マクロスF部屋2
□もどかしい、10のお題
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夕焼けに染まるグリフィスパーク。
何となく訪れたそこには、思わぬ先客がいた。
先客、アルトはいつぞや彼の前で初めて歌を披露した時のように、気持ちよさそうに風を受けて。ただただ、空を見つめていた。
そんな彼を見て、ついさっきまで彼に偶然会えたという嬉しさとか胸の高鳴りは、どんどん緩やかになっていく。
話しかけようとして挙げかけた腕は行き場を失い、名前を呼ぼうとした喉は、ひゅう、と音を立てて静かになった。
すぐに彼を、名前を呼べばきっと振り向いてくれるだろう。
でも、なぜか、できない。
アルトが、
ひどく遠い人に見えた。
ねえ、
あなたは今、何を想っているの?
誰を 想っているの?
彼の綺麗な顔が穏やかな色に変わるたび、胸がぎゅう、と締め付けられる。
ああ、あなたの想いの中に、ほんの少しだけでも。
わたしがいたらいいのに。
少し強い風が、頬を霞めた。
彼の蒼くて長い髪が揺れる。
優しい、柔らかな表情が、わたしの視界に入る。
ぎゅう。
また、胸が締め付けられる。
苦しい。せつない。
どうして、こんな気持ちになってしまうの。
橙色に染まった空が羨ましい。
彼の突き刺さりそうな視線の先には、必ず空が広がってる。
わたしに、気付いて。
強くなり始めた風に願う。
遠くに、行ってしまわないで。
理由のない不安や焦りに、喉がからからになる。
振り向いてくれたら、わたしは。
こんなわけのわからない不安、なくしてしまえるから。
おねがい。
スカートの裾がしわになってしまうぐらい、握り締めた。
「………ラン、カ?」
低くて優しい声が、耳に甘く響く。
勢いよく顔を上げると、その先には彼の驚いた顔。
「ふ、ぇ」
「なっ……!おい、どっ、どうしたんだよ!?」
彼はわたしに近づいてきて、ものすごく焦ってる。当たり前だ。後ろを振り向いたら見知ったわたしがいて、何故かいきなり泣きはじめるんだから。
「ど、どっか痛いのか?それとも」
「あっ、ごめ、ちが…」
ちがうの、そう呟いて。訳もなく流れてくる涙を止めようと一生懸命擦ってみても、まったく効果はない。
ごめんね、と心底困ってしまっているだろう彼に消え入りそうな声で呟く。
困らせたくなんて、ないのに。
「…………何で泣いてるかわかんねぇけど、」
焦ったような、でも少し優しい声が降ってくる。
わたしが勝手に泣いて、困らせてしまっているのに。彼の低い声が心地良い。
不謹慎だなぁと、一人ごちた。でも、聞いていたい。
「……お前に泣かれると、なんだ、その」
どうすればいいかわからなくなる
力無く、呟いた言葉に。わたしは目を見開いた。
どうして、と問いかける声は、詰まって出てこない。
そんなわたしの頭を、彼は不器用な手つきで、でもやっぱり優しく撫でる。
「泣くなよ」
彼に優しく触れられて、嬉しいはずなのに。
この胸はまた、どうしようもなく痛む。
まるで小さい子にするみたいに、大きな手が触れること。それが痛くてしょうがない。
「……っ、ふ、えぇ」
再び声をあげたわたしに、彼は慌てて更に頭を撫でる。
大きな手が動く度に、胸が張り裂けてしまいそう。
ちがうの、わたし
あなたの心に、「女の子」としていたいの
1.理由もなくただ切ない そういう気持ちになるのがもっと切ない
(ただ、わかったのは)
(わたしがあなたにどうしようもなく、恋焦がれているということ)
END
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