小説(Haruka)

□桜花爛漫-前編(安倍泰明)
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「美味しいですよ!」
楓はにっこりと笑い、泰明の手元を見つめる。
「お前が作ったのか?」
「はい、詩紋様と一緒に。」
「そうか、だったら頂こう。」
泰明はゆっくりと口に運んだ。
「何だあれ?」
イノリは横目でチラッと見て、焼き菓子を食べた。あかねも詩紋も、何と言っていいかわからず黙っている。
「うん、うめえ!」
イノリは自分で言い出しておきながら、もう二人のことは頭になく夢中で焼き菓子を食べている。
「そうそう楓、明日、上賀茂神社まで使いに行ってくれませんか?」
藤姫が話題を変えるように楓に言った。
「はい、わかりました。」
楓は藤姫に返事をすると、ゆっくりと泰明を見た。
「美味しかった。」
泰明も食べ終わると、楓に向かって一言言った。
「良かった・・。」
楓も嬉しそうに微笑んでいる。イノリの言葉は二人には聞こえていなかったらしい。あかねは泰明の態度が気になった。
楓さんのことが好きなのかしら・・?
詩紋も薄々感じているらしい。
「ね、あかねちゃん、・・あの二人・・?」
あかねの耳元で詩紋がこそっと言った。あかねは曖昧にうなずき、ちらちらと視線を走らせる。
「何だ、おめえら食わねえのか?・・・ん?」
イノリはあかねと詩紋の視線を追い、再び泰明を見た。初めて見るような泰明の表情に、素朴な疑問を投げ掛ける。
「泰明は楓に、・・惚れてるのか?」
一瞬にして、みんなの動きが止まった。
「・・イ・イノリくん・・!」
あかねが慌てたように叫んだが、イノリは全く気づかない。詩紋も焦ったように泰明と楓を見た。楓は赤くなりうつむいている。
「・・惚れる、とはどういうことだ?」
突然、泰明が口を開いた。
「へ?」
今度はイノリが動きを止める番だった。
「・・泰明様・・・。」
楓も困ったような顔をして泰明を見た。
「楓、お前にはわかるのか?」
泰明は今度は楓を見た。
「・・あ・あの、・・・それは・・。」
楓は答えられるはずもなく、視線を泳がせた。
「あのね泰明さん!」
あかねが意を決して切り出した。
「『惚れる』というのは、好きになるということだよ!」
「ならば、お前たちも楓に惚れているのか?」
泰明は不思議そうに尋ねる。
「う〜ん、ちょっと違うかなぁ・・・?何て言うか・・・。」
あかねは言葉に詰まってしまった。
「惚れるとは、その人に特別な想いを寄せることだよ、泰明殿。」
「友雅さん!」
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