絶賛の唇

□アイスと月と熱帯夜
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夏の夜、雲一つない宵闇に、煌々と光る満月は空高く、人々の眠る街を優しく照らしている。

午前1時。

重く湿った空気は昼間の暑さを引きずって、期待した風も生ぬるい。
歩く二人の総身にはベッタリと汗がまとわりついている。


「腹へったぁ」
ドンへが小声で呟いても、隣を歩くウニョクは独り言と決めつけて返事もしない。


二人で遅くに始めたテレビゲームに飽きた頃、どちらが言い出したのか、ふい襲ってきた空腹に耐えきれず、睡眠を諦めて徒歩5分ほどのコンビニへの帰り道。

自宅までの近道は人目を忍んだ住宅街。
月明かりだけでは物足りない、通り過ぎる人の顔もはっきりとしないほどの暗さに安堵する。
等間隔に立ち並ぶ街灯だけが頼りな夜道だ。

街灯の明かりを通りすぎては、暗闇へ。
そしてまた明かりへ。

暗闇に足を踏入れる度、二人の心はざわついた。
二人を世間から切り離し、この身を闇に隠してくれるような、秘密めいたことも今なら誰にも知られない気がしてしまう。

そう感じているのはウニョクだけ、ドンへだけ、じゃないよね。

互いの心を探るような沈黙。

じわりと早くなっていく鼓動が耳に届き、自身の心持ちの変化に動揺し始める。
総身が心臓になったようだ。

息の荒さがばれてしまいそうで、ドンへはぐっと唾を飲み込んだ。

ドンへはそんなモヤモヤした気持ちを変えようと無理に話を切り出すが、とりとめもない話はすぐに途切れて、返事もしないウニョクによって沈黙が訪れる。

どちらかが示し会わせたわけでもなく無言で、顔を見ることもなく歩く足先を、街灯を見ているのに。

隣り合わせた小指がゆるゆると近づき、触れ合い、気遣う言葉もなく、ゆっくり、探るように互いの爪が指が絡み付く。

そして、たどり着いた手はぐっと硬く重なりあった。


ウニョクは背徳感で不安な顔をした。


ー誰もいないよ。だから今だけは恋人のする当たり前をやらせて。
ドンへは暗闇が続くことを願ってウニョクの手を強く握った。

そしてウニョクの空いた手を捕まえるため身を翻す。

こんな夜中だ。声を出せないウニョクは目の前で自身の両手を掴むドンへに驚き、目を丸くして歩みを止めた。
 
力強いドンへの腕に引き寄せられ、少し前につまづいた。

「ちょっと!」

霞むような声でドンへを叱る。

「ちょっとだけ」
眉を下げてじっとウニョクの目を見据えたまま、その薄い唇を手に寄せた。


ウニョクは動揺しながらも口許から目が離せなかった。 

そっと顔を出すドンへの舌。
何度も見てきたから暗闇でもわかる、ドンへの舌がいま濡れて真っ赤だということ。

ゆるりとドンへの舌がウニョクの手にさらに近付いた。

ーだめ。こんなところで。

ーだめ、だめ!

やっと手に入れた大事なものが!

ウニョクは捕まれた腕に力をいれた。

「やめろよ!」

住宅街に響く声にドンへは動きを止めた。
のもつかの間、またウニョクを掴む手に力を入れた。

「ちょっとだけだから」

ウニョクの抵抗むなしく、いたずらな顔でドンへは下から上へ勢いよく舐めた。舐め続けた。

「あぁ!もうっ!」

諦めたウニョクはそのままドンへの口許にソフトクリームを差し出して思う存分舐めさせた。

「あのとき何度も聞いたじゃん!」

期間限定ソフトクリーム、次いつ買えるかわからないから食べた方がいいって!

「あのときはまたすぐ買いに行けるような気がしたんだよ」

ーでも、またこんな風にデートできるかわからないって思ったら一緒に食べたくなっちゃった。

ーそれにさ、ウニョク一人で食べてたら話し相手がいないじゃん。つまらないよ。

「なにをいまさら。半分以上食べて、一緒じゃないだろー」



民家の窓が開く音。
言い合いは自宅に戻ってから。
二人は顔を見合わせて急いで帰路についた。

溶け出したアイスはドンへが自宅につくまでに完食した。


またいつこんな時間がとれるのだろう。
いつか必ずもう一度この道を二人で。
その時は2つアイスを買おう。
そしてなにを話そう。

END
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