出航!

□第五章 ウォーターセブン編
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第5章

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潜水艇は、魚人島を出発しグランドライン、シャボンティ諸島近海へと向かう。

現在の魚人島はホーディー一味やビッグマムの幹部たちが多数滞在し、人間や海賊たちにとっては危険地帯であった。昨日、ジャックさんを襲ったのは、ホーディー一味の幹部らしく、”あの程度で済んだからよかった”と、ロー船長が言っていた。




暗い海の中をジンベエさんが紹介してくれた、大きなタコの頭に載せられ海上へ向かう。



「ルーム! シャンブルズ!」


静かな操舵室にロー船長の声が響く。
海王類と何かが入れ換わる。
暗くて見えない。 

ベポとボスが交代で計器類を見つめ操縦桿を握る。
深海を上へ上へと浮上する潜水艇の中は、ピリピリとしたムードで、沈んできた時と同じように皆、緊張していた。





不意に辺りが明るくなってきた。
大きなタコさんが優秀なせいか潜水艇は思っていたよりも速く、静かに海上に到達した。

シャボンティ諸島から少し沖合の海上。

まだ外は夜で、明るく見えたのは月明かりだった。




操舵室からロー船長とボスが出てきた。


「スノウ、一緒に来い」


ボスは、タイを取り外し、シャツのボタンを3つぐらい外し、部屋のベットに寝っ転がった。ロー船長は、空いている(私の上の)ベッドに上がり、倒れこむように寝っ転がる。

「そいつを、マッサージしてやれ」

「はい」

ロー船長は、黙って腕まくりをして腕を投げ出している。
相当疲れているのか、半分眠っているようだった。梯子に上がり、ロー船長の腕を掴む。腕をキュッキュッとマッサージしていく。

“疲れが取れますように”

心をこめて。そして手の甲をモミモミっと、ロー船長これが好きなんだよね。


zzzzz…


口を開けて、いびきをかいてる。こうして見てみると、ホント、子供みたい。
もう片方も同じように終わらせ、腕を毛布の中に戻し、梯子を降りた。




向かいのベッドでカーテンも閉めずに眠るボスを見つめた。

よくよく見るとあごのあたりに無精ひげが薄っすら生えていた。あぁ、でも、そんなやつれた感じもかっこいい、なんて思いながらまじまじと見つめていると。


「何を見ている」


薄ら目を開け睨んだ。


「あ、すいません。ボスの腕も、マッサージしますか?」

「あぁ、頼む」


シャツの袖のボタンを外し、腕を肘ぐらいまで出した。
目を閉じ、ロー船長同様眠っているみたいに、ぐったりしていた。肘から下をゆっくりとマッサージし、手の甲をモミモミっとすると。



「ぉ……」


小さく声を漏らした。
嬉しくなり指のマッサージの後に、もう一回、手の甲をモミモミっとした。
声は出さなかったけど、されるがままになっているボスを見るのが新鮮でいつまでも見続けていたかった。



コンコン


「入るぞ」


ダズが戻ってきた。
部屋に入るなり、私のベッドの上の段で眠っているロー船長の存在に驚いた。


「なんで、いるんだ?」

「う〜ん。とてもお疲れのようで、ボスに私のマッサージを頼んだんですけど。
ボスもすぐに横になりたかったらしくて、それで、こっちの部屋に来る事になったみたいで」

「……そうか」


すこし変な顔をした。
ボスの手をマッサージを終え、袖を戻した。無防備に眠っている顔をまじまじと見つめた。


「ふふっ……」


思わず笑うと


「……何が可笑しい」


いきなりボスが目を開けた。


「わ、すいません」


フン、と言って、ピシャッとベッドのカーテンを閉られた。


「スノウ、おまえも少し休め」


ダズがベッドに横になった。








目を閉じる。

ザザザー

波の音?

ザザザー




魚人島での事を思い出していた。

ポーネグリフを見つけて、ボスと話をした。
いつもはすぐにボスが黙り込んだりして、会話が途切れたりするけど、結構、いろいろな事を話せたと思う。
それに、ジャックさんに抱きしめられた。

娼館…… 

そんな話も、涼しい顔で私に説明するボスが、なんだか少し憎たらしかった。





















「………………ウォーターセブンへ向かう」



寝ぼけながらロー船長の船内放送が聞こえた。
私のベッドの上の段で、寝ていたはずなのに、いつの間に起きたのだろうか……気が付かなかった。相変わらずの自分の睡眠の深さに呆れてしまう。


「……ウォーターセブンでは船の修理と、食料、物資の調達を行う。それぞれ持ち場に付き出航の準備をしろ!」


急に、船内が慌ただしくなった。
走る足音や、笑い声、物を引きずる音や、開け閉めする音が聞こえる。
潜水艦生活に慣れてきたせいか、この騒がしさを心地よく感じてしまう自分がいた。

少し残念なことはシャボンティ諸島には立ち寄らない事だった。もしかしたら、レイリーさん達に会えると思ったのに、デュバルとか(笑)、でも、海軍本部に近いシャボンティはボスたちにとっては危険地帯、仕方ないか……。


時計を見ると朝の8時。
ベッドから顔を出すとダズがランニング姿でスクワットをしていた。


「おはよう、ダズ」

「おはよう。スノウ。朝食に行くぞ」

タオルで汗を拭き、ほほ笑んだ。

「うん……もしかして待っててくれたの?」

「ついでだ。それに、一人置いて行って何かあったら大変だからな」


筋肉質の引き締まった背中がダズが“殺し屋“であることを思い出させる。ランニングの上から長袖のシャツをさっと羽織り、鏡をみてチェックをする。

本当にボスといい、ダズといい、身なりには気を使うらしく、部屋に入ると、大人っぽい香水の香りがふわっと漂っている。キツイ香りではなく、心地いい匂い。それに慣れ切っていたせいか、贅沢にも、ロー船長の口臭のことを残念に思ってしまったり……。




私達が食堂着いた時には、食堂には誰もいなくて、厨房に一人残ったジャックさんが微笑んで手を振っている。
だいたいの団員達は朝食を済ませ、持ち場に着いていた。
食堂のカウンター席にダズと並んで座ると、ジャックさんがウィンクしながら朝食を持ってきた。


「僕の天使スノウちゃん、おはよう。今日もかわいいね」


スッピンでハートの海賊団のつなぎ服姿の私に、冗談なのか本気なのかわからない、甘い言葉を毎度投げかける。
麦わら海賊団でいうと、サンジくん的なタイプの人かな。


「また〜。ありがとうございます。具合はどうですか?」

「もう大丈夫!このとおりさ!」


「うん、良かった」

「ん〜、そんなことより、ボスとは上手くいってる?」


顔をカウンター越しに近付け、目をジッと見つめる。青い瞳がこれまた綺麗で、吸いこまれそうになる。


「また、なんでそんなこと聞くんですか?」


思わず目をそらした。


「俺の出番は、まだかな〜って思ってね」


ニッコリ笑い、投げキッスをした。
ダズが睨むと、

「お! 怖い怖い。今日の朝食は、サバの塩焼きになめこ汁、納豆。苦手なものある?」

「平気です!お腹空いた〜」

「良かったぁ。君のボス、なめこと納豆がダメみたいで、別メニューにしたから」

「別メニュー?」

「ポタージュスープとサラダ」

「ふ〜ん。ボスは洋食派だもんね」

「そうだな」


ダズが答える。


「殺し屋は、好き嫌いはあるのか」


ジャックさんがダズに聞いた。私も気になる。


「特に無い」


朝食を黙々と食べ終えようとしていた。


「そうか! たすかるよ!」


ダズの言葉にホッとし、眩しいぐらいのイケメンスマイルを返してきたジャックさん。
うん、ダズって男に好かれる男のタイプかも。


「ダズってそうゆう所、男らしいよね」


思わず口に出てしまった。


「フッ」


鼻でわらってお茶を飲んでいる。
う〜ん、ダズって大人だな。


食べ終えた頃、ピエールさんが食堂の前を通りかかり、声をかけてきた。


「今日の練習は無しだ! ウォーターセブンまで無休で行くらしいからな」

「え、ウォーターセブンまで、どれくらいかかるんですか?」

「このスピードで、何もなければ、2日かな。」

「“何も“って何かあるんですか?」

「あぁ、海賊船とかに逢うと戦闘になっちまったりするからな」

「戦闘!?」

「でもよ、クロコダイルにイーストブルーの殺し屋が乗ってるんだぜ!!! 心強いよ!」

ダズの肩をポンとたたく。

「そのときは、スノウちゃんは俺が守るからな。」(ジャック)


ジャックさんがカフェラテに、ハート形を描いて出してきた。

「わ! ハート!」

「僕の気もちさぁ〜―「こらジャック!!! 下ごしらえ始めるぞ!」

「分かったよ!っち。じゃあまた、スノウちゃん!」


厨房のボスのアーロンさんが戻ってきてジャックさんとの会話が終わる。


「あいつ、本当に女好きでな。気をつけろよスノウちゃん!」


ピエールさんが笑って言う。



「はい!」

「じゃあ、あ、あと。クロコダイルさん、操舵室にいるから」




ピエールさんが食堂から出て行き、私とダズは”ごちそうさま”を言い、食器を片づけ食堂を出た。




「ねぇ、ダズ。戦闘になったら私はどうすればいいのかな?」

「スノウは、そうだな、俺達の傍でもいいが、どこかに隠れていてくれた方がやり易いかもな」

「どこに隠れてればいい?」

「海賊は、だいたい真っ先に操縦室や、船長室、食料庫を襲う。隠れるなら、トイレとかどうだ?」

「トイレか」


そう、あえて言わなかったが、ここのトイレは臭い汚い狭い。
はじめの頃よりは少し綺麗にはなったけど、長居するのは遠慮したい場所である。


「あとは、この床下とかだな」


しゃがみ込み、廊下の床を注意深く観察して、その中の一枚の鉄板を指先を刃物にしてクイッと引っ張った。
すると、配管やケーブル類が通った床下が現れ、丁度、人間が一人ぐらい入れそうな空間があった。


「よし、ここもいいな」(ダズ)


ダズが、納得したように確認し鉄板を戻した。


「海賊船に逢わないといいね」

「あぁ」


自分たちも海賊なのに、そう思ってしまうのはなんだかおかしい気もしたが、大事な人達が傷ついてしまったり、死んでしまったり……戦闘だけは避けたいと心底願った。
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