マクロスF部屋2
□9.あたしからは見えないもの あなたからは見えないもの
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教室にいないなあ、と思ったら、身体が席を立って飛び出していた。
彼が授業に遅れて来るなんて、珍しい。なにかあったのかな、どこか具合悪いのかな、なんて、ぐるぐると頭の中だけが先走って悪いことを考える。
保健室に行ってみたものの、そこはもぬけの殻で、保健医もどこかへ出ているようだった。
もしかして、もしかすると…さぼっているのかもしれない。窓から外を見れば、雲ひとつない青い空。今日は見事な快晴だ。
そこまで考えて、ランカは上階に繋がる階段に向かって駆け出した。
「…やっぱり、ここにいた」
ランカの予想は当たって、屋上のドアを開ければ先程よりも近く感じる青空と、見慣れた紙飛行機と、そしてアルトがいた。
「…ランカ?」
ランカがこの時間にここにいることに驚いて、目を見開いて入口に立つ彼女を見つめる。
「……そっち行ってもいい?」
開けたドアに隠れるようにして呟くその姿はまるでリスか何かのようで、アルトは小さく笑った。
そんなに入りずらい雰囲気でもまとっていたかと反省しつつ、好きにしろよとお決まりのの台詞を彼女に向けて発した。
するとランカは嬉しそうに、こちらに駆け寄ってきた。しっぽが見える気がする、のは気のせいではないと思う。
「えへ、さぼっちゃった」
「あーあ、大丈夫なのか?ただでさえギリギリのくせに」
「ひっどーい!大丈夫だもんっ………たぶん」
「たぶんかよ」
「いいのー!」
「まったく…まあ、俺もさぼりだからお前のこと言えないけどな」
そう言ってまた空を見上げるアルトに、ランカも続いてみる。
雲のない、青い青い空。
「…ねえアルトくん、どうしてここにいたの?」
もう答えはほぼわかっている、でも、聞きたかった。私の思考回路が正解だったのを、本人の口から聞きたい。
「こんないい日は、屋上でさぼるしかないだろ」
「…ふふ、やっぱり!」
「なんだよ、やっぱりって」
「なんでもないよー」
ランカは満足げに微笑むと、思いっきり伸びをしてコンクリートに寝転がった。それをみて少し驚くアルトに、昔からやってみたかったと告げて。
「空…きれいだね」
「……偽物だけどな」
ちょっとつまらなさそうにして、アルトはランカの隣に寝転がった。少し近くなった距離にどきりと心臓が跳ねる。思わず目を逸らして、また広がる青を見つめた。
「それでも、偽物でも、アルトくんがきれいだと思ったなら、それは本物だよ」
なんだか今すごく大それたこと言ったんじゃないか、と思った時にはすでに遅くて、アルトを見てみればそれはそれは驚いた顔をしていた。豆鉄砲を喰らったような、というのはこういうのをいうのだろうか。
「え、あ、えっと、あの……」
「………ぷっ」
何を言ったらいいかわからなくてしどろもどろになっているところを、笑われた。あんなに、あんなに驚いた顔をしていたのに、笑われた。
「わっ、笑うなんてひどいよアルトくん!!」
「い、いや、ははっ…、悪い…ふっ」
「もー!笑わないでよー!!」
耐えられず起き上がってアルトに覆いかぶさるようにして抗議する。それが思っていた以上に距離が近くて、それだけで怒っていたのも忘れて、かちりと時が止まってしまう。
「……っ、ご、ごめんね!」
慌てて離れようとしたら、突然腕を掴まれた。
今すぐにでもこのほてった身体を離したいのに、それは叶わない。
「……あ、いや……その、違う、んだ」
「え?えっ?」
言い淀むアルトはよく見ると顔が赤くなっていて、なんだか少し安心した。赤い顔が自分と同じ。
なかなか次の言葉を発さないアルトをじっと見つめ、静かに待つ。するとゆっくり息を吐いた後、小さく口を開いた。
「…そういう、考え方もあるんだって、思ったんだ」
「そういう…?」
「本物は本物だけだって、思ってた。今だって、すぐにでも果てのない本物の空を飛びたいって思ってる。でも…」
静かに、かみ締めるように話す低い声に、涙が出そうになる。一度言葉を止めた彼の綺麗な笑顔に、胸が苦しくなった。
「偽物の空でも、綺麗だって思う。こうして屋上でさぼってるのが何よりの証拠だしな…」
「アルトくん…」
「ありがとな、ランカ」
「そんな…私、何もしてないよ」
「…そんなこと、ねえよ」
きっと自分だけじゃ、気付けなかった。心から思えなかった。初めて、偽物でも綺麗だと思える。
青い青い澄み渡る空と、隣に、きみがいる。
「でも、なんか寂しいなあ」
「何がだよ?」
「だって私、本物の空って、想像しか出来ないっていうか…具体的にどういう感じかわからないもん。だから、ちょっと寂しいかなあって」
「…連れてく」
「え?」
「……っだから、連れてってやるよ、本物の空に…俺だって、母さんに聞いただけだから、理想でしかないのかもしれないけどな」
「…う、うん!行きたい、とっても!!でも私…で、いいの?」
必死に頷いて目を輝かせるのに、やっぱりどこか消極的なランカに、アルトは少し呆れながらも笑って、ランカの白い額を指で弾いてやった。
「ひゃっ!」
「…ばぁか、一緒に行きたくない奴を、わざわざ誘うかよ」
「……あ、そっか…………ええっ!?」
「何をそんなに驚いて………………あ」
「……………っ」
「……い、いや!!深い意味とかそういうのはなくて、だな、」
しどろもどろになって、結局沈黙になる。
はずかしくって嬉しくて、ごまかしたくて隠しきれない。お互い逸らしていた目が合って、どちらからともなく笑い出した。
「連れてってくれるの、楽しみにしてるねアルトくん!」
「…ああ、俺も、楽しみにしてる」
9.あたしからは見えないもの あなたからは見えないもの
(そして思い知る)
(きみとみる世界は、未来は)
(こんなにもうつくしいと)
END
アルトくん、ハッピーバースディ!