出航!
□第五章 ウォーターセブン編
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「旦那の相棒の殺し屋さん。一杯、どうじゃ」
屋台の大将が、カウンターに手招きした。
トラファルガー・ローは、あらかた吐くものを吐き、疲れて眠っている。
「少しなら」
「熱燗? それともホットワインかい?」
「熱燗で」
熱燗をお猪口に注いだ。
「ほらよ、兄ちゃんも大変だな」
「いえ」
「仮面舞踏会はどうじゃった?」
「スノウがオーケストラとピアノを弾いて、驚いた」
「あのお嬢ちゃんか!」
「あの才能だ、ボスやあの御曹司が気に入るのも、無理もない」
自然と顔がほころぶ。
「お前さんは、お嬢ちゃんをどう思ってる?」
どうも思わないと言えばそうでもない、好きとか嫌いとかの感情とは違う、ボスを思い、ボスに着いて行くと決心した者同士の絆。
「信頼している」
「そうか! そんな感じに見えるよ。で、あの嬢ちゃんは旦那の女でもねぇんだろ」
これまでボスは、女関係に関しては、浅く後腐れのない関係を好み、自らの素性も明かさず、行為を楽しむ目的のみで、女を選んでいた。
自分と肉体関係のある女を、わざわざ傍に置いたりする事は自分の知る限り無かった。それは用心深さからくるものであったし、女は裏切るものだと割り切っている節もあった。
トラファルガーが突然しゃべりだした。
「そうか……あの女、なんかあるだろ。ド・フラミンゴも、お前んとこのボスも手を出さねぇなんて」
「…起きてたのか」
大将が、トラファルガーに水を差しだした。それを飲み干し、ため息をついた。
「……スノウは、アイツは、本当は、なに者なんだ?」
「………………」
「答えられネぇのか」
「詳しく知らないだけだ。それより、ボスに啖呵をきっていたが」
「冗談だ、アイツを少し焦らせようと思っただけだ」
「………すまない」
「 “すまない” って、なんだよ」
「それじゃあ、船に戻「ダズ! まだだ。今、船に戻ったら野暮だろ」
ボスに抱かれて幸せそうに笑うスノウ。ヤガラで船に戻る二人の後ろ姿が浮かんだ。
「そうだな、しばらくいいか大将?」
「なんなら朝までいてもいいよ」
ヤガラを降りても、スノウは起きる気配もなく、何をしてもピクリとも反応しなかった。
「…しょうがねぇな」
抱き上げ、船の甲板へ飛んだ。甲板では、コックのジャックと、ピエールが留守番がてら、舞踏会の花火を楽しんでいた。
「スノウちゃん!」
俺に抱かれたドレス姿のスノウを見て、ジャックが飛んできた。
「うぉぉぉ〜〜、ちくしょぉlp@m〜〜〜〜おれも、行きたかった〜〜〜」
泣き崩れた。いちいちめんどくせぇな。
「うるせぇ。早くドアを開けろ」
船内につつくドアを開けさせ、スノウを部屋に運び込んだ。
俺のベッドにマントごと寝かせる。
頬を軽く叩く。
起きねぇか。
寝息が静かに聞こえる。
俺好みのドレスにジュエリー。靴を脱がせ、足首のアンクレットを指でなぞる。上に乗り、唇を激しく奪うも、反応しない。
なんだこいつ、これでも起きねぇとは………。
少し手荒だが、起したかった。
あの金髪野郎とのキスの記憶を消すくらいの、口づけを、こいつの身体に深く刻み込みたかった。
首筋に吸いつき、歯を立てた………ギリッ
「んっ………」
痛みで声をあげた。いい声だ。
その瞬間。
ズキン!
全身に痛みが走り、思わず飛びのいた。
ドクンドクンドクン………鼓動が異様に早まる。
「うっ………」
なんだ今のは………、歯を立てた箇所は、赤くなるも、すぐに赤味は引き、何もなかったように白く透き通った肌に戻る。
超回復。
さっきの痛みは、なんなんだ!
俺はロギアだぞ。
マントで包み毛布を被せた。治まらない痛みと異様な胸の鼓動。
これが、もしかして、ド・フラミンゴが手を出せなかった理由か?
朝方、ダズがトラファルガーと戻ってきた。昨夜の衣装のままで、ソファーで眠る俺と、俺のベッドで眠るスノウを見てどう思ったか。何も言わずに着替えてベッドに横になった。
スノウは相変わらず、気持ち良さそうに眠っていた。こいつは眠りが深い。以前からそうだったが、一度眠るとなかなか起きねぇ。体質か。超回復の代償ってやつか? おそらく、昨夜の俺のキスも覚えてねぇだろう。
「ん………」
柔らかな手がカーテンから飛び出し、俺に触れる。ベッドを覗くと、寝惚けたスノウが。
「あ、おはようございます。ボス……あれ? ここ……」
船は出航し、アラバスタ王国へ。
つづく