小説(Sangoku)
□犯人は・・私・・?(陸伯言)
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『さて、次のニュースです。』
その夜、美紅はテレビをつけっぱなしにして夕食の準備をしていた。
「・・簡単なものにしよう・・。」
そう思い、献立はパスタにした。ふと、お湯を沸かしながらテレビを見ていた美紅の視線が、テレビに釘付けとなる。それは、モーターボートの事故というものだった。
『本日午後2時頃、モーターボートが運転を誤り岸壁に激突しました。乗っていた男女5人は、病院に運ばれましたが間もなく死亡しました。』
アナウンサーがそう言った時、画面に5人の顔写真が出た。その顔に、美紅は見覚えがあった。
・・・昨夜の5人だ・・。
一瞬、背筋に冷たいものが流れた。心臓がドキドキする。特別知っているわけではないのに、何となく気分が悪い。
・・ばちが当たったのよ・・。
美紅はそう思いながらも、テレビから目が離せずにいた。
『なおそのうちの一人が、激突する直前にハンドル操作がきかなくなった。と言っていたことから、警察ではメンテナンス不備があったものとして調べています。』
淡々と言うアナウンサーの説明に聞き入りながら、映された湖の映像にぎょっとする。
・・・・・・・何か、昨日の夢に・・似てる。
断片的にしか思い出せないが、うつらうつらした時に見た夢にその場所は良く似ていた。
「・・たかが夢じゃない!・・・私には関係ないもん・・。」
そしてお湯が沸いたのを機に、ようやく美紅はテレビから目を離した。
* *
あれから1週間後、美紅はあの事件をすっかり忘れていた。同僚の千也子には話したのだが、
「報復に来ないから良かったじゃない!」
で終わってしまったのだ。何となく後味は悪かったが、自分が何かしたわけでもないので、特に気にも留めなかった。
「ね、それより明日遊びに来ない?」
そんな中、千也子が声を掛けてきた。彼女は最近新しいマンションに引っ越したばかりだった。以前の和風のアパートから、今度は洋風のマンションに越したので、見せたいのだろう。
「うん、いいよ!ケーキでも買っていくね。」
二つ返事で返事をして、美紅はお土産の約束をした。ここの所、家に閉じこもってばかりだったので久しぶりの外出である。
・・・ストレス溜まってるから、発散させなくっちゃ!
すっかり張り切っていた。
「・・・へえ、凄く綺麗だね・・。」
部屋に入った途端、美紅の口からため息に似た言葉がこぼれる。以前の、畳の部屋とは全く正反対のフローリングの部屋をスリッパで歩きながら、美紅は珍しそうに歩き回った。