小説(Haruka)

□桜花爛漫-前編(安倍泰明)
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からりと障子を開けて、友雅が入ってきた。思わぬ助け舟に、あかねはホッとした。
「特別な想い?」
それでも泰明には難しいようだ。うつむき考え込んでいる。
「その人の事が好きで、愛しくて、一緒にいると楽しくて、そして守ってあげたくて・・・そんな気持ちになったことはないかい?」
扇子を口元に当てて、友雅は意味ありげに泰明を見た。どうやら部屋の外でしばらく話を聞いていたらしい。
「・・・私には、・・・・・・わからない。」
泰明は、ゆっくりと顔を上げた。みんなの視線を集め、戸惑いの表情を浮かべる。誰も何も言えなかった。
「あ・あの、・・友雅様もお菓子、いかがですか?」
楓が沈黙を破って、そっと友雅に声を掛けた。
「そう、楓さんと僕とで作ったんだ!」
慌てて詩紋が焼き菓子を友雅に差し出した。
「ほう、これはこれは・・・。」
友雅は一つ取ると、すぐに口に運んだ。
「ん、・・・・・なかなか美味だね。君の愛を感じるよ!」
目の端に泰明を入れながら、楓の顔を見てにっこりする。
「・・・僕も一緒に作ったのに・・・。」
詩紋がいじけたように言うが、友雅には聞こえないらしい。
「ふふっ、・・今度は私だけの為に作って欲しいね!」
挑発的なその言葉で、泰明は席を立った。
「あ・あの、泰明様?」
楓も慌てて立ち上がった。
「そろそろ帰るとする。」
そのまま泰明はすたすたと歩き出した。楓も後に続いた。
「友雅さん!」
二人が出て行くと、あかねは怖い顔で友雅を睨みつけた。
「まあまあ、落ち着きなさい。これで泰明殿の気持ちもはっきりしたようだし・・。」
友雅は全く気にしない様子で、二人の出て行った方を見ている。
「で、どうなんだよ。泰明の気持ちは?」
イノリが興味ありげに身を乗り出した。
「ふふふ・・・。」
それ以上、友雅は何も言わなかった。


「泰明様、・・その・・・申し訳ございません。」
門の所まで送ってきて、楓が泰明に頭を下げた。
「なぜお前が謝る?」
顔をこわばらせながら、泰明が言った。
「・・いえ、・・ご気分を害されたのではないかと思いまして・・。」
楓は、泰明の表情が硬く明らかに不快を示しているのを見て、恐る恐る言う。
「お前のせいではない。」
冷たく言い放ち、泰明は後ろを向いた。
「でも・・。」
なおも言う楓に、泰明は後ろを向いたまま問いかけた。
「友雅に、作ってやるのか?」
「え?」
意味がわからず、楓は問い返した。
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