出航!
□第六章 アラバスタ王国編
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第6章 アラバスタ王国
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航海は順調。
真夜中、俺達は予定通り、アラバスタ王国南西の“ナノハナ”の港に到着した。
港に到着してすぐにクロコダイルは、"用がある" と言い残しサラサラと砂になり闇へ消えて行った。
クロコダイルがグランドラインを逆走した目的の一つは、そう、ここ“アラバスタ王国”だった。
確か、奴は約1年前、この国を乗っ取ろうとして失敗した。
七武海の称号を剥脱され、インぺルダウンに収監されるも、麦わらのルフィと共に脱獄、頂上戦争に参加。
まだ、この国に何か未練があるのだろうか………。
翌朝“七武海トラファルガー・ロー“が来航した事で、アラバスタはちょっとした騒ぎになっていた。
朝一番に、アラバスタの若い国務大臣コーザが謁見を申し込みに、船に乗り込んできた。アラバスタ王国、王女ビビも一緒だ。
「七武海トラファルガー・ロー。この国になんの用だ!」
左目に傷のある若い男が、いきなり怒鳴り込んできた!
本当に国務大臣か!?
“謁見“ってわけでもなさそうだな。
大臣の後ろに控えた王女も、眉間に皺を寄せ、睨みを利かせている。
ろくに護衛も付けず海賊船に乗り込むとは、いい度胸だな。
「物資の補給だ。金もちゃんと払う。それ以外は特に用はねぇ」
「本当か?」
険しい表情で俺を睨んだ。
「あぁ」
「七武海といえども海賊だろ! 信用できるか!?」
♪〜
甲板に続く開いたドアから、ピアノの心地良い旋律が聞こえてきた。海賊船には不似合いな、静かな調べがその場の空気を一変させた。
「……」
スノウのピアノの音に、ビビ王女の表情が変わり、誘われるように船室に入って行った。
「おい、ビビ!どこ行くんだ!?」
「ちょっと……中を」
「まったく、トラファルガー・ロー、船内を案内してくれ」
スノウ、いいタイミングだ。
王女と、コーザは船内に入り、まっすぐスノウの居る食堂へ向かった。
“ジムノぺティ” を弾いている。
スノウが、はじめてこの船で弾いた曲。
そして、俺の好きな曲だ。
「えっ! 女の子!?」
ビビ王女が食堂の入口で、驚いている。
「あぁ、ちょっと訳があってな」
柔らかなメロディ。優しく鍵盤をなぞる指先。口元は歌を口ずさむように幽かに頬笑んでいる。
そういや、ダズは!?
いつもはスノウの護衛で一緒のはずなのに、姿が見えない。
弾き終えたスノウが俺たちを見つけ、さらにこの二人をみて驚愕した。
「……あ、あ……ビビ……王女!? ……え!?」
「なんだ、知ってんのか」
さっ、と王女が駆け寄り、スノウの手を握った。
「 すごい! ステキね! 何て言う曲?」
「ジムノぺティです」
「ジムノぺティ? 変わった題名ね」
「はい。壺に描かれた絵を見て作曲されたそうです」
「どんな絵なの?」
「古代の祭の画なんですが……少年たちが殺し合いをする……“ゆっくりと痛ましげに“って譜面に指示があったので調べてみたんです」
「……殺し合い!?」
おれも初めて知った。“「殺し合い」を痛ましく思った曲” なのか……。
「私は、好きな人を想って弾いてますけど」
スノウがほほ笑んだ。
一瞬、ウォーターセブンでのあの王子とスノウのキスを思い出しムカついた。
「フフッ。だから、そんなに素敵なのね……」
頬笑みあう二人。
少し考えてから王女は、コーザに向き。
「ねぇ、コーザ。この船の入国を許可しましょう」
コーザはこの王女に弱いのか、悩んだ挙句、俺に言った。
「……わかったよ。トラファルガー・ロー。必要な物をこの用紙に書いて提出してくれ。こちらも出来るだけの支援はする」
“支援“か、略奪されるよりマシだからだろう。
「ありがてぇ、助かるぜ」
帽子を取り、軽く会釈した。
さて、クロコダイルが一緒だが……。これは黙っておこう。
スノウは、ビビ王女に誘われ街へ向かった。
一応、止めたが……。
「すぐ戻るからお願い」
スノウは、いたくこの国に興味があるらしく、目をキラキラさせて、懇願するのでつい許可してしまった。
「……ちゃんと変装していけ」
俺の言葉に、サングラスと帽子をかぶりニッコリ笑い、"すぐ戻ります" と嬉しそうに駈け出して行った。
あの晩、“スノウを連れて帰る“と言い、その後、醜態を晒した俺を、どう思っているのか。てっきり、スノウに軽蔑されるかと思ったが、いつもと変わらない態度と微笑で、逆に礼を言われた。
「ボスに怒られているのを、助けようとしてくれたんですよね」
複雑な気持ちになった。
海賊なんだ、欲しいものは奪えばいい。
クロコダイルの言葉を思い出すも、だが、スノウに対してそれが出来るだろうか。
ああああっ……。
俺は何を考えてるんだ!
それにしても、ダズはどこへ行ったんだ!
「この子はこの国の威信にかけて守りますから。心配しないで! ね!」
スノウとビビ、コーザが船を降りた途端、ダズがすごい顔で現れた。
「何故、行かせた」
「じゃあ、お前が止めろよ……」
「…………」
ムッとした顔で黙って、スノウの後を追った。
そういや、あいつも、アラバスタにいたんだよな。
ビビ王女と、港からすぐのところにある、この街の"迎賓館"へ歩いて向かった。
「ねぇ、海賊船に乗ってるなんて、何か訳があるんでしょ」
頷いた。
「ウフフ…思い出すな〜」
「こらっ、ビビ!」
コーザさんがつっこんだ。
「フフフいいじゃない。ねぇ、さっき言ってた、スノウさんの好きな人ってどんな人?」
「え、っと」
「もしかして!? あの船に乗ってる人? もしかして、トラファルガ―・ロー?」
「ロー船長も素敵ですけど。う〜ん。もっと大人で、静かで優しい人です。ビビ王女は、コーザさんとはどうなんですか?」
「!?」
急に赤くなった。
隣のコーザさんを見ると、コーザさんも赤くなって目をそらした。
「あ、ごめんなさい。私、余計なこと聞いちゃって……」
「い、いいのよ。スノウちゃん」
「お二人、すっごくお似合いですよ」
とどめを刺した。二人は、赤くなりすぎて目を合わそうとしない。
不意に、行く手に砂埃が渦巻いているのが見えた、砂の国だからと納得はしたが、何故か不安がよぎった。
ゴォォ……
ふいに強い風が吹いて、道の両脇に並んだ市場の帆布が激しく揺れた。変装用に巻いたストールが、風に巻き上げられ、一瞬で視界が砂色に変わり、砂煙と共に、黒い大きな影が私たちの前に立ちはだかった。
「久しぶりじゃねぇか。お嬢ちゃん」
「ク、クロコダイル!」
ボス!
どうゆう事!?
ニヤリと笑い私を一瞥した。
「なんだ、おめぇも一緒か」
驚いたビビ王女が私を見る。
「スノウさん、知り合いなの?」
思わず固まる。
「丁度いい、そこの若造!(コーザにむかって) 見せたいものがある、付き合え」
ビビ王女が血相を変えてボスに飛びかかった。だが、サラサラとかわし、ビビ王女を押さえつけた。
「くっ……放して、コーザに、この国に何をするの!」
「何もしネぇよ。ただ、見せたいものがあるだけだ。(身構えるコーザに)」
「信じられるか!? ビビを離せ!」
「ボス! 放してあげて!」
思わずボスの腕を掴み、叫んでいた。ボスは私の声に、眉間にしわを寄せて睨んだ。
「……ほらよ」
ドサッ
「もう、なんなのよ……やめてよ、この国に関わるのは!」
涙声でビビ王女が叫んだ。
「関わる気はねぇ。(コーザに)ついてくるのか来ねぇのか……どっちだ」
「……わかったよ。行けばいいんだろ」
「私も行きます。コーザ一人、行かせるわけにいかないわ!」
「ビビ様! 私も!」
騒ぎに駆け付けたチャカが、息を荒くしてクロコダイルの前に立ちはだかった。
「まぁ、いい……」
その現場で私は茫然としていた。
改めてボスが、この国で、やった事を思い出した。そして、浮かれて、ビビ王女と飛び出してきた私の軽率さに、自分自身呆れた。
「スノウ、お前も来るか?」
ふいにボスの声で、正気に戻った。目が合った。今日はなんだか冷たく見える金色の瞳。
「…はい」
「北の砂漠へ向かう。一度船に戻って、準備する。……お嬢ちゃんたちは、これをそろえろ」
メモをコーザに渡し、サラサラと船の方へ消えて行った。
ビビ王女が私を睨んだ。
「スノウさん、なんでクロコダイルと!」
「黙っててごめんなさい」
涙が溢れた。
「なんなのよ! もうこれ以上この国をどうする気なの!」
私の肩を掴み、泣きながらビビ王女が叫んだ。
「……ボスが何をするかは分かりません。……でも、その時は、私がボスを止めます」
「……うっ……うう……」
そのままビビ王女は泣き崩れた。
無理もない。ボスがこの国でした事は、それほどの事なのだ。私は唇を噛んで船まで走った。
“何かあったら、私がボスを止める” 途方もなく無理に近いと思うけど、この国やビビ王女を、悲しませたくない!
船に着くと、ボスがロー船長の部屋で、何か話をしていた。ダズは、どこかに行ったのか姿が見えない。部屋には、大きな布袋が置かれてあり、中を覗くと、エジプト的な模様の、金で出来た杓や、王冠、宝飾品でいっぱいだった。
ボス、何をするつもりなんだろう。
国を乗っ取ったり、殺戮、強盗……ボンヤリ考えを巡らせる。
「スノウ! 行くぞ」
ボスの声が聞こえた。いけない! 早く準備しないと……。
ジーンズにTシャツだったので、長袖のパーカーを羽織り、リュックにストールを入れた。水筒と、あとは日焼け止めかな。
リュックを背負って甲板に出ると、ボスが不機嫌そうに私を見た。さっき、とっさにボスを止めた事を怒っているのだろう、
「来い!」
右腕を広げた。
「!?」
あの不機嫌な顔と行動がアンバランス過ぎて、キョトンと立ち尽くした。
「はぁーっ。いつまで間抜け面している気だ、一人で降りられるのか?」
「え、あ。はい、すいません」
屈みこんだボスの肩に、遠慮しながら手を回した。グッとお尻を腕で持ち上げられ、サラッと風に乗って港に降りた。
そう、船の上り下りはいつも、ダズが私をヒョイと担いで船からぴょんと乗り降りしていた。そうでないときは、ロー船長のルーム、タクトで、数人で移動。
「行ってきます!」
ロー船長に手を振る。だいたいいつもロー船長は、私をチラッと見ただけで、手は振り返してくれない。代わりにというべきか、隣に居るベポがブンブンと音が聞こえそうなくらい両手を振ってくれた。その姿に、いつも癒される。
船の側にラクダに乗ったビビとコーザ、チャカ、と大きなカメの乗り物がいた。
「カメ!?」
「砂漠じゃ、これが一般的だ。……行くぞ」
何の前触れもなく、私をサッと抱きかかえ、そう、今度は横抱きで抱えられ、カメに乗った。
なんだか今日は、やけにボスのボディタッチが多いような。
カメに鰐か……。
“水陸送迎カメ“
漫画に出てきたような豪華なものではなく、甲羅に、屋根は無く、遊園地の乗り物みたいな、ベンチがついた質素な造り。ボスは葉巻をくわえ手綱を手に持ち、合図を出すと勢い良くカメが疾走した。これが、意外と速い!
どこまでも続くサラサラの砂の大地は、予想以上に熱く、乾いていた。
チラっ…とボスを見ると、無表情に前を見つめているも、なんだか気持ち良さそうにしているのは気のせいだろうか。
それにしても、いったいここで何をする気なんだろう。頭の中は、不安ばかりが過ぎるのであった。