小説(Haruka)

□桜花爛漫-前編(安倍泰明)
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「な〜んか変なんだぜ、泰明。」
「イノリ、もう離せ!」
「ああ・・。」
泰明はイノリの手を離させると、みんなから少し離れた所に座った。
「どう変なの?」
あかねはみんなから視線を外している泰明を見た。
「門の所にいたから、てっきりあかねのとこに来たのかと思って声をかけたら、『用事がないから中には入れない』なんて言うんだぜ?」
イノリは、口を尖らせながら言う。
「まあまあ、落ち着いて。」
あかねはイノリをなだめながら、再び泰明を見た。泰明は落ち着きなく、きょろきょろと辺りを見回している。
「だってよ、俺だって今日は用事ねぇし、ただ・・あかねと詩紋の顔見に来ただけだし。」
独り言のようにぶつぶつ言うイノリに、泰明が反応した。
「顔を見に来るだけでも良いのか?」
「はあ?」
何言ってんだ?という顔で、イノリは泰明を見た。
「用事がなくても、顔を見に来るだけでも来て良いのか?」
真面目な顔で言う泰明に、イノリは吹き出した。
「泰明さん、別に用事がなくても来ていいんだよ!顔を見に来るだけでも、話をしに来るだけでも・・・。ただ遊びに来た!ってだけでもいいんだから。」
あかねは何となく泰明の気持ちを察しながら、説明するように言う。
「それより二人とも、丁度いいところに来たよね!」
詩紋がニコニコして言った。
「何だよ、詩紋。」
「今お菓子作ってたんだ。もう焼ける頃だから、ちょっと待ってて!」
詩紋はそう言うと、部屋を出て行った。しばらくして戻ってきた詩紋は、手においしそうな焼き菓子を持っていた。
「お、うまそうな匂いじゃん!」
イノリが覗き込んだ。泰明は興味なさげにチラッと見て視線をそらしかけたが、詩紋の後ろに楓の姿を見つけて表情を和らげた。
「こんにちは!」
楓はそう言って部屋に入ってきた。
「あ、泰明様も来ていたのですね。」
部屋の隅にいる泰明を見つけて、楓は嬉しそうに声をかけた。
「ああ、特に用はなかったのだが・・・。」
泰明は戸惑いの表情で、それでも嬉しそうに答えた。
「まだ、言ってるぜ。」
イノリは小さく言うと、
「俺も来てんだけどな。」
と大きな声で言った。
「イノリ様は声ですぐわかりましたもの。」
楓は袖で口元を隠し、小さく笑った。
「ね、ね!それより食べてみて!」
詩紋は焼き菓子を一つ手に取ると、泰明にも渡した。泰明は不思議そうに手に取ると、楓を見た。
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