出航!

□第七章 サクラ王国編
1ページ/12ページ

第7章ドラム島

1


「……サクラ王国に到着した。三日ほどこの島に滞在する。この島では、医療器具および薬品の調達。他には食料、水、生活用品だ。各自持ち場につき待機しろ。朝一番で俺は、この国の担当者と交渉してくる。以上だ」


ブツッ



私とダズは食堂で、ロー船長の艦内放送をぼんやりとしながら聞いていた。

今日は、朝から寒気がすると思っていたら、生理がきていた。生理はこの世界に来てから二回目。


1回目は、テネリフェに着いてはじめの頃。
怪我をしても元通り。髪の毛は切っても次の日には元に戻っている。
私の身体はこの世界に来た時のまま、変わらない。この世界では、自分の時間は止まったままで、周りの世界だけが変わっていくのだろうかと思っていたが、ちゃんとくるものがきたことで、“ああ、私はこの世界で生きているのだ”と改めて実感するのだが、今回は、痛みが強く、食堂に行くのも一苦労だった。
もちろん、食欲も無かったので温かい紅茶をジャックさんから頂いた。
心配はされたけど、笑ってごまかした。


食堂にボサボサ頭のロー船長が、海賊団のマーク入りの黒のトレーナーに、アニマル柄の細身のパンツ姿で現れ、私達を見つけると、こっちに来た。

「クロコダイルは、操縦室だ。
(私を見てギョッとする)って、お前、顔色悪いぞ!」

カウンターの隣に腰掛け顔を近づけた。

「あ、大丈夫ですよ」

「顔、少し触ってもいいか?」

私とダズ、両方に聞いた。

「はい」

ダズも頷くと。
厨房の水道で手をジャブジャブ洗い、タオルで拭きながら戻ってきた。そして、ひんやりとする両手の親指で下の瞼を下げ、すぐに離した。


「舌を出せ」

舌をベーっと出すと、さらに眉間にしわを寄せ、険しい顔をした……。

なんだろう、普段は、そうゆう表情をしないので、不安になる。

「怪我とか、したか?」

「え、いいえ」

「貧血の症状が診られるが、心当りはあるか?」


貧血。
確かに。
あ、もう、なんで! 
そうゆうところに気付くんだろう!? 
心配してくれてるのはわかるけど、ロー船長のデリカシー無さに、心の中がのたうち回ってしまうのである。
黙っていても仕方ないので顔を近づけ、小声で。


「だから、その、生理なんです。あまり騒がないで下さい」

みるみるうちに船長の顔が赤くなり横を向いた。
そっか、この船男の人ばかりだもんね。無理もないか。

「わ、悪かった」

「あ、気にしないで下さい。だからあまり食欲が無くて」

紅茶のカップを見せ笑うと。

「……そうか、でも少しでも何か食べねぇと倒れちまうぞ。診た感じかなり症状がひどいからな」


「そうですか? 大丈夫ですけど」

その答えにロー船長がキッと睨んだ。

「大丈夫じゃねぇ! 飲み物んだったらいいんだろ、待ってろ!」


怒鳴られてビックリする私の頭を、乱暴にクシャクシャと撫でて厨房に入って行った。

「アーロン!」

アーロンさんに何か指示を出している。

まさか、ニンニクとかいろんなものが入った、もの凄いスタミナドリンクが出てきたらどうしよう。
怖い……。
私の心配をよそに、ダズは朝食を食べ終え、お茶を飲んでいた。



「お待ちどう! ほうれん草のポタージュスープだ。熱いから気を付けてな」

ほうれん草!!
アーローさんの笑顔に不安も消し飛んだ。アーロンさんの後ろでロー船長が心配そうに見ている。

カップに入ったスープは鮮やかな緑色。ミキサーしたあさりにジャガイモ、ニンジン等、数種類の野菜が入ってるらしく貧血に効くらしい。

一口、口に運ぶ。柔らかい優しい口当たり。空腹の胃にしみ込んだ。


「おいしい〜」

私の言葉を聞いて、アーロンさんと船長がホッとした顔で微笑む。

「良かったよ! スノウちゃんが気に入ってくれて」

「ありがとうございます」

スープを食べ終える頃、ロー船長が席に戻ってきた。

「痛み止めだ。飲むのは1日2回までだ」

小さな紙の包みがいくつか入ったビニール袋を置いた。

「あ、ありがとうございます」

「その薬は眠気も伴う。今日は無理はするな。ゆっくり、じっとしていろ」

「でも、今日、ボスと買い物に」

「明日でも大丈夫だ。スノウ、この島には3日いるんだ」

ダズが優しく言った。

「うん。あ、っと、この島は、何て言う島なんですか?」


「サクラ王国のドラム島だ」


ロー船長が、さっき言わなかったか、という感じで私を見た。

え!?
サクラ王国ってドラム島だったの!!!
チョッパーの故郷。
ドラムロック。
奇跡のサクラ。

今日一日じっとしてなんて居られない!
もったいない!
出掛けたいたい!

多分、私が固まってるのを見てロー船長が。

「どうした?」

「え、あ、やっぱり、少しだけ出掛けたいかなって」

「バカか! お前なぁ、この島は冬島だ。その身体で出かけて何かあっても知らねぇぞ!防寒コートすら持ってねぇだろ」


朝食をガツガツ食べながら睨んだ。
わ、塩辛くさい。



「スノウ、無理するな」

ダズが優しく微笑む。

違う! 違う!
私、無理してでも行きたいんです!





ダズに促され、部屋に戻りベッドに入るも、起き上がってダズを恨めしそうに見ていた。ダズは出かける準備をしていて、スーツの上に厚手のコートを羽織っている。

「ねぇ、ダズは今日、どこに出かけるの?」

ただ単に、島に上陸できない寂しさにダズに話しかけた。
ダズは少し考えてから。

「街だ。ボスの用事だ。夕方には戻る」

「いいな。私も行きたかった」

「今日はちゃんと休んで明日に備えるんだ」



コンコン


「俺だ、入るぞ」

ガチャ

返事を返す前にドアが開きボスが戻ってきた。

「ボス、では行ってきます」

「ああ」


ボスと目と目を合わせ、頷き、ダズが部屋を後にした。
口数は少ないけど、この二人はアイコンタクトで会話している。





「あのボス「トラファルガーから聞いた。具合はどうだ?」


まっすぐに見つめる真顔のボス。この金色の目で見つめられると、思わず声が上ずった。


「あ、大丈夫です。ロー船長大袈裟すぎるんです。あと、ボス、すいません」

私の返事に、表情が崩れ、フッと笑う。

「まあいい、気にするな。ゆっくり休むんだ」

「はい」

ボスの笑顔に、キョトンと見とれていると。くるっと背中を向け、タイを緩めた。


「早く寝ろ!」

「は、はいっ」


ボスは、ソファーに座り本を読み始めた。
痛み止めを飲んだせいか、徐々に眠気が襲ってきた。ベッドに身体を横たえると、時折ページを捲る音と、うるさいくらいの船員達の足音や話し声………。
もう聞きなれてしまった音に、安堵している自分に気づいた。
そうしているうちに自然と瞼が重く感じ眠りに落ちていった。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ