小説(捧げ物)
□月光と淡雪 (平知盛)
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昼間の薄曇りで見えなかった月が、夜になって雲の切れ間から顔を出し始めた。それでも時折雲がかかり、光が薄くなる。
・・・はぁ・・。
その空を見上げ、私は小さく溜息をついた。満月には少し足りないその月は、それでも自己を主張するように懸命に輝いている。
・・・私は・・どうすれば・・。
月に尋ねるようにじっと見つめ、答えを得ようとした時だった。その空から、ゆっくりと白い雪が舞い始めた。
・・これが・・答え?
手のひらに受け止める。ふわふわとした雪は原型をとどめることなく、手のひらに落ちる前に消えていった。
やっぱり、あきらめろ!ってことかな・・。
「・・何をぶつぶつ言っている?」
不意に背後から声がする。知盛だった。そして、そのまま背中から抱きしめられる。
「・・やっ!」
私は体をくねらせ、彼の腕から逃れようとした。だが男の力は強い。させまいと、彼は抱きしめる腕に力を込めた。まるで羽交い絞めされているかのように身動きがとれず、私は抵抗するのを諦めた。
「・・・怒っているのか?」
「・・・・・別に・・。」
「では、・・・拗ねているのか?」
「・・・・・そんなんじゃ・・。」
私はそのままの姿勢で、首だけ回して後ろを見る。すぐ近くにある知盛の顔を見て、そしてまた前を向いた。
「・・そんなんじゃないもん。」
言いかけた言葉を言い直し、私は知盛の腕を振りほどいた。今度は油断していたらしく、あっさりと逃れられた。そして、2・3歩前に出る。
「・・・どうした?」
背中を向けたままの私に、知盛は不思議そうに聞く。
「・・・・・さっき、知盛の部屋に・・・、女の人が入って行くの・・見た。」
小さく言うと、彼がゆっくり近づいてくる気配がした。そして、私のすぐ後ろまで来て立ち止まった。
「・・それが・・どうした?」
何の動揺もためらいもなく、知盛は低く言う。その言葉を聞き、私の心臓が小さくうめいた。私には衝撃的な出来事も、知盛にとってはごくありふれた事なのかもしれない。そう考えると、悲しいのに納得させられる思いだった。私は大きく空を仰いだ。月は再び雲に隠れ、光がいっそう淡くなる。その空から、相変わらず雪は降り続いていた。
「・・・・・どうも・・・しないよ。・・ただそれだけ。」
空を向いたまま、私は答えた。顔の上に舞い降りる雪を、目を閉じて受け止める。
・・・・このまま、凍えちゃえば・・・心配してくれるかな。
そんな私の様子を伺っていたのか、知盛はまた近寄ってきた。
「全く・・嫉妬・・か?」
「違う・・って。」
そう言って振り返った私は、今度は正面から抱きしめられた。そして彼は私の顔を自分の胸に押し付け、耳元でささやく。
「・・・・・あの女が・・勝手に来ただけだ。・・すぐに追い出した。」
「・・なん・・。」
顔を上げて話し出そうとした私は再び胸に押し戻され、彼は更に続ける。