出航!

□第一章 黒のテンペスト
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 らしくねぇと思われただろうか。



 だが、向けられるアサヒの満面の笑に満足している自分がいた。俺が話し始めると、頬を少し染めながらダズと明日の予定を真剣な顔で聞いている。当分、アサヒには雑用の仕事を任せるつもりでいるが、この街に慣れるまではダズと共に行動させた方がいいだろう。


「早く街の地図覚えて、一人で買い出しに行けるようにしますね」

「ああ、その方がダズにも別の仕事を頼める」

「アサヒ、明日は市場の方まで足を延してみよう」

「はい。楽しみ!」


 飛び上がって喜んだ。買い出しがそんなに楽しいものなのか?


「観光気分もいいが、この島には海賊も海軍もいる、危険な区域もある。十分注意しろ」

「「はい」」








 アサヒの異変に先に気付いたのはダズだった。


「おい、アサヒ。…大丈夫か?」


 隣のアサヒを見ると笑ってはいるが目が据わっている。


「んんっ、らいじょうぶれすよ」


 明らかに呂律が回っていない。飲みすぎたのか?まだグラス3杯だぞ!!!


「アサヒ、もう、よしておこうか」


 ダズがワインのボトルを取り上げようとすると、


「ダメ! これはボスが、私にくれたものだから、ダズにはやんない」

 と、ボトルを両手で掴んだ。



「あのなあ」


 さすがのダズも困った顔をして睨み合うも、先に笑ったのはアサヒで。


「んフフッ、じゃあダズ、ちょっとらけだよ。全部飲んじゃ、らめだからね」


 手を離し、そのままソファーにゴロンと横になった。



「ちゃんと栓をして取っておくから」

 ダズがワインの口にコルクで栓をし、冷蔵庫へ入れに立ち上がる。
 嫌な予感がし、横をみると寝転がったアサヒと目が合った。


「あ!」


 アサヒが小さく声を挙げた。



「うっ、気持ち悪…!

 ゲボ……

「おい!何しやがる!」



 よりによって、今日仕立てたばかりのスラックスに、吐きやがった。思わず怒鳴ってから、はっとした。
 怖がらせてしまったか!?



「ボス、ごめんなさ〜い。すいません。私のバカ〜」


 今度は泣き出す始末。


「はぁ〜〜〜〜っ。分かったから。泣くな」


 頭を撫でてやると、大人しくなった。と思ったら

「zzz………」




 寝てやがる!!!

 こいつ、とんでもなく、酒が弱かったのか!?

 ダズが後始末をし、アサヒは部屋のベットに運ばれ、すやすや眠っている。まったく、手がかかる。上司として部下の事をもっと知りたいと思い、アサヒに無理やり飲ませたのは失敗だった。酒が入れば少しは話がしやすくなるかと思えば………分ったことと言えば、酒が弱いうえに、酒癖が悪い事だった。


 まあ、誰にでも欠点はある。
あのダズさえ完璧に見えるが、少々融通の利かないところもある。
 少し、アサヒに対して甘すぎやしなかったかと考えたりもしたが、仲間になったのだから、そのうち仕事もさせるつもりだ。だからこそ何が出来て、何が出来ないのか知っておくことも大事だ。これからあいつに色々と教え込めばいい。








7-2


 翌朝







 ピピピピ…
 目覚まし時計の音で目が覚めた。



 うんん…頭が少し痛い。
 起き上がりトイレに向かう。



 ガチャ。


 リビングには誰もいない。
 昨日はボスがソファーにいたけど、今日はさすがにいないか。
 トイレの鏡をみて、昨日の服装まま寝ていたことに気付いた。



 なんで?


 記憶を辿る。買い物から帰って、リビングで飲んで……。
 そうそう、ボスが私のために買ってきたワインを飲んで。



 思い出せない。


 髪の毛が固まってる所があったので、匂いを嗅いでみたら、臭っ!。

 ゲロ!?

 吐いた?

 もしかして!? わたし!?




 部屋へ戻り着替えを取って、シャワー室に向かう。
 昨日なんかやらかしちゃった?
 シャワーを浴びながら、あれこれ考えるもまったく思い出せない。

 着替えを済ませて、リビングに行くとボスが起きていたので。



「おはようございます、ボス」

「ああ、コーヒーを頼む」



 ちらっとこっちを見て、また新聞に目を落とした。


 いつもと変わりないな。

 ボスに聞いても……ダズに聞いてみよう。



 ボスにコーヒーを出して、一旦、部屋に戻る。
 汚れた服を洗濯しようと服を持って洗面所に向かうと、ダズがいたので。



「ダズ、おはよう。あ、一緒していい?」

「ああ、大丈夫か?」



 心配そうに聞いてきた。

 隣の洗面台の穴をふさぎ、服を洗おうとしていると。

「アサヒ、服はクリーニングに出すといい。」

「え、でも。もったいないよ。手洗いすれば…。取れるかな?」

「遠慮するな。そこの入口の白い籠に入れておくとホテルの人が洗ってくれるよ」

「うん、分かった」



 洗面所の入口の白い籠にワンピースを入れようと覗き込むと、昨日ボスが着ていたスラックスが目に入った。

 !?も、も、もしかして…。

 何かと何かが線でつながった感じがして、恐る恐るダズに聞いた。



「ダズ、昨日の事、私あまり覚えてないの。何があったか教えてくれない?」


 フッとダズが噴き出した。


「何よ! ダズ! 教えて!」

「聞かない方がいい」


 明らかに笑いをこらえているダズ。


「ひどい!? ダズ、教えてよ!」




 ……………!!

(ダズ話し中)


 ♪瀕死のバッハが頭の中をグルグルにかき回した。
 小フーガ!





「いやぁぁぁ〜

本当に!?私、そんなことしちゃったの!どうしよう」




 ガチャ



「いい加減にしろ。朝食にするぞ」




 ボスが洗面所のドアを開けた。




「うあぁぁ! ボス。すいませんでした。新しいスーツまで、ごめんなさい」


 もう平謝りしかないと思い、頭を下げると、頭にポンと手が乗った。
 そして、くしゃりと撫でられる。


「悪いのは無理やり飲ませた俺の方だ。気にするな」





「え?」


 怒ってない。

 顔を上げると、ボスはもう背中を向けていて表情を見ることは出来なかった。




「だから言ったろ。気にするな」


 ダズが笑う。




 なんて!

 なんていい人たちなんだろう。

 この人たちは海賊の筈なのに、こんなにも大人で、こんなにも優しい。
 洗面所から出て行ったボスの背中を見つめる。過去にバロックワークスの社長だったクロコダイル。人を惹きつける魅力も然ることながら、人を扱うことにも長けている。私は心底、この人の部下で良かったと思ってしまった。



 海賊。

 海賊=悪い人

 そうなんだけど。

 それを考えたらルフィさん達もそうなんだけど。
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