白西
□理由
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白石side
西「なぁまいやん、どうしよう…?」
最近なぁちゃんはとある人物の事で悩んでる。
それはファンの1人のことだが、なぁちゃんが握手会で「付き合って!」と言われて「乃木坂を卒業したらなぁ〜」と返したことに端を発する。
普通の人ならそんな言葉を真に受けたりしないのだろうが、残念ながらそのファンの人は普通という枠に収まる人物ではなかったのだ。
「卒業したら。」そう答えた握手会の日から、なぁちゃんはストーカー紛いの行為を受けていた。
しかしながら、そんなのはなぁちゃんに限った話ではない。他のメンバー、もちろん私のファンにもごく僅かではあるがそういった人はいる。私たちは事務所の人に対処してもらっていて実害は無い。
だからなぁちゃんに相談されても私はそれほど真剣に考えてはいなかった。
「なぁちゃんも事務所の人に対処してもらえば良いでしょ。」
そう考えていた。
それから少したち、メンバー全員で撮影の日。終わった人から帰っていく。
撮影自体は順調で、私は私の1つ前に撮影をしていた沙友理ちゃんと帰ることにした。
他愛もない話をしながら帰っていると、突然
??「嫌っ!!来んといてっ!!」
そんな聞き覚えのある声が聞こえてきた。
白「なぁちゃん…?」
沙友理ちゃんも気づいて目を合わせる。
なぁちゃんの何かを拒絶するような声に、私は数日前に相談されたことを思い出し、声が聞こえてきた方に思わず駆け出した。
声が聞こえた高架下にいたのは、怯えきった顔で後退りするなぁちゃんと、こちらに背中を向けてなぁちゃんに迫る男の姿だった。
男「ねぇ、なぁちゃん。いつになったら僕と付き合ってくれるの?なぁちゃんも僕のこと好きなんだよね?」
西「嫌っ…。怖い…。助けてっ…。」
弱々しい声で助けを求めるなぁちゃん。
松「ヤバい奴なんちゃう!?警察呼ばんと!」
私を追いかけてきた沙友理ちゃんが慌てて携帯を取り出そうとするが、今から呼んでも間に合わない。
なぁちゃんを助けなきゃ!
そう思うと咄嗟に体が動いていた。
なぁちゃんに迫ろうとする男の背中に思いっきりヒールで飛び蹴りを食らわせた。ヒール部分が男の背中にめり込み、男は断末魔のような悲鳴をあげて倒れる。
男「あぁっ…。くっ…。」
私を見て、私の背中に逃げるように回り込んできたなぁちゃんを後ろ手に抱く。
白「あんた…七瀬に何してんのよ!!」
全体重を込めたヒールの一撃の威力はかなりのものだったらしく、男はまだのたうちまわっている。通りすがった男性に事情を説明して取り押さえてもらう。
その間ずっとなぁちゃんは私の背中にしがみつき、小さく震えていた。
しばらくすると、
松「こっちです!早く!」
沙友理ちゃんが呼んでくれた警察の人が到着し、男は無事連行されていった。
松「なぁちゃん!大丈夫!?怪我はない?」
西「うん。まいやんが助けてくれたから。」
松「そうやな!まいやんはなぁちゃんのヒーローやな!」
白「腕力じゃ絶対敵わないのにね。でもそんな恐怖よりも、なぁちゃんを助けなきゃ!って思ったら勝手に体が動いたんだよ。」
そんなことを話していると、
警「すいません。詳しく事情を聞きたいんで、もしよろしければご同行をお願いしたいんですが。」
松「なぁちゃん、大丈夫?行ける?」
西「大丈夫。行く。」
そう言って警察の人と一緒に歩いていく沙友理ちゃんとなぁちゃん。
少し遅れて私も2人の後を追おうとしたら目の前のなぁちゃんが不意に振り返った。
西「まいやん。助けてくれてホンマにありがとう!めっちゃカッコ良かったで!」
そう言って突然私に抱きついてくるなぁちゃん。
西「それに、初めて七瀬って呼んでくれたのも嬉しかった…。」
私の胸に顔を埋めて蚊の鳴くような声ではあったが、私には確かに聞こえた。
西「よし!行こ?」
私から離れ、先に歩いていくなぁちゃん。
しかし私はなぁちゃんに抱きつかれたことで何故か心臓が早鐘を打っていて、その場から動くことができなかった。
なぁちゃんを助けるために自分よりも腕力がある相手に迷わず向かって行けた理由。そしてなぁちゃんに抱きつかれてドキドキした理由。
私がその謎を解いたのは、もう少しだけ先の話だった。