小説(宝物)

□おやすみ(雑賀孫市)
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「はぁ。」

私はあからさまに溜め息をつく。

そんな私の顔を覗きたそうにする孫市。
だけど、目を覆った手は離してあげない。


「寝なさい。」

少し、きつめに言う。

「何で?」


そう、へらりと笑った。


「顔が疲れてるから。」

「何だそりゃ。」

「おやすみ。」


もう無理矢理眠らせるしかないな、そう思った。


「もう眠くな」

「寝ろ。」


目を覆っていただけだった手に、少しだけ力を込める。

「それはちょっと痛いなぁ・・・。」

「・・・。」

「なぁ、紫苑。」

「・・・。」


何を言われても返事をしないことにした。
次に返事をするのはコイツが一度眠って。

起きたらまた相手をしてあげる。

だから、ゆっくり寝て。

疲れた顔なんて見たくないから。

出来れば、

出来るだけ、


貴方の元気な笑顔が見たいの。

貴方の元気な声が聞きたいの。


口には出せないけど、

それが私のたった一つの願いだから。

それさえあれば、幸せだと思うから。


私が居なきゃ眠れないのなら、ずっと私が居てあげる。


だから、ね?

今はおやすみ。


「一つくらい、私の願い叶えてよ。」


「願いって?」


「寝ろ!」



END


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