小説(Haruka)

□桜花爛漫-前編(安倍泰明)
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泰明は、どうするのだ?と言う顔で楓を見ている。楓はそっと泰明の着物を掴み、上目遣いで泰明を見た。そして大きく息を吸い込んだ。
「あ・あの、泰明様!」
「なんだ?」
「今日これからの予定は、何かありますか?」
ゆっくりと泰明に聞く。
「いや、特にはないが。」
「では、一緒に火乃神子社に行って頂けないでしょうか?」
言ってから楓は、自分が泰明に近寄りすぎているのに気づき、慌てて離れた。
「・・桜も咲いているかもしれませんし・・・。」
「・・桜?」
「はい、私・・桜の花が好きなのです。」
照れたように言って楓はうつむいた。
「・・・・・あの、迷惑でなければ。」
そして、そっと一言付け加えた。泰明は楓を見た。先ほどまでの自信に満ちた笑顔は消え、不安そうな瞳で泰明にすがっている。
「桜はまだ咲いていないだろうが、・・・わかった。では私も、気を養ってこよう。」
軽く微笑み、泰明はそっと楓に近づくと、指先で楓の目元を拭った。
「えっ?!」
楓は知らず知らずのうちに、瞳に涙をためていたようだ。泰明に触れられ、楓はまた顔を赤くした。
「では、行くぞ!」
先に立って歩く泰明に、楓は慌ててついていった。

「今日は有難うございました。」
泰明に屋敷まで送ってもらい、楓は丁寧に頭を下げた。
「なかなか楽しかったぞ。」
珍しく明るい表情で、泰明は楓を見つめた。
「では、私は帰る。」
「はい、お気をつけて。」
短い会話を交して二人は別れた。楓は泰明の後ろ姿を見送り、やがて見えなくなると屋敷の中に入っていった。「ただいま戻りました。」
そう声をかけて自室に戻った。障子を閉めると、両手で頬をおさえる。泰明に触れられた目元と体が、まだ熱い気がした。思い出すとまた心臓がドキドキしてきた。
「やだ、意識しすぎかしら?」
泰明には何の気もないことはわかっていた。でも・・・。
「楓さん、いる?」
龍神の神子であるあかねが、部屋の外で声をかけてきた。
「はい、どうそ。」
楓はあかねの世話係をしていた。ちょうど年も同じくらいなので、二人はとても気が合った。
「おじゃまします。」
あかねはそう言って部屋に入ってきた。そして楓の様子に気がついた。
「顔が赤いけど、熱でもあるんじゃない?」
あかねはそう言うと、手を楓の額にあてた。
「う〜ん、熱はないみたい・・。」
「大丈夫!・・そんなんじゃないから。」
楓は苦笑して、あかねに座布団をすすめた。
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