出航!

□第六章 アラバスタ王国編
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“金さえあれば、女なんてどうにでもなる”


あの時のボスの嫌な言葉がよみがえる。
今、私、宝石で買収されているの!?

なんか、イヤ! 
そんなのイヤ! 
怒りが込み上げた!


「イヤっ……」


不意にボスは、何かを感じて、私から飛びのき、傍らにうずくまった。


「…………うっ……ゴホッ」


私は寝袋のチャックを開け、起き上がり

「もう、ボス! どうゆう…つもりなんですか!」
 
「………なんだ」

「お金を出せば女なんてどうにでもなるんでしょ! べ、別に、私じゃなくてもいいじゃないですか!」

「…………はぁ〜(ため息)…………そんなことか……」


ペッ……と何かを吐きだし、手で口を拭いている。

“ぺッ“て、キスしといて“ペッ”はないでしょ!
なんか腹立つ!


「キスとか、ボスにとっては、たわいもない事かもしれないけど」

「……お前が、怖がっていたから……しただけだ。……ハァ……ハァ」


優しく低い声で、話す。少し呼吸が荒い。


「怖がってた“からって、普通、キスするんですか!」


だんだん自分にも呆れてきた。
本当はボスからキスされて嬉しいはずなのに、こんなに怒るのも……でも。

「……悪いか?」

「悪いです!」

「ゴホッ…………だからおめぇはガキなんだよ……ハア……ハア……」

「なによ! ガキって言うくせに、じゃあ、なんでキスなんてするんですか!」

「……そうしたかったからだ」

「そうじゃなくて! ボスは…………ボス?」


ボスが苦しそうに仰向けになり、右手で服のボタンを外した。


「ハァ……ハァ……スノウ、て、手を貸せ」

「え……」

次の瞬間。


ゴホッ……

口から赤いものを吐き出した。


「血!?」

「手だ!」


険しい表情で、力無くボスが叫んだ。


「手……あ、はい、ボス!」


ボタンを外したシャツの襟元から、私の右手を入れ、ボスの胸に当てた。手に伝わるボスの鼓動はいつもより速くて、不安がよぎった。


「ボス……病気、なんですか?」

「…………」


返事をするのも辛いのか、苦しそうに目を閉じ、息をしている。
ボスは、元七武海。
もしかして、もともと持病があって、ずっとそれを隠して…。
血を吐いたから、結核とか!?

考えを巡らすうちに、ボスが息を吹き返したかのようにハァーーーーっと大きく深呼吸した。


「…………フ」


目を開け、ニヤリと笑った。


「へ?」

「お前はまだ気付いてねぇのか」

「何を……ですか?」

「この力だ」

「? 」

「治せるんだよ、怪我とか、おそらく病気もな」

「私が!? 」

「ああ、お前をフラミンゴ野郎から奪った時に、負った傷も、毒にやられたジャックも、お前に触れると治っちまっただろ」

「あ……それじゃあ」


両手をボスの胸に当てた。


「こうすればもっと良くなるかな?」

「ああ」

っと、ボスが私の腰に腕を回し抱き寄せたので、自然とボスの胸に乗っかってしまった。


「あ、ちょっとボス! 何するんですか!」

「何もしねぇよ」


私の頭をガシガシ撫でた右手は、優しく背中をポンポンと叩いた。

「もういいぞ」

「本当に? 大丈夫ですか?」

「なんなら一晩中こうしてもらうとするか」

「え!」

「冗談だ」

「ボス、船に着いたらロー船長に診てもらいましょう」

「……この事は黙ってろ」

「え、どうしてですか?」

「アイツも海賊だ、俺の弱味や、お前の力を知ったらどうすると思う?」

「ロー船長は、そんなに悪い人じゃないと思います」

「フ、海賊なんてもんは、立場や状況で変わっちまう、昨日、敵だった奴が、味方になったり。その逆も然り。……スノウ、お前のその力は、絶対に人に知られてはならねぇ。いいか!」

「なんで?」

「世界中から狙われてぇのか。世界政府、天竜人、四皇……恐らく大金をはたいても欲しがるだろう」

「……じゃあ、ボスの病気はどうすればいいんですか」

「俺は、もう大丈夫だ」

起き上がり、シャツのボタンを留めた。

「お前も休め」

私を追いたてるように寝袋に入れられ、チャックを閉め、寝袋ごと腕に抱き、マントでくるまれた。
綺麗な星空の下、ボスの顔を見上げると、もう目を閉じて眠っているようにみえた。


「おやすみなさい」

小さい声でボスに言った。












予想通り、だった。

スノウが他人を回復できる力がある事は、解っていた。
油断した訳では無かった。あいつの不気味な力を甘く見ていた。

内臓をえぐられる感覚。込み上げる血液に、暗くなる視界。
スノウの超回復ですぐに回復できたから、良かったようなものの……ロギアの俺でもダメなのか。

本気で嫌がるあいつに、無理やりするとああなっちまうのか。
じゃあ、今までは、そんなに嫌がってねぇって事なのか?

だから、ド・フラミンゴも手を出さなかった。
“出せなかった”と言う方が正しい。


……こいつは面白ぇ。

負の力の方は、まだ本人には伏せておいた方がいいだろう。知ったら知ったで、俺を傷つけた事で自分を責めるだろうし、色々と厄介だ。
腕の中で、静かに眠るスノウを見つめた。
白く柔らかい頬に触れる。すぐにでもマントの中で犯せる程に感情は高ぶっていた……さっきのあの力を知るまでは……。


















【トラファルガー・ローの潜水艦サイド】

クロコダイルとスノウが出かけてから3日過ぎた。
3日ほどで戻る、と言っていたが、何かあったか?

ダズは、スノウを追いかけた後、夕方には戻ってきたが、黙り込んでいた。
スノウたちの事を心配しているのか……元から口数は少ない方だが、更に少ない。


「おまえらの分だ」

と言って、船室に置かれた財宝を眺めた。
数年前、この国を奪おうとした男だ。この国の事は、この国の国王以上に知り尽くしてると、俺は思った。
ここ3日、スノウのピアノが聞けない寂しさもあった。
やはり艦内に女がいると、団員達も身なりに気を使い、掃除もちゃんとするようになっていたのが、スノウが居なくなったとたん、艦内が汚れ出した。


「船長、スノウちゃんがいないとやる気起きませんね」

「そうか」

「船長もでしょ……さっきから甲板に行ったり来たりして」

「うるせぇ」



日が沈み、夜になった。

甲板に寝っ転がった。
少し肌寒い。
出航の準備は整ったが。

スノウ。

不安げに俺たちに手を振る姿が目に浮かんだ。
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