小説(Haruka)

□桜花爛漫-前編(安倍泰明)
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「有難う!」
あかねは素直に座布団に座ると、楓に詰め寄った。
「じゃあ、何があったの?」
「あかねさんこそ、私に何か用があったのじゃないの?」
楓はあかねに話すのをためらって、逆に聞いた。
「ううん、私はただおしゃべりがしたかっただけ。・・・楓さん、私に言いにくいこと?だったら、無理には聞かないけど。」
あかねは、楓が言いたくないのではないかと思った。
「・・そうじゃないけど、そんな大したことじゃないから。」
楓は少しはにかみながら、今日あった出来事をあかねに話した。
「・・・泰明さんが?」
あかねは驚いたように楓の顔を見ている。
「私、あまり泰明様とお話したことがなかったものだから、ちょっとびっくりしちゃって。」
楓は思い出したのか、うつむいて顔を赤らめている。そんな楓の様子に、あかねは少し考えてから言った。
「楓さん、もし違っていたらごめんなさい。」
そう言ってあかねは楓の顔を覗き込んだ。
「・・泰明さんのこと、好きなの?」
楓はうつむいたまま何も言わない。だが、赤らめたその顔から、あかねは自分の言ったことが当たっていると感じた。
「そっか、そうだったんだ。」
「あ・あのあかねさん、私何も言ってないんだけど・・。」
楓は照れながらも反論してみる。
「うん、私も協力してあげる。」
あかねは楓の話など聞かないで、一人張り切っていた。
「・・・・・あかねさんったら・・。」
楓は観念したように、あかねを見た。

それから2・3日したある日のことだった。
「・・楓はいるか?」
突然、泰明が訪ねてきた。
「あの、神子様に御用ではないのですか?」
取次ぎにでた藤姫が、不思議そうに泰明を見上げた。
「今日は楓に用があってきた。」
「そうですか、・・・楓は神子様と一緒にいますので、どうぞ。」
小首をかしげながら、藤姫は先にたって歩き出した。
「楓、泰明殿がきています。お前に用があるそうです。」
藤姫が部屋の外から声をかけると、楓が慌てて飛び出してきた。
「泰明様が?」
藤姫が驚くほどの慌てぶりで、楓は泰明を迎えた。
「楓、落ち着きなさい。」
藤姫はまたしても不思議そうに、今度は楓を見た。楓は藤姫にたしなめられて、恥ずかしそうにしている。泰明はそんな楓を緩やかに見ていた。そして口を開いた。
「この間借りた手ぬぐいだ。」
そう言って一枚の手ぬぐいを差し出した。
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