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□雨宿り
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※雨宿り※




「あれっ……」

 いつものように何気ないことを話しながら歩いていた龍麻はポツンと頬に冷たい雫の感触を感じて足を止めた。

「ひーちゃん、どうした?」
「雨が降りそう……だよ。京一、傘持ってる……」

 ちらりと龍麻が京一へと視線を向ける。と、すぐにふぅっと大きな溜息を漏らした。

「わけないか……」
「て、おい。聞く前から結論だすなよな」
「なら持ってる?」
「持ってるわけねェだろ」

 自分で突っ込んでおきながらもどうどうと胸を張る京一に龍麻は苦笑を浮べる。

「そうだろね。じゃあ、走る?」
「いや、もう無理だろ」

 京一が空を見上げる。と同時にざーっとバケツをひっくり返したような勢いで水が振り落ちてきた。

「っ……もう、京一がバカ言ってるからっ」
「おいッ。俺のせいかよッ」

 相変わらず互いに怒鳴りあいながらも足早に人気のない雨に霞む道を走り続ける。
 しかし、前を見るにも横を走る互いを見るのが精一杯の視界では振り返るのもけっこう危険だ。
 ずいぶん気温が暑くなってきていても雨の滴が滑った後は肌寒く。しっとりと湿ったシャツが肌に張り付いて気持ちが悪い。

「あっと、ひーちゃん、こっち」

 京一が龍麻の肩を抱き寄せ、道の脇に入り込む。潰れた店の前、庇が突き出した場所は薄暗いが、その分雨は防ぐことができるようだ。

「ふぅ……パンツまでぐしょぐしょだよ」

 濡れたワイシャツを引っ張る龍麻の横で京一は妙に静なまま言葉がない。

「京一?」

 不思議に思い声をかけるが返事はなく、変わりのように京一の肩にまわったままの腕が龍麻の身体を抱き寄せる。

「っ……」
「なんか……ひーちゃん、エロくねェ」

 ぽつりと首元で囁かれる吐息が妙に熱くて、龍麻は寒く冷えていたはずの身体がブワッと熱くなった気がした。

「京……」

 首に触れられているわけではなく、触れそうな距離で囁かれているだけだというのに、外の道端だという普通の常識すら忘れそうになるほど鼓動が早い。

「シャツが透けててさ……エロイ……」
「濡れてるのはお互い様だろっ」

 妙な雰囲気を誤魔化そうと怒鳴りながら京一を見た龍麻は身体が固まるのを感じていた。
 いつもと変わらないシャツを腕まくりしただけの京一の身体が濡れたシャツにうっすらと透けて、筋肉の形すら見えていた。
 色っぽい……という言葉がぽんっと頭に浮かんで慌てて首を振って否定する。

(京一と同じってヤバイだろ。それって)

 パニックぎみに頭の中で言葉を捜していたせいで妙に無防備になった龍麻の胸元に京一の指が滑る。

「ここ……も透けてる」

 ツプッとシャツの上からシャツをうっすらと押し上げている突起を潰される。

「くっ……」

 ゾクリと腰から頭へと甘い痺れが走りぬける。
 バカ、とか、なに考えているんだ。とか言わなければいけない言葉は山ほどあるのに真っ赤になって震える龍麻の唇からは小さなうめき声しか零れない。
 部屋ではなく、開かれた道端が二人だけの空間になったかのように互いの鼓動がうるさいほど耳に響いた。

「……抵抗……しないとヤベェぞ」

 ぽつりと苦しそうに零される京一の言葉にごくりと喉を鳴らす。
 わざわざ言われなくてもそんなことは嫌というほど感じている。今すら悪戯な指は龍麻のシャツの上から胸の突起を弄り、腿に当たる熱い感触は携帯ではありえない硬度と角度で龍麻に擦り付けられる。
 ザァーッと雨の音が煩くて人の気配を感じないのもその重苦しい空気を増長させていた。

「……す……るのか?」

 妙に掠れた声が龍麻の唇から漏れる。
 いくらなんでもと思いながらも聞いてしまったら、それは龍麻もその気になっていると教えるだけの合図でしかなくなる。

「そんな聞き方して俺がしねェって言うと思うのか?」

 にやりと妙に熱っぽい口調と共に、ぐっとさらに路地の奥へと龍麻の身体が引き込まれる。

「っぅ……」

 低く漏れるうめき声。

「ぁふ……ぅ、くっ……」
「ひーちゃん」

 ガタリと鈍く古ぼけた塀が立てる音や囁くように響く声が切れ切れに雨の水音に飲まれて消えていく。

「ッぅ……京……っ」

 高く声が掠れて消えて……数刻の無音の後、二つの影が抱き合うようにしたまま路地から姿を現す。

「……うーっ、信じられない。外って……外って」

 まだ雨が振り続けているというのに雨を避けられる路地裏にいることすら耐えられないといったようすで、歩き出す龍麻の腰には当たり前のように京一の腕が絡む。
 すでに渇き気味のシャツが止まない雨に徐々にしっとりと染められていく。

「ひーちゃんもけっこう乗り気だったじゃねェか」
「っ……あれは、京一が変なことを言い出すからっ」
「変なことを言うだけであんな感じになるなら、いくらでも言ってやるぞ」

 冷たい雨の下、肌は冷えることなく熱を纏い、まだ足りないと龍麻の肩を抱く腕に力が篭る。

「ばっ……か」

 かぁっと顔を紅くしながら低く吐き捨てながらも、京一の触れているところから龍麻の身体へも熱がじょじょに染み込んでくる。
 恥ずかしいと思いながらも嫌だと思えないことが嫌だなと思いながらも龍麻は肩に触れた京一の手の甲へと自分の手を重ねる。
 熱い手がじんっと身体を痺れさせ、雨で冷えることすら許してくれない。溜息交じりに笑いながら、ちらりと周りを見回した龍麻は僅かに京一の唇へと唇を掠らせた。

「……後は部屋で」
「……しゃーねェな……」 

 仕方なさそうに口にしながらもにやりと笑った京一の腕がさらに龍麻の身体をきつく抱きしめた。






魔人オンリーで配布したSSです。



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