小説(宝物)

□おやすみ(雑賀孫市)
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初夏。

暑さもそろそろ本格的になりそうな今日この頃。

私は自分で育てている夏野菜たちに水をあげていた。



「暑いな。」

高い空を仰ぐ。

暫く木陰で休憩しようと、近くにあった大きな木の方へ歩いた。



「ん?」


先客が居る。
それは見たことのある人物で。


「孫市だ。」


遠目に見る限り、眠っている。


「珍しいな、孫市がこんなとこで寝てるなんて。」


一瞬、手に持っていた水をかけてやろうとも思った。
だけどこの男がこんなにも人目につく場所で眠っている・・・
相当疲れているのだろう、と思いそれはやめておいた。


少しずつ近付くと、寝息が聞こえてきた。


「本当に寝てる・・・。」

丁度日陰にもなっていたし、私は孫市の隣に座った。


・・折角だ、少し悪戯してやろう。

そう思い、孫市の顔を覗き込む。

すると、


「引っかかったな?」

ニヤリと笑いながらそう言って、一瞬で私を捕まえる。


「ちょっと!!」


耳元でくすくすと笑う孫市。

「寝てたんじゃなかったの!?」


大声で言うと、孫市は大きな欠伸を一つ。

「寝てたよ。」


とのこと。

「じゃあ何で私は捕まってるの?」


「紫苑の足音で起きた。」


まだ眠そうだった。


「・・・ごめんなさい、起こして。」


私が謝ると、さっきまでぴったりとくっ付いていた孫市が、ふと私から離れた。

そして、変な顔で私を見た。
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