出航!

□第二章
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クロコダイル達は、港町に到着した。

風光明媚な海岸線沿いは新世界でも有数のリゾート地で、その海岸線から数キロ沖の海に浮かぶ島に城があった。

“メンフィス伯爵城” 

別名、悪魔の城。血塗られた歴史が渦巻く、心霊スポットだった。そこを買い取ったド・フラミンゴは城を心霊スポットと思えないくらい改築を施した。


“ド派手なメルヘン城!”


でも、そこに足を踏み入れることができるのは一部の人間のみ。城の中を知る者は、あまりいない。


「趣味の悪りぃ城だな」

「はい……」

「……お前は計画通り動いてくれ」


クロコダイルは砂になって島へ飛んだ。
ダズは、その島から北の小島に舟で向かった。















コンコン



ノックの音で目が覚めた。


「ご朝食をお持ちしました」


ベッドの上でアサヒと夢之介はきょとんとしていた。


「おはよう、夢之介君」


アサヒが笑うと。


「お、おはよう。アサヒ」


目を擦りあくびをした。
朝食はハムエッグに、サンドウィッチ、フルーツの盛り合わせに、ケーキもあった!

「そういえば、おなか空いたね。食べよっか」


真っ先に夢之介はケーキを嬉しそうに頬張った。

「美味なり」

「ケーキっていつも朝食に出るの?」

「今日が初めてじゃ。アサヒ、おまえががおるからかのう?」


あのカフェでの思い出が過った。
覚えててくれたのかな?
強引だけどなんだか憎めないド・フラミンゴさん……。
初めに出会ったのがクロコダイルさんじゃなくてド・フラミンゴさんだったら、私は彼を選んだのだろうか?


「なあ、アサヒ。……もう少しここに居てくれ」

目をうるませて言った。

「……でも、私がここにいると私のボスとド・フラミンゴさんが喧嘩になっちゃうでしょ。仲悪いんだから」

「お前のボス強いのか?」

「うん、とっても」

「若も、お強いぞ!」

「それも知ってる。だから、二人の喧嘩に巻き込まれて夢之介君や、他の関係無い人も怪我するのが嫌なの」

「若はお前を傷付けたりは絶対しないぞ!」

「うん、私もそう思う。夢之介君はド・フラミンゴさんが大好きなのね。だけど。私あの人について行くって決めたから」

「わかった」


泣きそうな顔で、ミルクをガブガブッと飲みほした。
出来れば、もう少し側にいて遊びたかったな。



「食べ終わったらまたピアノ聞かせてくれ」


そう言うと部屋からパタパタと出て行った。
私は、ゆっくり朝食を食べ終え、ぼんやり考えた。

”ボスがこっちに向かっている”

ここに来るという事は、ボスがド・フラミンゴさんと、何らかの取引でもしたのだろうか、本当に大丈夫だろうか……。








コンコン



「失礼しま〜す。アサヒ様。お風呂のご準備が整いましたのでご案内いたします」

おばあちゃんのメイドさんが呼びに来た。

「お風呂!?」

「はい、若様よりご伝言です。“身支度を整えておけ”とのことでございます」

「はぁ」


言われるがままに案内されたお風呂場には、大理石のまるいジャグジー風呂! ピンク色でかわいいウサギの蛇口や、シャンプーにトリートメント、ボディーソープも迷ってしまうくらい種類がたくさん置いてある。しかも、とっても使い心地がいい、きっと高級品だ。
お風呂からあがると、着替えが用意されていた。
黒字に白の水玉模様のワンピース。下着のキャミソールはシルク、っぽい。ブラは、あ、ドレスにパッドがついていた。

髪を乾かし、あらかた着替え終わると、また……。

「失礼します。ヘアスタイルのセットを申しつけられましたので」

赤い三つ網ヘアの若い女の子がいろいろな整髪料や機材を積んだカートを押して入ってきた。
あれよあれよと言う間に、髪をセットし終わり、出て行った。

鏡をのぞくと、ステキ!
ゆるめにアップされた髪が、ふんわりまとめられていて、横から垂らした髪の毛もクルクルときれいな曲線を描いている


「失礼します。」

今度は装飾品の担当者が現れた。
私を見て、手袋をはめた手で次々に付けていく。ティアラ、イヤリング、ネックレス、ブレスレッド、指輪。

「これ、本物の宝石ですか?」

思わず聞いてみた。

「当たり前です。若様からのプレゼントです」

「ええっ!」

装飾品が終わると、靴の担当者。その次は、バッグ、メイク。

もう、なんなんだろう。ただ座っているだけなのにぐったりしていた。


















青キジとド・フラミンゴ朝食中。


「おまえ、何故、アサヒちゃんにそこまでこだわる?」

「フッ、おめえらと一緒だよ。クザン」


ハムサンドをガツガツ食べながら


「おれは、嫌がる女子をさらってきて、無理やりキスしたりしないぜ」

「言うねぇ。 覗いたのか」



サングラスの奥が殺気を帯びた。


「ドア、開いてたぞ」


ハっとして二ヤついた。


「フッハハハ。見えちまったんならしかたねぇ、青キジ。いつまでここに居る気だ」

「あのお嬢さんを、保護者の元に届けるまでだな」

「あいつは海賊だぞ」

「お前もな」

「とにかく、しばらくアサヒは俺が預かる! いいだろ!」

「あのお嬢さんは、承諾するかな?」

「あぁ、断れないよう、いろいろ手は考えてあるさ…フフフ」

「ごちそうさん! うまかったよ」




青キジは食事を食べ終え、メイドに礼を言い席を立った。ド・フラミンゴはフルーツのイチゴをつまみながらニヤニヤしている。













同時にすさまじい殺気に二人は飛びのいた。



「サーブルス!」



砂嵐が、ド・フラミンゴの部屋を襲った。

青キジはメイドを部屋から出し、みんなに避難するよう伝言をだした。そしてすぐさま、対岸にいる藤寅にも連絡を入れた。




「連絡ぐれぇしろよ! 鰐野郎!」




ド・フラミンゴは、正直焦った。

用意周到で計画重視のクロコダイルが、まさか昨日の今日、早朝に現れるとは思ってもみなかった。

早い!
予想以上に!
アサヒは、あいつにとって、それだけ大事な”女”ってことか。



砂嵐はすさまじく、部屋の中は物が飛び交っている。







「アサヒはどこだ!」



ズダダダダダダダ……




砂の斬撃が乱れ飛ぶ。



























地鳴りがした。


ガシャン、ガシャン
パリン、ガガガ…




なにかが大量に割れる音がした……何だろう?

 

「大変よ、すぐに避難して下さい! 砂が!」

青ざめた顔のメイドが、飛び込んできた。



砂!
ボス!


「アサヒ様こっちです」
 


メイドが音のする方の反対方向に手を引っ張った。



「ごめんなさい」


その手を振りほどき、走った。


ボスが来たんだ!
戦わなくてもいいのに!
何で!
ボスを止めなきゃ!


音はどこから?


階段を駆け下り、昨日ピアノを弾いた、大広間に出た。夢之介君が窓の外を覗いて固まっている。


「夢之介君!」

「あ、アサヒ!」

「若の部屋が!」


大きな中庭を挟んで向かい側の部屋が砂嵐で煙っている。
時々、ドカン!……バシッと音が聞こえ、向かいの建物のいくつかの窓が吹っ飛んだ。


ボス!


「夢之介君、ここは危ない!」

「僕は若を、助けに」


小さい身体が震えている。


「駄目よ。あなたが傷ついたら、もっと悲しむわ」



夢之介くんを抱き上げ、安全な場所に走ろうと大広間の階段を中ほどまで上った時。


ガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャ…


大広間の窓ガラスが全部割れ吹き飛んだ。恐怖で顔が引き攣った夢之介君を上の廊下で下ろした。



「先に行ってて! 私は大丈夫だから!」

「アサヒは、どこに行くんだ!」



泣きそうな声で夢之介君が言った。



「私の、ボスのところ。私の事、迎えに来てくれたからね!」

「アサヒ。大好きだよ!」

「私も! 夢之介君、じゃあ、またね! さぁ、走って!」
 


夢之介君を見送った。


大広間に戻ろうと階段をおりかけた時、奥の砂煙からボスが現れた。










ハァ…ハァ…ハァ……





ボスの低い息づかいが聞こえた、ビリビリとしたすごい殺気が半端ないくらい伝わってくる。ボスの歩いた後には、砂の渦があちこちに出来ていろいろな物が砂風に巻き上げられていった。


あぁ、砂煙の中、黒いマントをはためかせているボスの姿は圧巻だ!


ボスの額から流れる血が見えた。ボスに傷を負わせることが出来るって……やっぱり……。







ハァ…ハァ…ハァ……




歩いてくるボスと目が合った!



「ボス!」



駆け寄ろうとしたその時。





ザシュ…





激痛と共に、胸元に掛けられたネックレスのダイヤモンドと血が飛び散った。

砂の刃が、肩から胸にかけて引き裂いていた。




「うっ…。ボス、な…んで」




信じられない気持で傷口を押え、その場に跪いた。




「…っあ」





あたたかい血がドクドク流れるのを感じた。
倒れ込む、直前クロコダイルが私に駆け寄り、さっと抱き上げた。
腕に抱かれると、いつものボスの香りがふわっとした。



なんで……

涙がこぼれる。









クロコダイルを追ってきた、ド・フラミンゴは大広間で立ち尽くし青覚めた。





「アサヒ!…うそだろ!」
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