にすごく優しんです」


これ以上言っても無駄と思ったのかボスはタルトを一口でガプっと食べ、コーヒーを飲みながらソッポを向いた。










“アイツが優しいのは、お前ぇに特別な感情を持っているからだ!”


と、言ってやりたかったが、下手に言っちまって、お互い意識し始めたらそれこそ胸糞悪ぃ。
スノウもスノウだ。
歳が近いせいもあるだろうが、トラファルガーとやけに仲がいい。
雪の夜も二人で何を話していたのか…。









「どうだ」


試験管に入った、赤い石を見せられた。
さっきまで液体だったものが、血清を入れた途端、固まり宝石のようになった。

「うそ……でしょ」

「この事が世に知れたら、世界中の海賊、世界政府が目の色を変え、お前を手に入れようとするだろう」

「……」

「スノウ、どうした?」


固まっていた。
目の前の出来事が信じられない気持ちと、これから起こりうる最悪の事態が頭を駆け巡る。
この世界に来てから、信じられない事ばかりだったが、“賢者の石“って!?
 頭の中には賢者の石を巡って、血で血を洗う骨肉の争いの物語がいくつも浮かんだ。


「心配するな。この事を知っているのは、ここの医者二人と、トラファルガーだけだ。むしろここで解って好都合だと思っている。これからは、不用意に血液検査はしねぇ事だな」


「スノウ様、これを」

たった今出来たばかりの賢者の石を小瓶に移し替え、セバスチャンは私に差し出した。
赤い宝石が、キラリと怪しく光った。



「大切な方にあげるといいですよ」


セバスチャンが微笑む。


「じゃあこれは、セバスチャンさんが持っていて下さい。和の国までは、グランドラインに海賊、命がいくつあったって足りないくらい危険ですから」

驚いた顔のセバスチャンに、ボスが


「黙って受け取れ、若造」


その言葉に跪き目を伏せ私の手を握った。


「スノウ様、クロコダイル様、ありがとうございます」


声が震え、涙が頬を伝った。


「お前は、昨晩から俺の部下だ、簡単に死んでもらっちゃ困るからな」



そう言うボスの言葉とは裏腹に、表情は優しくセバスチャンを見つめていた。


次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ