白西
□恋の花
1ページ/1ページ
白石side
この出会いはきっと運命だってそう思えた。
姿が見えるだけで高鳴って止まないこの胸も、会えない時に感じる泣きたくなるほどの切なさも、私のものにしたいと思ってしまう衝動的な独占欲も。
全て七瀬が私にとって初めての人だった。
だから余計に思い通りにならない現実の厳しさに目を背けたくなるんだ。
好きなら告白すれば?なんて皆は簡単に助言してくるけどどうやって伝えたら良いの?
もし告白して気持ち悪がられたら…。
今は友達として側に居られるんだからそれで充分じゃない…?
いつもそんな弱気な私の心が顔を出して告白する機会を逃してきた。
今日は七瀬と2人で外での撮影。
西「温かくなったから外での撮影楽しいなぁ!」
七瀬が無邪気に私に向かって微笑む。
白「そうだね。」
七瀬の笑顔を見るだけで触れたくなって、その気持ちを隠すように本心とは裏腹な素っ気ない態度をとってしまう。
そんな自分に本当に腹が立つ。
ちらりと七瀬を見るとさっきとは打って変わって寂しげな視線を花に向けていた。
白「七瀬…?どうしたの?」
七瀬は何を考えてるのか読めない。だからこそその瞳には何が写っているのか裏側を覗いて見たくなる。七瀬の目には私はどんな風に写ってるんだろう?
西「なぁまいやん。」
白「ん?」
西「この花って知ってる?」
そう言って七瀬が指差したのは撮影地の花壇に咲いていた、どこにでもありそうな小さな花。
白「ううん、わかんない。」
西「これな、リナリアって花やねん。春が来ると咲くねんで。」
白「そう…」
花に興味が無いわけじゃない。でもどうして七瀬が急にこんな話をしだしたのかがわからない。
西「この花はな、ななやねん。」
白「え?」
西「リナリアの花言葉…」
そう呟くように言って七瀬は私の横を小走りで抜けていった。
白「リナリアの…花言葉?」
七瀬が言い残した言葉が気になって携帯で調べると雷に打たれたような衝撃が走った。
──リナリアの花言葉──
『私の恋を知ってください』
白「えっこれって…」
慌てて振り返ると少しだけ離れた所で七瀬が立ち止まってこっちを見ていた。
白「七瀬、これどういうこと?」
西「どういうことって…。全部言わんと分からんの!?」
ちょっぴり不満げに頬っぺを膨らませて軽く睨まれる。
西「書いてある言葉通りの意味やで。…もう!恥ずかしいから言わせんとって!」
軽く膨らませた頬っぺを今度はうっすらと紅く染めてそっぽを向く。
恥ずかしがり屋の七瀬がここまでのことをしてくれたんだ。
ここで決めないと女じゃない!
そう自分に言い聞かせて七瀬に歩み寄る。
白「七瀬、ありがとう。」
西「……」
白「告白して避けられるようになったらどうしようって思ってて言えなかったけど、ずっと好きでした!良かったら私と付き合ってください!」
そこまで一気に言い切って目を閉じて返事を待っていると、
白「っん…。……!!??」
唇に柔らかい何かが触れた。
目を開けると目の前に七瀬の顔。
西「ホンマ、遅すぎやで。」
それだけ言うと、まだ唇に残る感触に硬直してしまっている私を置いて七瀬は歩いていく。
白「ま、待って七瀬!」
追いかけようと走り出した私に、振り返って微笑み掛けてくれる私の恋人になった七瀬。その笑顔につられて私も笑顔になる。
そんな私と七瀬の恋の始まりを祝うかのように春の風が花壇のリナリアを揺らした。