神様の名前

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僕は夢を見る。
机を挟んだ向こうに「彼女」がいる。
その机には焼きたての食パンや、サラダなどが置いてあったが、手を付けようとは思わなかった。
そして、「彼女」は決まってこういった。

『私はだあれ?』
それは僕が聞きたいのに。
でも、夢の中の僕は「彼女」が誰か知っていた。

「あなたは・・・・。」

いつもここで目が覚める。
「彼女」が誰なのか分からない毎日。
でも、怖い夢じゃないから同じ夢を何度も見るのは苦じゃない。
もう、「彼女」が誰なのか考えることはとっくの昔にやめてしまったのだけれど。
僕が上半身を起こすと、足を挟んで両端に黒犬と白猫が鳴いていた。

「ん、おはよう。ロンア、アルス」
この子たちは僕のおばあちゃんが飼っていた二匹。
おばあちゃんは随分前に居なくなってしまった。
左耳の後ろに青くて大きいミズアオイの花を付けた白猫、ロンア。
首から鍵穴の付いた錠をかけた黒犬、アルス。
その二匹の頭を撫でると、アルスはワンワンと元気に吠え、尻尾をふり、ロンアはなで終わってからにゃあと小さく鳴いた。
そしてベットから起きあがると、朝の支度を始めた。
髪を解き、歯を磨き、朝ご飯を食べ、食器を洗い、洗濯物を干し、靴を履く。
外へでると、羊や牛が牧草を食べていた。
その子たちを通り過ぎた所に小さな菜園がある。
燦々と照らす太陽に負けじと青々とした葉に笑みを浮かべながら、水をやる。
この生活は今を思えば懐かしい話になってしまったのだが。

その日は市場に買い物に出かけていた。
市場の店主とは仲がよく、よくおまけといろんなものを頂いた。
お返しできるものが何もないとこが歯がゆいがそれは仕方がない。
自分の所で作っているものは、生活できる最低限のものだけなのだ。
俗に言う「困窮者」というやつなのだろう。
別段、苦だとは思ったことは一度もないが。
そう思いながらも買い物をしていると、

「あんた、ソレルだろ?」
耳にヘッドホンを当てている青年から声をかけられた。

「は、はい・・・、そうですけど。」

「白猫を見なかったか?」
そう聞かれた。
この地域は白猫は珍しくない。

「いいえ、見ていませんけど・・・。」

「あんた違うわよ、青い花を付けた白猫よ。」

「ロンアのことですか?」
青い花を付けた白猫なんてロンアしか知らない。

「そんな名前だったかしら?・・・まあいいわ、その子に会いたいの、案内してくれる?」
笑みを浮かべてお願いしてきた。
悪い人ではなさそうだけど、見ず知らずの人を家に招き入れるのもどうかと思う。
返答に困っていると、ペストマスクをつけた少女がてててっとぼくの方に寄ってきた。

「お兄ちゃん、見せて。」
その少女がそういうと僕の腕にしがみついた。
何をやっても離してくれはなさそうなので、家に連れて行くことにした。
手を出さない事を条件にして。

「ただいまー。」
誰もいない家に僕の声が木霊する。

「あんた、こんな小さい家に住んでんのねー。」
派手な服を着た人が自分の家の中を見回す。
すると、奥からロンアがにゃあと鳴きながら、向かってきた。

「ただいま。」
あの子はあまりなでられることは好きではないが、足首をすりすりとこすりつけるのが好きらしい。
いつも帰ってきたらすぐにしてくれるのに、その日は、そのまま連れてきた人たちの方に向かっていった。

「ロンア、どうした・・・?」
いつもとは違う行動に疑問を抱いた僕は後ろを振り向くと、彼らはロンアに対して、跪いていた。

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