短編
□手紙
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「はぁ、彩、この手紙はなんなんよ…」
小さくつぶやく。
看護師さんから渡された手紙、それは彩が亡くなる前に書いたのだという。ガンが発見されたときには既にいろんなところに転移していて、一週間で死んでしまった。なのに、いつこんな手紙書いたんよ。しかも中身が
「靴箱→洗面台→キッチン→私の椅子→山田の椅子→ベッド」
なんて。
なぁ彩、これうちしってんで。
彩がマンガ読んでるときにうちが隣でケータイ小説読んどって、彩に「これほんまに感動するねんけど」って言ったやつやろ。彩は「ふーん」しか言わへんかったのに聞いててくれてたんやな。
家に帰ってからさっそく指示通りに動く。
まずは靴箱。天板のうらにくっつけてあった。
手紙を見たい気持ちでいっぱいけど我慢して次へ。
次は洗面台。下の棚のところにあった。こんなところふだんあけへんからなぁ。
その次はキッチン。キッチンは広いからなぁ時間はかかったけど、棚の上から発見。
それから、彩の椅子。椅子なら裏しかないやろ。ほら、予想どうり。
ほんでうちの椅子やろ。これも椅子の裏で難なく発見。
最後は…ベッドかぁ。
ベッドやったら下やんな。…あった!
一筆箋とリボンのかかった白い箱?
とりあえず手紙を読みたい。
全部広げて並べてみた。
「ありがとう」
「いままでずっと隣におってくれて」
「しあわせやった」
「てがみでしか言えなくてごめん」
「まじで大好きやからな」
「すぐにじゃなくても私のこと忘れてええから幸せになってな」
彩からの熱いメッセージ。
そして、いくらあほな私でもわかるで。
それぞれの手紙の最初の文字つなげたら
「あいしてます」
これ、偶然ちゃうよな。
彩、私も愛しとるで。
リボンのかかった箱から出てきたのは、なんと指輪やった。そういえば彩もこの指輪ネックレスにしてつけとったな。
きっと自分が長くないこと気づいてたんやろ?
ありがとう、彩
幸せすぎて当分忘れられなさそうや。
…いや、一生忘れへんし一生愛してるで