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□かぼちゃな侵入者
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※かぼちゃな侵入者※




 コンコンと窓の方からノックの音が聞こえる。
 ベランダもない上階の窓の外、人などいるはずはないのに驚くこともなく窓に近づきカーテンを開けた緋龍龍麻は窓の外にオレンジ色の不恰好な塊を見つけた。
 でこぼことした特徴のある形と野菜風のオレンジ色はかぼちゃのそれで、ただ、野菜の下には人間の身体が続いている。
 どこからどう見ても不信人物以外の何者でもないその人(?)影のオレンジの頭を龍麻は軽く指で突付いた。

「高校の校舎の壁の縁にそんな格好で立ってたら警察を呼ばれるよ」

 くるりとオレンジの顔が振り返る。
 笑った顔のようにくりぬかれたかぼちゃのお化け。中の顔は見えなくてもこんなバカなことをやる相手など限られている。

「トリックオアトリート」

 聞きなれた声がお約束の言葉を口にする。

「ごめん。まだ、お菓子は用意してないんだ。というか、ハロウィンには早すぎないかな」

 壁にかかるカレンダーの日付はまだ10月の中頃。どこかの商店街のイベントではあるまいしハロウィンと言うには先走り過ぎる。

「仕方ねェだろ。忙しくて休みが取れなかったんだから。つか、アイツの悪意を感じるぜ。オレは」

 大きな溜息をつきながら、壁にせり出した僅かな凹凸しかない壁の縁を足がかりに軽やかにかぼちゃお化けは龍麻の室内へと飛び込んでくる。そんな大きな頭でバランスすら悪いだろうに、足元にわずかなぶれすらない。
 九龍と言う名の少年と間違われ、閉ざされた高校に送り込まれた。本人が現われても学校から出るに出られずまったりとしている龍麻を待つ間にと始めたバイトに追われているらしいかぼちゃお化けは大きな溜息をつくと、龍麻のベッドへと倒れこんだ。

「疲れてるなら、バカなことをしなければいいのに」
「ばーか、忙しくてあんまり逢えねェからこそ。こういうイベントが大事なんだろ。それにご褒美もあるしな」

 んーっと身体を伸ばした後、かぼちゃお化けがオレンジの頭をすぽんっと抜き取り、頭だけをごろりと部屋に転がす。ころころとかぼちゃの頭は転がり、ぽつんと部屋の真ん中で止まる。なかなかシュールな光景だ。九龍がこの場にいたらなぜか楽しそうに騒いで大変だろうが、今この部屋にはそれを気に留める人などいない。
 邪魔そうにそれを軽く避けながらベッドへと近づいた龍麻の手がかぼちゃお化けの本当の顔に触れた。

「ご褒美?」

 龍麻の口元に妖しく笑みが浮かび、かぼちゃお化けの中から現れたどこかやんちゃな子供めたい雰囲気を残すすっきりとした顔立ちの青年の茶色の髪を柔らかく撫でる。

「トリックオアトリート。お菓子をくれないならいたずらするぞ」

 節くれだった指が龍麻の頬を撫でそのまま身体を引き寄せる。ギシッと高校の寮に備え付けのベッドが想定外の二人分の重みに悲鳴を上げた。

「お菓子を上げたらしないのか?」
「そんな訳ねェだろ? お菓子なんかよりひーちゃんの方がずっと美味そうだ」

 甘く熱を持った手が龍麻の身体を引き寄せ、龍麻はそのかぼちゃお化けの中身の上へとゆっくりと重なり合った。

     ※   ※   ※   ※   ※

「龍麻さん。龍麻さんっ」

 まだ薄暗い時間、どんどんと乱暴にドアを叩く騒がしい音にだるい身体を持ち上げる。

「ふぁ……何?」

 寝巻き代わりの浴衣を素肌の上に適当に纏い躊躇もなく扉を開ける。

「龍麻さんっ。お化けが出たんですよっ」

 目をキラキラとさせて、なにやら怪しげな扮装をした九龍が飛びつきそうな勢いで話しかけてきた。

「お化け?」
「そうなんですっ。オレが寮に戻ろうとしたら妖しく笑うかぼちゃがこーっマントを靡かせて校舎から校舎に移動してたんですよっ。皆に聞いても誰も外に出てないっていうし、一般の生徒であんな珍妙なことをする人もいないでしょうから絶対あれハロウィンの妖精ですよっ」
「…………あーっ、あー、そう……かもね」

 かぼちゃはともかく、マントまで着てたのかと苦笑が浮かびそうになるが、説明するのもだるいので適当に相槌を打つ。

「甲ちゃんと今から探しにいくんです。龍麻さんも一緒にいきませんか?」
「悪いけど、昨日は遅くてね。今度にさせてもらうよ」

 にっこりと悪びれることなく言い切る龍麻に残念そうにしながらも、九龍は皆守の部屋へと駆け出していくのだった。


END




オンリーで配布したSSです。黄龍ネタ



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