小説(Haruka)

□桜花爛漫-前編(安倍泰明)
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「何か付いてます?」
あまりに見られて、楓は恥ずかしくなった。
「いや。」
泰明はまた前を向いた。そのとき、突然大きな風が辺りを包んだ。落ち葉や砂埃を巻き上げている。泰明と楓もその中に巻き込まれた。
「きゃっ!」
楓の髪も着物も、風に流されている。
「えっ?」
何かに包まれ、急にそれが静かになった。泰明が楓を抱き込んでいた。
「春一番だ。すぐに収まる。」
楓を抱きしめたまま、泰明は静かに言った。楓は目を閉じ、泰明の胸に顔をうずめていた。思わぬ出来事に、緊張で体が硬くなる。頭の上を風が通り過ぎていくのを感じながら、楓は黙って泰明の鼓動を聞いていた。自分の鼓動もかなり早くなっていた。やがて風も収まり、泰明はそっと楓の体を離した。
「有難うございました。」
少し顔を赤らめながら、楓は礼を言った、
「気持ち悪くなかったか?」
泰明は申し訳なさそうな顔で、楓を見つめている。
「どうしてですか?」
「・・・神子から聞いていないのか?・・・私が人でないことを。」
泰明はじっと楓を見つめたまま言った。
「人であってもなくても、泰明様が泰明様であるということに変わりはありません。それに、私を守ってくださった泰明様に感謝することはあっても、気持ち悪く思うことはありません。」
楓は真っ直ぐに泰明を見ると、にっこりと笑って言った。
「やはりお前は、変わっている。」
泰明もつられたように笑みを浮かべた。
やがて道は三叉路に差し掛かり、泰明は右に楓は左に分かれて歩き出した。が、2・3歩歩き出したときだった。
「きゃあ!」
楓の悲鳴で、歩いていた泰明は急ぎ戻ってきた。
「どうした?」
道の真ん中で楓が小さく震えていた。何事かと泰明が楓の肩越しに覗くと、一匹の蛇がにょろにょろと這っていた。
「・・あれか?」
泰明は少しあきれたような声で聞いたが、楓の固まってしまったように動けないでいる様子を見ておかしくなってきた。
「待っていろ。」
そう言うと、泰明はゆっくりと蛇に近づきあっという間に捕まえて、隣を流れていた小川に流してしまった。そして手を洗い戻ってきた。
「もう、大丈夫だ。」
楓の差し出した手ぬぐいで手を拭きながら泰明は言った。
「有難うございます。」
まだ少し青ざめて顔で楓はお礼を言った。
「あのような物が怖いとは。これから先、いくらでもいるぞ!」
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