小説(宝物)

□おやすみ(雑賀孫市)
2ページ/5ページ



「どうした?」


それは凄く怪訝そうな顔で。


「何が?」

「いやに素直に謝ったからさ。」


「失礼ね!私はいつも素直よ!」

声を張り上げると、孫市は笑った。
いつも通りへらへらと。


「あぁ、折角だ。」


突然思い出したように私の足を掴む。


「何?」

「膝枕ヨロシク。」


「ちょ、嫌よ!!」

拒否したにも関わらず、孫市は私の膝に頭を乗せた。


「柔らかいな〜」

「変態。」


私は孫市の両目を手で覆った。


眠いのなら、私になんて構わず眠れば良いのに。


「おいおい、折角紫苑の綺麗な顔を見上げる絶好の機会だってのに。」

「うるさい。」


孫市の言葉を遮ると、少しだけいじけた。
そしてまた一つ、欠伸をした。


「・・・紫苑。」

「何?」


名前を呼ばれたから、返事をした。

だけど、孫市の口から言葉は続かない。


「ん?寝言?」


そんなにすぐに眠るのか、と目を覆っていた手を離した。


「やっと見えたな。」


眠ってなどいなかった。

「・・・最低ね。」


ぺちり、私は孫市の額を叩く。

すると孫市はクスクスと笑った。


「寝なよ。」

また孫市の目を覆う。

「何で。」

「眠いんでしょ?」

返事をする代わりに欠伸をまた一つ。


「居ないほうが良いなら私は、」

そこまで言ったところで、孫市に手を掴まれた。


「何?」

「紫苑の匂いがしないと眠れないな。」


孫市の口許は笑ってた。

いつもみたいな、やらしい笑顔じゃなくて。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ