小説(Sengoku)
□白昼夢(石田三成)
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「三成!・・三成ってば!」
石田三成は聞こえてはいたが、返事をしなかった。つるべ落としとはよく言ったもので、秋の夕暮れはあっという間に暗闇に包まれていく。そんな中を屋敷に向かってゆっくりと歩いていった。
「・・もう、聞こえてるんでしょ?」
瑞奈は三成の背中越しに、もう一度声をかけた。
「何のようだ?」
振り向きもしないで、三成はようやく返事をした。仕方なく、瑞奈は三成の前へ回り込む。艶やかな黒髪が肩の上で踊った。
「今度、山賊退治に行くんでしょ?私も連れてって!」
「だめだ!」
「何で?邪魔にはならないと思うけど。」
「ともかくだめだ!」
三成は瑞奈の顔を見ようともせず、ただそっけなく返事をした。
「・・・いいもん、それだったら私にも考えがあるから。」
瑞奈は頬をぷーっと膨らませ、どこかに走って行ってしまった。三成はその後姿を黙って見送っていた。
* *
三成と瑞奈は幼馴染みである。幼いころ、二人の住んでいた村が戦で焼かれほぼ全滅した。身寄りのなくなった二人は、一緒に隣村の寺に救われた。三成はそこでの修行中に、水を飲みに立ち寄った豊臣秀吉の目に留まったのである。最初秀吉は、三成のみを連れて行こうとした。だが三成が瑞奈と一緒でなくては行かないと言い、それで二人を一緒に引き取ることにした。秀吉と正室のねねの間には子供がいなかった。二人は身寄りのない子供を引き取り、わが子のように育てていた。
「三成様、殿がお呼びです。」
「わかった、すぐ行く。」
薄暗い部屋で瞑想していた三成は、屋敷内にある秀吉の部屋へと向かった。
「・・秀吉様、お呼びですか?」
「おお、三成か入れ!」
障子を開けて中に入ると、秀吉のほかにねねと瑞奈がいた。三成はその瞬間ピーンときた。
なるほど・・。
「三成、こんど山賊退治に行くんじゃったなぁ。」
秀吉が脇息に左腕を乗せ、話を切り出した。
「はい。」
三成は短く返事をした。秀吉の話は三成にはもう見当がついていた。
「それに、この瑞奈を一緒に連れて行ってはくれまいか?」
やっぱり・・。
「・・・。」
三成は黙っていた。秀吉とねねが引き取った子供は、ほとんどが男の子で女の子は瑞奈一人である。その為、二人は瑞奈にはとても甘かった。